研究課題/領域番号 |
21K17843
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分61060:感性情報学関連
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研究機関 | 東京都立大学 (2022) 東京工芸大学 (2021) |
研究代表者 |
大保 武慶 東京都立大学, システムデザイン研究科, 助教 (60771889)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 半側空間無視 / 知覚-行為循環 / 認知モデリング / リハビリテーション / マルチモーダルセンシング / 構造化学習 / 知覚行為循環 |
研究開始時の研究の概要 |
半側空間無視は、大脳半球病巣と反対側の空間に対して応答、または視線を向けることができなくなる病態である。リハビリテーションが身体的なイメージを再形成するプロセスと考えると、患者の知覚や行為に関する経時的な変化を計測、分析することで、空間への認知特性に関するより詳細な解明につながると考えられる。本研究では、半側空間無視患者の知覚と行為の循環的な認知過程を定量的に計測・分析可能なシステムを構築し、計算論的な認知モデリングを目指す。
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研究実績の概要 |
本研究では、半側空間無視患者の動態を多角的に計測することが可能なマルチモーダルセンシングシステムを構築し、患者の知覚-行為循環の認知的過程をモデル化するための方法を確立することを目的とする。 今年度は、[研究項目1]として、昨年度開発した検査課題における注意対象物の出現パターンに関するリハビリプログラムの仕様策定および複数台のスマートデバイスを用いたマーカレスモーションキャプチャシステムの開発と適用可能性の検討を実施した。つぎに、[研究項目2]では、健常者を被験者とした予備実験より、検査課題中の被験者の行為を4パターン(探索、発見、リーチング、定位)に区分し、動作データからこれらの状態推定が可能なリカレントニューラルネットワークを構築した(意図システムの構築).さらに、被験者の注視点や姿勢、注意対象物との相対位置を入力としたリカレントニューラルネットワークを構築し、被験者の動作出力を予測可能なシステムを構築した(行為システムの構築)。また、[研究項目3]として、知覚-行為循環のプロセスを計算論的にモデル化するため、[研究項目2]において構築した各リカレントニューラルネットワーク間の相互依存関係に基づく構造化学習手法を提案した。ここでは、行為システムのリカレントニューラルネットワークに対して、意図システムの推定結果を入力として適用することで、被験者の意図に基づく動作予測を実現した。最後に[研究項目4]では、半側空間無視患者への実証実験を実施し、適用可能性やシステムの安全性に関する議論を行うとともに、データ収集および解析を行った。解析結果より、検査課題への代償方略として、無視側への注視点、頭頸部の偏りが観測されるとともに、代償方略による副次的な注意過多なども観測できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、(1)知覚-行為循環の概念に基づく認知モデリング、(2)認知モデルを構成する各サブシステム間の構造化学習、(3)患者への実証実験とシステムの適用可能性に関する検証が具体的な課題であった。 まず、認知モデリングの研究開発では、意図システムにおいて、計測される各動態データから、検査課題の実施中における被験者の行為を推定するシステムを構築した。状態推定手法には、Long Short Term Memory(LSTM)を適用した。また、行為システムにおいても、各行為における被験者の動作出力を予測するため、LSTMを適用した。さらに、注意システムでは、時空間モデリングが可能なトポロジカルマッピング手法を提案し、被験者の注意領域を推定するシステムを構築した。ここでは、当初の予定通り、各サブシステムの開発を実施できた一方、患者のモデリングは、事例数が少ないため、今後の課題となった。 次に、各サブシステム間の構造化学習では、システム間の入出力関係を相互依存的にカップリングさせる学習システムを構築した。ここでは、有用性を検証するため、健常者の動作出力を予測し、計測された動作との誤差について議論を行った。結果として、学習後のモデルを用いて、未学習の環境に対する動作出力の予測が、計測した被験者の動作と近似することを確認した。一方、知覚システムを含めた構造化学習については今後の課題となった。 最後に、実証実験と適用可能性の検証では、患者を被験者とした計測実験を実施した。実験では、能動的注意および受動的注意における動態の違いについて確認を行い、検査課題としての適用可能性を議論した。今後は被験者を増やし、患者の認知モデリングに必要なデータ取得を目指す。 以上より、各研究項目において課題はあるものの、患者への実証実験も実施することができ、おおむね予定通り研究開発が実施できている。
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今後の研究の推進方策 |
来年度は、今年度の研究に引き続き、以下の研究項目を実施する。 [研究項目1] マルチモーダルセンシングシステムの開発として、拡張現実感技術を実装可能なヘッドマウントディスプレイを適用し、実環境との相互作用を定量的に計測・評価するためのリハビリプログラムの作成、計測システムの構築を実施する。また、仮想現実空間のみでの検査課題を提示している現状のシステムと比較し、有用性および適用可能性の評価を行っていく。 [研究項目2] 認知モデリングの研究では、各サブシステムにおいて、患者の計測データを用いたシステム構築および評価検証を行っていく。さらに、[研究項目3] 構造化学習の研究では、各サブシステムにおいて、複数のリカレントニューラルネットワーク(RNN)から構成されるモジュラー型RNNを構成し、被験者の認知モデリングを行う。さらに、モジュラー型RNNの学習結果より、各被験者の特性に合わせたモジュールの組み合わせ最適化を行うことで、患者の特徴抽出およびクラスタリングも実施する。特徴抽出およびクラスタリングの結果に関しては、既存の検査課題の結果や医療機関の有識者の知見と照らし合わせながら、患者のペルソナモデリングに活用する。 [研究項目 4] 実証実験の実施では、病院や施設と連携して、実証実験を引き続き実施していく。具体的には、[研究項目2]および[研究項目3]にて必要とされる半側空間無視患者を被験者とした実験データの収集を行う。さらに、被験者の認知モデリングにより、システムによって推定される被験者の動態シミュレーションの結果を、実患者のふるまいと比較することで、被験者の空間認知特性に関する構成論的な議論を行っていく。
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