研究課題/領域番号 |
21K18167
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研究種目 |
挑戦的研究(開拓)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分21:電気電子工学およびその関連分野
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大矢 忍 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (20401143)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
25,870千円 (直接経費: 19,900千円、間接経費: 5,970千円)
2023年度: 7,930千円 (直接経費: 6,100千円、間接経費: 1,830千円)
2022年度: 8,450千円 (直接経費: 6,500千円、間接経費: 1,950千円)
2021年度: 9,490千円 (直接経費: 7,300千円、間接経費: 2,190千円)
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キーワード | スピントランジスタ / エピタキシャル / スピントロニクス / 微細化 / 分子線エピタキシー / 単結晶ヘテロ構造 |
研究開始時の研究の概要 |
本提案では、研究代表者らが長年にわたり開拓してきた超高品質の強磁性金属/半導体ハイブリッドヘテロ構造作製技術および極微細加工技術を用いることにより、10 nm程度のチャネル長のスピントランジスタを実現し、バリスティック伝導を誘起することにより高い磁気抵抗比を得ることを目指す。スピントランジスタを実現する上での長年の問題点を、このような新しい技術を導入することにより克服することを目指す。
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研究実績の概要 |
分子線エピタキシー(MBE)法を用いて、酸化物SrTiO3基板の上に高品質の強磁性金属単結晶La0.67Sr0.33MnO3薄膜を作製した。40 nm程度の幅の極微細領域にアルゴンイオンを照射した。この手続きにより、その領域に、酸素欠損が発生し、局所的にその領域が半導体に相転移する。このようにして、極微細半導体チャネル領域を形成し、すべて単結晶酸化物からなる強磁性体/半導体/強磁性体の横型2端子素子を作製した。本素子において、3 Kの低温において最大で140%の高い磁気抵抗比を得ることに成功した。この値は、過去30年にわたる横型スピントランジスタの先行研究において得られてきた磁気抵抗比を10倍以上上回る値である。さらにバックゲート構造を有する3端子のスピントランジスタ素子を作製し、ゲート電圧によって電流を変調することにも成功した。本成果により、磁性の世界最大規模の国際学会であるMMM2022で招待講演を行い、先日、科学誌Advanced Materials(IF=32)に論文が採択された。 一方、Geベースの素子では、予期しない新たな結果が得られた。Fe/MgO/p-Geからなるオールエピタキシャル単結晶ヘテロ接合をMBEを利用して作製し、20 nm程度の短チャネル長を有する横型スピンバルブ素子を作製した。昨年度用いたデバイスのMgOの膜厚を3nmから1nmに変更し、素子構造も若干変更した。その結果、スピンバルブ効果とは異なる巨大な3万%におよぶ磁気抵抗効果が観測された。詳細な測定を行い、新規の抵抗スイッチ効果が得られたのではないかと推測している。さらに素子によっては、スピンバルブ効果と類似の測定結果が得られることも明らかになった。現在、この原因について、さらに詳細に調べる予定である。同時に、本素子で得られている従来型スピンバルブ効果についても、さらに探求していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
上記に記載した通り酸化物ベースのデバイスで従来の予想を超える140%という非常に大きな磁気抵抗効果を観測することに成功した。従来横型素子で得られていた磁気抵抗比の最大値は1~10%であったため、これは大きな進歩と言える。理論的にも拡散伝導を用いる限り、磁気抵抗比の最大値は数%だと予想されていた。本成果は、申請書で予想した通り、単結晶の極微細スピントランジスタ構造において、微細化によりバリスティック伝導を誘起出来れば、磁気抵抗効果を巨大化できることの証明になっていると言える。本成果は、科学誌Advanced Materials(IF=32)への掲載が決定した。現在、トランジスタ応用に向けて研究を進めている。 一方、Geベースの素子では、予期しない新たな結果が得られつつある。従来ほどんど調べられてこなかった抵抗スイッチ効果の磁場依存性を利用した新たなスピントロニクスデバイスが実現できるきっかけとなる可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
上記で述べたように、MBEを用いて作製された高品質の強磁性金属単結晶La0.67Sr0.33MnO3薄膜の極微細領域にアルゴンイオンを照射して半導体チャネル領域を形成し、すべて単結晶酸化物からなる強磁性体/半導体/強磁性体の横型2端子素子を作製し、3 Kの低温において非常に大きな磁気抵抗比を得ることに成功した。今後の課題は、ゲート変調をさらに大きくすることと、動作温度の向上である。どちらも課題に対しても指針は明確になっており、現在、すでに研究を進めているところである。 一方、Geベースの素子で得られた予期しなかった新規の抵抗スイッチ効果についてはさらなる追究が必要である。現在、抵抗スイッチ効果がどのようにして磁場に依存するのか、またその起源について、素子構造等を変えつつ調査を行っている。将来的には、抵抗スイッチ効果の不揮発性をうまく利用して、スピントロニクスデイバスのように利用できる可能性があると考えられる。これは抵抗スイッチ効果の新たな方向性を切り拓く研究と言える。また、本材料系で得られている従来型の磁気抵抗効果についても引き続き、追究を続けていきたいと考えている。
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