研究課題/領域番号 |
21K17889
|
研究種目 |
若手研究
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分63020:放射線影響関連
|
研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
日下部 将之 神戸大学, バイオシグナル総合研究センター, 助手 (40899019)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2021年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
|
キーワード | ヌクレオチド除去修復 / 色素性乾皮症 / ヒストン脱アセチル化 / クロマチン / 天然変性タンパク質 / ヒストン修飾 / 自己集合 / DNA損傷認識 / 遺伝子 |
研究開始時の研究の概要 |
ヌクレオチド除去修復(NER)は紫外線・化学物質など環境因子によって生じるDNA損傷を認識・除去する生体防御機構である。損傷認識因子XPCが損傷と相互作用することによりNER反応は開始されるが、真核生物のゲノムDNAは高次クロマチン構造を形成して核内に収納されており、生体内においてXPCが損傷を効率よく認識する機構は未だに不明な点が多い。申請者はこれまでに、高次クロマチン構造においてXPCの損傷認識を補助することが示唆される新規相互作用因子を見出しており、これに着目することで生体内におけるXPCの損傷認識を補助する新規機構の解明が期待される。
|
研究実績の概要 |
本研究は、ゲノム全体を対象としたヌクレオチド除去修復の損傷認識を担うXPCタンパク質に焦点をあて、生体内においてXPCの損傷認識を補助する新規因子の同定・機能解明を目的としている。令和5年度は、これまでの研究によって明らかにされたXPCとヒストンH3テールの詳細な相互作用様式の解析に注力した。 代表者らのこれまでの研究によって、XPCは中央部に位置する天然変性領域(XPC-M領域)を介してヒストンH3テールと直接結合し、この相互作用はヒストンへのアセチル化修飾によって減弱することが見出されていた。しかし、ヒストンH3テールにはアセチル化修飾を受ける複数のリジン残基が存在するが、どのリジン残基がXPCとの相互作用に重要であるかは不明であった。これを明らかにするため、グルタミンに置換するアセチル化模倣変異を1アミノ酸ずつ導入したH3テールをN末端側に融合した組換えGSTタンパク質を発現・精製し、これらとXPC-M領域の相互作用をGSTプルダウンアッセイにより解析した。この結果、XPC-M領域とH3テールの相互作用はH3テール上の特定のリジン残基に対する依存性は低く、H3テール全体の総電荷が正に偏っていることが重要であることが示唆された。重要なことに、XPC-M領域には酸性アミノ酸が集積した領域(酸性ブロック)が二つ見出された。XPC-Mがこれらの酸性ブロックを介してH3テールと相互作用するか検証するため、酸性領域を欠失したXPC-M変異体をヘテロクロマチンの可視化が容易なマウス胎児由来繊維芽細胞に安定発現させ、核内局在を解析した。全長のXPC-Mはヒストンが高度に低アセチル化されているヘテロクロマチンに局在する一方、酸性ブロックを欠失することによってヘテロクロマチン局在は有意に減弱することが見出され、先の可能性が支持された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和5年度は、代表者らのこれまでの研究によって明らかにされたXPCとヒストンH3テールの相互作用様式を解明するため、生化学的解析・細胞生物学的解析を実施した。特定の立体構造を形成しない天然変性領域であるXPC-M領域がいかにヒストンH3テールと相互作用し、これが翻訳後修飾によって制御されるかは興味深い問いであるが、未解明であった。 様々なアセチル化模倣変異を導入したH3テールとGSTの融合タンパク質を用いた詳細な生化学的解析により、XPC-Mは特定のリジン残基を認識するのではなく、巨視的な総電荷の偏った領域(電荷ブロック)同士の静電相互作用によってH3テールと結合するという着想に至った。そして、マウス線維芽細胞を用いた細胞生物学的解析によって、XPC-Mの酸性ブロック領域が低アセチル化状態のヒストンH3テールの相互作用に重要であることを支持する結果も得られた。これらの結果は、本研究課題の目標である、生体内におけるXPCの損傷認識制御機構を理解する上で非常に重要な着想・発見である。さらに、電荷ブロック型のタンパク質間相互作用は、近年注目を集めている液-液相分離を制御するタンパク質間相互作用の一つであり、生体内においてヌクレオチド除去修復が液-液相分離によって制御されるという新展開にもつながることが期待される。以上より、令和5年度の研究進捗は順調に進展していると評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、XPC-Mの酸性ブロック領域がヒストンH3テールの直接結合に重要であるか明らかにするため、酸性ブロックを欠失した変異体、もしくはXPC-Mの配列をランダムにした変異体を昆虫細胞を用いて発現・精製し、これらとH3テールの相互作用をプルダウンアッセイにより解析する。また、同様の変異を導入したXPCタンパク質を内在性XPCを破壊したU2OS細胞に安定発現させ、DNA損傷部位への集積や紫外線誘発損傷の修復に影響が生じるか、細胞生物学的解析により明らかにする。 また、代表者らは令和4年度の研究において、XPCを呼び込む活性を有する新規因子としてH3K9メチル化酵素EHMT1も同定しており、EHMT1がXPCの損傷認識を補助する分子機構の解析も実施する予定である。具体的には、9番目のリジン残基へメチル化を導入したH3テールを用いて、XPC-Mとの相互作用に影響が生じるかプルダウンアッセイにより解析する。また併行して、siRNAや薬剤を用いてEHMT1を発現抑制・機能阻害した際に、XPCの損傷部位への集積や紫外線誘発損傷の修復に影響が生じるか、細胞生物学的解析により明らかにする。
|