研究課題/領域番号 |
21K17842
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分61060:感性情報学関連
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研究機関 | 兵庫教育大学 (2022-2023) 早稲田大学 (2021) |
研究代表者 |
緒方 思源 兵庫教育大学, 学校教育研究科, 講師 (50813573)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,160千円 (直接経費: 3,200千円、間接経費: 960千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2021年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | 人工知能 / AI / 絵画 / 感性評価 / 計算モデル / 画像特徴量 / Semantic Differential法 / 心理モデル |
研究開始時の研究の概要 |
近年、人工知能(AI)の発展を背景に、一部のAIの研究者が、絵画創造力をもつAIの開発に力を注いでいる。2018年10月のクリスティーズのオークションで、AIに描かれた絵画作品「E. Belamy」が4800万円で落札された。この価格は予想価格の40倍以上だった[Alleyne, A., CNN, 2018]。このことは、AI絵画の大きな経済的価値を示唆するだけでなく、AI絵画が人類の生活環境にどんな影響を与えるかという疑問も呈出した。本研究はこの疑問の回答に向け、AI絵画に対する人間の感性評価の心理構造の解明と、AI絵画の物理的特徴量が感性評価に与える影響を表現する計算モデルの構築を目指す。
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研究実績の概要 |
本研究はCreative Adversarial Network (CAN)というAIアルゴリズム[Elgammalら, 2017]により生成された絵画作品を研究対象とし、また、人々がAI絵画を使用する場面(即ち、応用場面)を次の三つに分類している:見ている作品がAIによるものであることを知らない場面(場面1)、それを知っている場面(場面2)、見ている作品の中にAIによるものが入っていることを知っているが、どの作品がAIによるものなのかは知らない場面(場面3)。本研究では、CAN絵画に対して人が持つ感性印象の心理構造(段階1)、及びCAN絵画の画像特徴量が感性印象に与える影響(段階2)の解明を目的とする。段階1では応用場面ごとに対して、感性評価尺度リストを作成するための実験(実験1)と、この尺度リストを用いてCAN絵画に対する感性印象を評価する実験(実験2)を行う。 2020年に研究準備として上述の実験のプロトタイプを実施した。2022年の半ばまでの間、新型コロナの状況のため、実験の実施ができなく、まず段階2を始めた。具体的には、デジタル画像処理の文献から画像の感性評価に影響できる画像特徴量を集約した。そして、上記の実験で用いられたCAN絵画の大域特徴量を計算し、絵画の嗜好度評価との関係を分析した。 2023年度においては、中学校の新しい学習指導要領で記載された情報教育の方針、及び美術科教育学の先行研究を参考に、本研究の成果を中学校の美術授業で活用することで、AI絵画を鑑賞する際の生徒の省察的思考を促進し、教師の指導案などの設計に寄与する可能性を理論化した。次に、段階1での実験を実施し始めた。2023年度内で全部の応用場面の実験1を完成した。テキストマイニングを通して各応用場面に適切な感性評価尺度を作成した。場面1の実験2も完成した。場面2と3の実験2は現在実施中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年の半ばまでの間、新型コロナの状況のため、研究補助者などの人件の面で、及び時間の面で、大規模な実験の実施が難しくなった。これらの原因により、段階2の実施を前倒し、段階1における実験の実施の先に開始した。 2023年度の研究進捗について、まず、中学校の新しい学習指導要領で記載された情報教育の改革の内容を踏まえて、本研究で解明することが、中学校におけるAI絵画の鑑賞と理解に関わる美術授業の効果向上に活用できることについて検討した。また、中学生が絵画に対する自分の理解や感想を省察的思考により評価するとき,その絵画の物理的特徴に注目する傾向を持つという美術科教育学の先行研究の結果に基づいて、本研究の成果が、AI絵画を鑑賞する際の中学生の省察的思考力の育成に有用であることを理論化した。例えば、AI絵画の物理的特徴が感性評価に与える影響に関する実験結果が、生徒をなぜ自分がAI絵画が好き/嫌いなのかについて振り返らせる学習活動の指導案や教材などの設計において実証的知見として活用できると考えられる。 次に、本研究の段階1における実験の実施を開始した。実験1について、すべての応用場面の実験は完成した。各実験は、参加者数が30であり、実験刺激が50点のCAN絵画であった。その後、テキストマイニング分析ツールを使用して実験1で得られたデータを分析し、各応用場面での感性評価に適切なSemantic Differential (SD)法の尺度リストを作成した。そして、これらのSD尺度リストを実験2のQualtricsプログラムに実装し、実験2の実施を始めた。2023年度内で応用場面1の実験2(参加者数:52名、実験刺激:200点のCAN絵画)を完成した。応用場面2と3の実験2は2024年度で完成する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度において、まず、段階1での実験2を全部完成する。各応用場面の実験2で得られる評価データに基づいて、実験参加者がCAN絵画に対して行った感性評価の心理次元(即ち、主要な因子)を因子分析により抽出する。また、応用場面間で感性評価の因子の構成を比較し考察する。 次に、段階2における計算モデルの構築と検証を完成する。まず、実験2で使用されるCAN絵画ごとに対して、文献調査を通して集約した、画像の感性評価に影響できると報告された画像特徴量を計算する。そして、それらの特徴量を入力とし、感性評価の各因子での得点を出力とする計算モデルを応用場面ごとに構築する。実験2で得られる感性評価データをこれらの計算モデルの訓練データとして各計算モデルをトレーニングする。モデルの構築方法について、感性に関わる心理関係の複雑性を考慮した上で、人工ニューラルネットワークなどの非線形的な手法を試す。また、モデルの解釈性の観点から、重回帰分析なども試す。さらに、各応用場面に対して、新しいセットのCAN絵画を刺激として用いて、実験2と同じ設計のもう一つの感性評価実験(実験3)を行う。実験3のデータを用いて各計算モデルの妥当性を検証・評価する。また、モデルの内部状態の可視化も工夫し、その挙動が応用場面によってどのように変化するのかについて芸術心理学や視覚心理学などの分野での知見と照らし合わせて検討する。
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