研究開始時の研究の概要 |
感性の神経学的なアプローチにはfMRIが用いられることが多いが, 経時変化を観察できないなどといった問題がある. 本研究では感性評価語である「柔らかさ」に着目し, 感性をもたらす神経基盤の解明を試みる. 具体的には視覚的「柔らかさ」, 聴覚的「柔らかさ」, 触覚的「柔らかさ」, 味覚的「柔らかさ」を感じている時の神経活動をMEG(脳磁図)を用いて解析することで, 時空間的な神経活動の共通性から「柔らかさ」をもたらす神経基盤の解明ができると考えている.本研究方法で感性の神経基盤を明らかにすることができれば, 「柔らかさ」に限らない, 様々な感性の発現メカニズムに飛躍的に迫ることが期待される.
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研究実績の概要 |
当初の研究計画では味覚刺激と「柔らかさ」の関係解明を実施する予定であり, 「柔らかさ」をもたらす味覚刺激の基本五味(甘み・苦味・酸味・塩味・うま味)の5つを明らかにするとしていた. 特に一般的に基本五味と呼ばれている5つの味を対象としてそれぞれが「柔らかさ」にどのように影響を与えているのかを明らかにします. 基本味はそれぞれショ糖, 無水カフェイン, クエン酸, 塩化ナトリウム, グルタミン酸ナトリウムを用い, いずれも先行研究に倣い蒸留水で濃度調整を行ったうえで提示することとしていた. さらに, 実験の実施結果およびこれまでの研究で明らかにした「柔らかさ」をもたらす, 4つの刺激を提示し, その状態の脳機能解析をMEGを用いて行うこととしていた. しかしながら, COVID-19が世界的に流行している2022年度において上述の研究計画を遂行するには実験参加者の安全確保の観点から困難であり, 実施を見送った. 一方で2021年度に計画していたVRゴーグルを用いた実験準備を進め, VRゴーグルを介して視覚刺激に対する柔らかさ評価を実施できるようなアプリケーションを開発し, Occulus Questへの実装が完了した. 開発したVRゴーグル用アプリケーションはHSB表色系における各パラメータを乱数によって選択し, 生成された色を視界全体に提示するものであり, 色が提示された後にテキストを介して印象評価を実施するものである. 印象評価は事前に設定した件数法によって評価することができ, 問題数や視覚刺激の提示時間は実験者が任意に設定することができる. さらに, このアプリケーションによってなされた評価の結果はcsv形式のデータでオンラインストレージとデバイス本体の記録媒体に保存される. このような機能を持ったデバイスとアプリケーションによって実験参加者を大学などの実験環境に招集せずに, 各実験参加者の暮らす空間において実験を実施することができるようになった.
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今後の研究の推進方策 |
日本国内においてCovid-19が5類感染症に移行したことを受け, 研究環境における人に対する実験の実施がCovid-19が流行する以前に近いクオリティで実施することができるようになってきた. このため, 2021年度, 2022年度に実施できなかった実験参加者に対する実験を早急に進める予定である. また, 2022年度に準備していた遠隔で実験が可能なVRゴーグルであるが, 対面形式であっても利用することができるため, 特に視覚刺激に対しての実験を試みる際は制作した実験環境を利用していく予定である.
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