研究課題/領域番号 |
21K18025
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分90030:認知科学関連
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研究機関 | 島根大学 (2023) 早稲田大学 (2021-2022) |
研究代表者 |
寺尾 勘太 島根大学, 学術研究院理工学系, 助教 (90825449)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2023年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 記憶 / 学習 / 社会的隔離 / コオロギ / 報酬 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は以下の実験を通じて、社会的な環境とその変化が学習機能と脳の遺伝子発現へ与える影響をコオロギで検証する計画である。 実験I. 社会的な環境とその変化が学習に与える影響の検証 I-I. 複数の飼育条件でコオロギを飼育 I-II. 複数の飼育条件でコオロギの学習能力を計測・比較 実験II. 社会的な環境とその変化が遺伝子発現に与える影響の探索 実験III. 学習と遺伝子発現、社会的な環境とその変化の因果関係の検証
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研究実績の概要 |
昨今のコロナ禍の影響で、社会では社会的隔離のような状況が生じています。社会的隔離とは動物個体を他個体から隔離して単独状態に追い込むことを指します。社会的隔離は社会性のほ乳類の認知機能と脳に負の影響を与えるため、現在の状況が長期的に見て人々と社会に負の影響を生む危険性が危惧されます(Mattews et al., Cell 2016)。認知機能とは記憶・学習や知覚・生殖などの行動決定の機能を指します。 申請者とその研究チームは認知機能の中でも学習に着目してきました。ほ乳類とコオロギの学習を理論と神経メカニズムの2つの側面から比較することで、両種で部分的な一致が見られることを明らかにしてきました。 いわゆる社会性動物において、社会的隔離による認知機能低下が報告されているため、社会的隔離は動物の生き残りに不利と考えられてきました。しかし隔離による影響は、社会環境に応じて柔軟に表現型を変える性質を反映しており、進化的に有利である可能性があります。社会的隔離は社会性の動物にとって稀で不自然な現象であるため、その影響の報告例は負にバイアスしている可能性があります。社会的隔離を含む、社会的環境の変化がもたらす正・負の影響を研究するためには、自然下で社会的隔離・社会的に密のどちらでも生存し、社会的な変化を経験し得るモデル生物が必要です。 コオロギは野外で主に単独性で生育する一方、集団生育・社会的環境の変化を伴う局所的な大量発生をする場合があります。研究室下でも社会環境に応じた行動の変化が報告されています。コオロギを社会環境に応じた学習や脳の変化を研究するモデル生物として用いることで、社会的な環境とその変化が学習と脳へ与える正・負の影響を検証します。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は社会的隔離が学習に影響を与える理由を探るべく実験・調査を行いました。 報酬学習に見出した負の影響が報酬機能に由来するものであるかを確認するために、報酬探索実験や実報酬取得実験を行いました。前者について隔離群に影響が見られる可能性を強く示唆する結果を得ました。後者についても影響が見られる可能性を示唆する結果を得ました。これらの結果について、統計処理の最適化の可能性についての提案を得ており、検討が必要です。加えて、連合学習の機能自体が変化している可能性を検証するため、記憶の削除・修正を調べる消去実験系の整備を進めています。 報酬学習に見出した負の影響を制御する脳内因子を調べるために、質量分析計によるアミン等の量・種類の解析や、次世代シーケンサーによるトランスクリプトーム解析を継続して遂行しています。隔離に伴う脳内因子の変動を示唆するデータの獲得に伴って検証すべき仮説の確立を行いました。 これらのデータについては国内外の研究者と学会発表を通じて議論を行いました。
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今後の研究の推進方策 |
社会的隔離を代表とする社会的環境がコオロギの学習をはじめとする認知機能に与える影響を調べます。さらに、その神経・分子基盤を調べます。 まずは、社会的隔離が連合学習へ与える影響についての結果をさらに多面的に検証します。報酬機能への影響を調べるための報酬取得量の変化の検証の継続を行います。予備的な検証によって実験系が妥当に構築されている可能性が高いと判断したため、データ収集を継続し、統計学的にその結果の評価を行います。 連合学習の機能自体が変化している可能性を検証します。記憶の削除・修正を調べる消去実験の整備を継続します。報酬ではない刺激への連合学習能の確認として、忌避学習の検証などが選択肢として挙げられます。 社会的隔離が連合学習に与えた負の影響を実現するメカニズムを調べます。生体アミンの定量とトランスクリプトーム解析については、確立した仮説に基づき、必要に応じて追加実験を行ったうえでデータ解析を推進します。 他の研究者との交流を通して、得られたデータに対する分析をさらに進めるために、国内外の学会への参加および論文報告のために準備を進めます。
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