研究課題/領域番号 |
21K18166
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研究種目 |
挑戦的研究(開拓)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分21:電気電子工学およびその関連分野
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
酒井 政道 埼玉大学, 理工学研究科, 教授 (40192588)
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研究分担者 |
吉住 年弘 埼玉大学, 理工学研究科, 助教 (00838039)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
25,870千円 (直接経費: 19,900千円、間接経費: 5,970千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 8,580千円 (直接経費: 6,600千円、間接経費: 1,980千円)
2021年度: 14,950千円 (直接経費: 11,500千円、間接経費: 3,450千円)
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キーワード | 電子-正孔補償金属 / 電子-正孔スピン交換相互作用 / スピン流 / スピン注入 / 近藤効果 / 排他的論理和ゲート / 交換相互作用 |
研究開始時の研究の概要 |
電子間でスピンを受渡すことによって、スピン情報を輸送することができれば、スピン反転は必ずしもデメリットではない。本研究では、sd交換相互作用に代表されるスピン依存型電子間相互作用を使って、伝導電子間の多体効果によるバトンリレー型スピン中継機能を次世代型デジタル論理演算のデザインへと適用し、スピン情報中継機能の開拓と、論理演算素子の小型・高速・省電力化のを基礎研究を行う。特徴は、スピン軌道相互作用のみならず、スピン依存型電子間相互作用を基軸にしたスピントロニクスを構築する点と、電子-正孔補償金属を使って、電子スピン流と正孔スピン流を同時に利用するというアンビポーラ性を導入する点である。
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研究実績の概要 |
本研究は、電子間交換相互作用にもとづくバトンリレー型スピン中継機能をスピントロニクスデバイスに実装することを目指している。その相互作用は、電子正孔補償金属や半金属などのアンビポーラ性金属において発揮されるが、具体的にどのような現象として現れるのかを明確にすることがデバイス設計に欠かせない。本年度は測定データの解析に注力した。測定素子は、YH2の両側面にスピン注入源として垂直磁化特性を有するフェリ磁性金属(GdFeCo非晶質合金)を接合した横型素子であって、GdFeCoからYH2面内に向かってスピン偏極電流を供給し、逆スピンHall効果(ISHE)によって生ずるHall抵抗の(1)磁場依存性、(2)温度依存性、(3)測定電極位置依存性が測定データである。 磁性電極からのスピン注入下におけるアンビポーラ性金属のISHEの表式を、GdFeCo/YH2界面を貫通する電流密度J*とYH2チャネル部を流れる電流密度Jが素子構造上異なることに注意して導出した。導出は、(i)スピン緩和が専らスピン‐軌道相互作用(SOI)による場合と、(ii)それが専ら電子-正孔スピン交換相互作用(EXC)による場合に対して行った。磁性電極の磁化配置が平行下の測定データをSOIモデルによって回帰分析することによって、YH2の室温スピン拡散長が30μm前後であり、J*がJの約50倍(J*/J=50)であることが分かった。EXCモデルによる回帰分析も同様の結果を示した。 両モデルでは、スピン注入源の磁化配置が反平行時に顕著な違いが現れる。SOIモデルでは反平行配置のISHE信号が平行配置と同程度の大きさであるのに対して、EXCモデルでは反平行配置の信号は、平行時と比較して可成小さい。本年度新規にISHE測定を平行と反平行配置下で実施したところ、後者ではISHE信号がほぼ消失し、したがって、EXCモデルの方が適切であることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021~2022年の2年間は、素子作製プロセスのうち、金属膜蒸着行程を外部研究機関の設備を利用して実施してきた。スピン注入源の垂直磁化膜GdFeCoの成膜も上記とは別の外部研究機関の設備(スパッタ装置)を利用している。そのため、測定結果を素子作製にフィードバックするのが恒常的に遅れ気味であった。 この点を解消するために、2023年度に電子ビーム(EB)蒸着装置を新規に購入・設置し、2023年8月から使用している。これによって、ISHE信号検出電極およびアンビポーラ性金属の成膜が研究代表者の所属する埼玉大学で実施できるようになった。GdFe合金膜もEB法によって成膜したところ、組成制御は出来るようになったが、成膜後の磁化容易軸は面内であった。これを面直にするには、面内方向に圧縮歪を加えることが有効であることが文献等で分かっているので、今後、成膜基板をフレキシブル基板に変更することを計画している。 ISHE信号検出電極にはこれまで金(Au)を使用してきたが、原材料経費が嵩むため、Auの代わりに高純度銅(Cu)を使用することにした。アンビポーラ性金属としてイットリウム(Y)を水素化したYH2を使っているが、新規に設置したEB蒸着装置を使って、アンビポーラ性金属であることが分かっている、スカンジウム(Sc)およびスズ(Sn)が成膜できるようになったので、これらを非磁性領域に使用した素子作製を開始した。その結果これまでの遅れを取り戻しつつある。
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今後の研究の推進方策 |
EXCモデルでは、自明的に長距離スピン輸送特性が伴うが、磁性/非磁性界面の電流密度J*がYH2チャネルの電流密度Jの約50倍と増強するのは素子構造上自明ではない。この界面電流密度の増強原因を調査する前に、ISHEデータの回帰分析結果に対する物理的合理性を検証する必要がある。フェリ磁性体/アンビポーラ金属界面に発生するスピン共役電圧は、原理的にこの界面を貫通する電流密度J*に比例するので、今後は、スピンバルブ効果にもとづくスピン蓄積信号測定に取組んで、回帰分析結果を検証する。 一方、YH2のISHE信号が従来機構に比べて約50倍増強されるのは驚きである。我々のこれまでの実験は、チャネル電流密度が約10の7乗A/m2の下で行っている。ISHE測定から得られたHall抵抗は約0.5mΩである。現状のYH2厚さ(約300nm)をさらに小さくすることによって高電流密度下で動作する素子が作製できれば、電子-正孔スピン交換相互作用にもとづくバトンリレー型スピン中継をスピントロニクスデバイスに実装する目途が立つ。高電流密度に耐性のある素子づくりも今後の課題である。 現実のアンビポーラ性金属では、スピン緩和の他に運動量緩和がある。後者はスピン拡散係数を通じて、スピン輸送に影響する。デバイス動作設計には、これらの影響を同時に考慮しなければならない。今後は、運動量緩和としてフォノン散乱や不純物散乱の他に電子正孔間相互作用を考慮しつつ、スピン緩和にはSOIとEXCを含めた、ISHEの表式およびスピン蓄積信号の表式を導出し、それらを実験結果の回帰分析に使って、デバイス設計に役立てる。
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