研究課題/領域番号 |
21K18129
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研究種目 |
挑戦的研究(開拓)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分7:経済学、経営学およびその関連分野
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
大垣 昌夫 慶應義塾大学, 経済学部(三田), 教授 (90566879)
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研究分担者 |
星野 崇宏 慶應義塾大学, 経済学部(三田), 教授 (20390586)
山本 勲 慶應義塾大学, 商学部(三田), 教授 (20453532)
窪田 康平 中央大学, 商学部, 教授 (20587844)
大竹 文雄 大阪大学, 大学院経済学研究科, 特任教授(常勤) (50176913)
花木 伸行 大阪大学, 社会経済研究所, 教授 (70400611)
奥山 尚子 横浜国立大学, 大学院環境情報研究院, 准教授 (80617556)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
25,740千円 (直接経費: 19,800千円、間接経費: 5,940千円)
2023年度: 4,290千円 (直接経費: 3,300千円、間接経費: 990千円)
2022年度: 17,420千円 (直接経費: 13,400千円、間接経費: 4,020千円)
2021年度: 4,030千円 (直接経費: 3,100千円、間接経費: 930千円)
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キーワード | 社会関係資本 / 社会的選好 / 信頼 / 利他性 / 応報性 / 経済実験 / 社会的資本 / 経済実権 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では国際的に比較可能なオンライン実験プラットフォームとアンケート調査を用いて、信頼・応報性・利他性がどのように変動し、その変動が互いに、また所得や就業などの他の経済変数の変動とどのように関係しているかを調べる。対象者は住民基本台帳に基づいて代表性のある個人追跡アンケート調査を行っている慶應義塾大学パネルデータ設計・解析センターの日本家計パネル調査(JHPS/KHPS)の調査協力者を対象に招待状を送って、協力してくださる方々とする。さらにJHPS/KHPSの本調査でもアンケート質問によって毎年、信頼・応報性・利他性を測る。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、社会関係資本と社会的選好の時間的・空間的特性の分析によって協力的な経済行動の理論・実証研究を進めることである。2023年度の実証研究の実績としては、應義塾大学パネルデータ設計・解析センター (PDRC) が我が国の代表的サンプルを対象に個人追跡調査をしているJHPS/KHPSの協力者に招待状を送ってオンライン実験・アンケート調査を実施して信頼・応報性・利他性等を測定する「第2回社会のつながりに関する調査」を実施した。このオンライン実験・アンケート調査は国際比較可能であるようにOECDの Trustlabプロジェクトの調査プラットフォームと同様の実験結果が得られると予測できるように2021年度に開発した調査プラットフォームを用いた。2021年度の第1回調査とあわせて、2年間の2回にわたる調査によるオンライン実験・アンケート調査の個人追跡によるパネルデータを構築した。特に本調査では2時点で同じ信頼ゲームの実験で誘因を伴う方法で測定した信頼と、2時点で同じアンケート質問で測定した一般的信頼のデータを得た。著者の知る限り、このようなパネルデータは世界でも他に例を見ない。これらの信頼データとともに、実験での誘因を伴う社会的選好に関わる応報性と利他性の2時点での選択行動を追跡したデータを得ている。2023年度中のパネルデータ分析により、実験で測定した信頼が第1回から第2回に大きく変化し、社会選好に関わる応報性・利他性の選択行動の変化が信頼と正に相関して変化したのに対し、アンケートで測定した一般歴信頼の変化は比較的に小さく、応報性・利他性の選択行動の変化との相関も小さく、有意ではないことが多かった。実験で諮られた信頼の変化は、社会的選好に関連する選択行動の変化と理論的に予想される符号の有意な相関を持つので、これらの変化は測定誤差によるとは考えられない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2023年年度までで社会関係資本としての信頼の変化と、社会的選好である利他性や応報性に関わる選択行動の変化について、実証分析を終えて論文にまとめるのが申請時の研究計画であった。しかし、本年度は、申請時の計画では予算不足で実施できないと予想していた第2回社会のつながりに関する調査を、第1回調査の参加者数が予想よりも少なかったことから予算に余裕が生じて実施することができた。第2回調査の実施により、本研究の目的のために貴重なパネルデータを構築することができた。 先行文献では信頼は、「一般的にほとんどの人について、普段どの程度信頼していますか」などのアンケート質問への回答か、あるいは、信頼ゲームを用いて信頼ゲームを用いて測定されている。本研究では、アンケートの回答での信頼の測度と、実験による信頼の測度を比較するため両方の方法を用いている。 予備的な分析により、実験で測定した信頼の変化は、利他性や応報性の変化と有意に相関しているのに対し、アンケート質問で測定した信頼は、相関が弱く、有意に相関しないことも多かった。これらの分析結果から、アンケート質問と実験で、信頼のどのような側面が測定されているのか、また、信頼と利他性や応報性がどのようなメカニズムで関係しているのかについて理論的な考察を深めていくことができるようになった。 このように本研究の主要調査のパネルデータ構築のための第2回調査の終了が2023年11月であったため、2023年度末時点で、データの分析がまだ終了していなかった。このため、主要調査のパネルデータの分析結果については、2023年度中に予備的結果を発表してコメントを得るための学会発表に留まり、論文執筆に関しては予定よりも遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず、本研究の主要なパネルデータでの、アンケート質問で測った一般的信頼と、実験で測った信頼について、変化については上述のように大きな違いが見つかったので、この違いをより深く理解するためのデータ分析を進める。具体的には、まず一般的信頼と実験で測った信頼のそれぞれの水準が、パネルデータの各ウエイブで、どのように相関しているかを調べていく。この水準についての結果を、Falk, Becker, Dohmen, Huffman, Sunde (2016, IZA DP)で報告されている信頼の水準をアンケート質問で測った測度と実験で測った測度との関係の研究の結果と比較することにより、信頼の水準について実験とアンケートによる違いの理解を深め、これと信頼の変化についての頼の水準について実験とアンケートによる違いの理解を深める。 次に、信頼の変化と、利他性や応報性の変化の相関の分析結果に関して、どのような理論と整合的であるのかを探究する。行動経済学で広く用いられているFehr and Schmidt (1999, QJE)や、Bolton and Ockenfels (2000, AER)のようなアウトプット・ベースト社会的選好モデルでは、社会的選好が外生的であることが仮定されているため、独裁者ゲームの配分額で測定された利他性が、信頼の変化と正の相関を持つ理由は存在しない。このため、Rabin (1993, AER)のインテンション・ベースト社会的選好モデルのように、信頼と利他性が内生的に変化するモデル等を考察していく必要がある。さらにKrueger and Meyer-Lindenberg (2019, Trends in Neuroscience)のような、神経科学、心理学、経済学の学際的知見を統合したモデル等を考察していく方針である。
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