研究課題/領域番号 |
21K18138
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研究種目 |
挑戦的研究(開拓)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分10:心理学およびその関連分野
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研究機関 | 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所) |
研究代表者 |
幕内 充 国立障害者リハビリテーションセンター(研究所), 研究所 脳機能系障害研究部, 研究室長 (70334232)
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研究分担者 |
依光 美幸 地方独立行政法人東京都立病院機構東京都立駒込病院(臨床研究室), リハビリテーション科, 主事 (30836721)
広瀬 友紀 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (50322095)
林 美里 中部学院大学, 教育学部, 准教授 (50444493)
関 義正 愛知大学, 文学部, 教授 (50575123)
新国 佳祐 新潟青陵大学, 福祉心理学部, 准教授 (60770500)
香田 啓貴 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (70418763)
牛谷 智一 千葉大学, 大学院人文科学研究院, 准教授 (20400806)
足立 幾磨 京都大学, ヒト行動進化研究センター, 准教授 (80543214)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
25,740千円 (直接経費: 19,800千円、間接経費: 5,940千円)
2023年度: 7,800千円 (直接経費: 6,000千円、間接経費: 1,800千円)
2022年度: 7,800千円 (直接経費: 6,000千円、間接経費: 1,800千円)
2021年度: 10,140千円 (直接経費: 7,800千円、間接経費: 2,340千円)
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キーワード | 描画 / 言語 / 階層性 / 幼児 / チンパンジー / サル / ハト / 比較 / 動物 / 認知 / 空間認知 / 霊長類 / ヒト / fMRI / 小児 / 脳損傷 / 模写 / なぞり描き |
研究開始時の研究の概要 |
描画の生物学的基盤をヒト(成人・脳損傷患者・小児)・チンパンジー・ゴリラ・サル・トリで種横断的に調査し、描画能力は単純な平面図形の構成能力からそれらの組み合わせとして階層構造を持った複雑図形の成構成へと段階的に発展するという予測を検証する。①平面幾何学的図形はでトリやサルでも打点可能だが、表象を自発的に外在化することはヒトのみ可能である。大型霊長類には萌芽的な能力が認められる。②子供での描画能力では図形の組み合わせ構成能力と言語能力の発達に相関関係がある。③描画と言語の脳メカニズムはブローカ野を共有する。④ブローカ野の損傷では図形の組み合わせ構成に障害が出る。
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研究実績の概要 |
まず、日本心理学会第87回大会において、脳損傷患者の立方体透視図模写の描き順分析が発表され、優秀発表賞を受賞した。この大会では、1,027件の一般研究発表(ポスター発表)の中から、685件が審査対象となり、12件に特別優秀発表賞、28件に優秀発表賞が授与された。次に、進行中の研究では、描画の描き順に注目し、タイ語話者の成人と4、5歳児の特徴的な描き順を調査した。階層構造が明確なトーナメントのアイテムでは、成人はパーツの形状の類似性を、幼児は距離的な近さを優先して描画する傾向が見られた。しかし、椅子のような例に関しては、視覚的には同じパーツを共有しているものの、その分割方法が異なり、これは成人と幼児で言語の階層構造処理の発達段階や運動機能の違いが影響している可能性が考えられる。さらに、ヒト成人を対象にした実験では、空間表象としての中点認識に基づいた描画が行われることが示された。線分の分割点を記憶し再現する課題において、標的線分の長さが変化する場合は中点に基づく分割が進むが、標的線分の長さが一定の場合は端からの絶対的な位置に基づく分割点の再現が多い傾向が見られた。最後に、訓練中のハトの反応箇所を分析した結果、4個体のハトはいずれも有効反応範囲の端に集中して反応する傾向があったが、訓練を経るに従って範囲全体に反応の分布が広がった。しかし、範囲を線分長の20%まで縮小した時点で、セッションを重ねても有効範囲外への反応が減らず、端から一定の距離に反応していた可能性が示唆された。この分析過程について日本基礎心理学会にて発表し、他の参加者と討議した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
描画における階層性を検討するため、描き順のクラスター分析を実施している。ストローク間の時間間隔を基に階層構造を推定し、仮想エージェントによる描き順との比較も行って階層性の存在を証明する方法を模索中である。これらの成果は論文として投稿し、探求を続けている。また、視線運動を計測するパイロット実験では、各刺激部分への注視率や視線移動の順番を分析し、視線運動と描画過程との関係性を明らかにしている。医療や心理学アセスメントにおいては、従来の描画検査が紙ベースで最終形を評価するのに対し、本研究ではICT機器を用いて脳腫瘍患者の描画過程を動的に取得した。結果として、健常成人の立方体透視図模写は正面と上面の階層構造を示すが、脳損傷患者は異なる描き順を示した。また、描き順パターンの分類から、描画評価には点や線の向きだけでなく、面としての認識を評価する意義が見出された。既に収集済みの日本語話者およびタイ語話者のデータを分析し、データ収集手法や分析手法の改良を進めている。国際研究集会での発表は新型コロナウイルスの影響で現地フィードバックを得られなかったが、更新内容を他の学会に投稿中である。京都市動物園のゴリラを対象に、コンピュータ画面上での課題を実施し、反応が乏しい背景条件の再調整を行った。ゴリラは目の領域に対する反応が多い傾向があり、課題の改良を続けている。また、チンパンジーを対象に線分の分割点を答えさせる課題を実施した。見本刺激で提示された分割点に基づき、テスト刺激上で対応する点を答えさせるもので、訓練は段階的に行っている。ニホンザルでの描画行動の基礎となる線分の認識と運動再現操作の分析を進め、ヒト成人100名を対象に線分分割・再現実験を実施した。また、ハトには線分の中央を見つけて反応する訓練を行い、その結果、ハトは線分の中央ではなく端から一定の距離に反応していた可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
健常な成人を対象にfMRIを用いて描画中の脳活動を計測する。また、手術前後の高次脳評価の一環として描画検査を行ってきたが、覚醒下での手術中に描画検査を実施し、動的なデータを取得することで、新たな知見を得ることを目指している。これにより、評価方法の発展にも貢献できると考える。さらに、分析中の描画データを論文としてまとめ、昨年度発表予定だった内容も公開し、研究発表の機会を得てフィードバックを収集する予定である。京都市動物園のゴリラ全頭を対象に、課題条件を再調整後に課題を実施し、慣れが生じない頻度で継続する。また、中部学院大学子ども家庭支援センター「ラ・ルーラ」を利用するヒト乳幼児にも同様の課題を実施し、比較データを取得する。ヒトとサルの結果比較から、中点という空間表象を利用した図形の認識がヒトに固有である可能性が示唆されたため、特に中点のランドマーク利用が促進される条件を明らかにし、ランドマーク利用に関わる脳の責任領域を脳機能計測を通じて検討する。実験担当者の交代による休止期間を経て、現在は有効範囲を線分長の50%まで戻した条件で再訓練中であり、遂行が戻り次第テストに移行する。チンパンジーでは引き続き訓練段階の追加や修正を行い、訓練課題2の達成を目指す。課題2が終了した個体には、見本線分上の分割点を触った後、見本とは異なる長さの線分を呈示し、絶対・相対判断のどちらに依存するのかを分析する。課題2が完了できない場合でも、エラー分析を通じてチンパンジーの認知処理とその限界を明らかにする。また、ハトが線分の端から一定の距離に反応していた可能性を検証するため、線分の長さを操作したテストを実施する予定である。長い線分では反応の分布が中央より端に近いところにピークが来ると予想し、角度を操作したテストで詳細な学習内容を検討する。
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