研究課題/領域番号 |
21K18209
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研究種目 |
挑戦的研究(開拓)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分35:高分子、有機材料およびその関連分野
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
瀧宮 和男 東北大学, 理学研究科, 教授 (40263735)
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研究分担者 |
Bulgarevich Kirill 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 特別研究員 (60880268)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
26,000千円 (直接経費: 20,000千円、間接経費: 6,000千円)
2024年度: 4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2023年度: 5,070千円 (直接経費: 3,900千円、間接経費: 1,170千円)
2022年度: 4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2021年度: 11,310千円 (直接経費: 8,700千円、間接経費: 2,610千円)
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キーワード | 有機半導体 / キャリアドープ / 分子集合体 / キャリア密度 / ボロン酸エステル / ESR / UPS / 表面ポテンシャル / ボロン酸エステル置換基 |
研究開始時の研究の概要 |
偶然見出した「凝集誘起自発ドープ」現象(=ボロン酸エステル基をもつ有機半導体の凝集状態において、イオン化電位が顕著に低下し、大気中で高いキャリア密度を持つ現象)の一般性を種々の有機半導体骨格において確認するとともに、この現象の学理を解明する。 さらに、外部からのキャリアドープなしでも、通常の有機半導体よりもキャリア密度が顕著に高いという特徴を活かし、熱電変換、光電変換、センサなどの様々な有機半導体デバイスへと応用する。 これにより、有機半導体の低キャリア密度の問題に対し、「凝集誘起自発ドープ型有機半導体」が本質的な解となることを明らかにする。
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研究実績の概要 |
Bpin-DNTTの薄膜もしくは単結晶トランジスタにおいて、大気暴露後のゼロバイアスでの電流電圧特性から見積もったキャリア密度とESRの測定から見積もられたスピン密度の比較を行った。その結果、表面の分子層一層にのみキャリアが局在化していると考えれば、これら異なる方法で見積もったキャリア密度は定性的に一致し、おおよそ10-19 cm-3程度となった。これは4分子に1分子程度がラジカルカチオンになっていることに相当し、大気中の酸素のみでドープされたと考えると、異常に高い値であると言える。一方、昨年度、DNTTおよびBpin-DNTTの薄膜のUPS測定により、Bpin基の導入がイオン化エネルギーの顕著な低下が実験的に確認され、さらに真空準位のシフトとHOMOバンドの上端のシフトに分割でき、それらの値は結晶構造を基にしたモデルで一応の説明が可能であった。しかし、この時に用いた基板が金の蒸着膜であったため、DNTTおよびBpin-DNTTの薄膜の結晶性が著しく低いという問題があった。そこで、熱酸化膜の無いシリコン基板(自然酸化膜のみ)上に製膜しUPS測定を行ったところ、DNTT、Bpin-DNTTともにIEの低下がみられた。このことは、薄膜の結晶性が電子構造に与える影響が無視できないことを示しており、電子構造の議論は実際の薄膜トランジスタに近い結晶性薄膜であるシリコン基板上でのUPSの結果を用いて行うのが適当であることが分かった。現在、これらの結果をまとめて論文投稿の準備を行っている。以上の検討により、Bpin-DNTTにおける現象の説明がほぼ可能となったことに加え、Bpin基による修飾を施した分子群の評価手法(測定法、用いる基板、理論計算法等)が確立できたと考えている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに引き続き、蒸着膜の電子構造を評価するために様々な評価法を検討するだけでなく、用いる基板の表面処理を最適化することで、UPS測定に於いて実際にトランジスタに用いている結晶性の薄膜で評価することが可能となった。これまで、トランジスタはシリコン、UPSは金基板、フェルミ準位はITOと異なる基板を用いており、各測定間の整合性に疑問を感じることが多かった。今年度は自然酸化膜のみのシリコン基板が、UPS、フェルミ準位評価に用いることができ、また、薄膜の結晶性がトランジスタに用いる酸化膜付きシリコン基板上と同様であることを見出した。これにより、各種測定の直接比較が容易になったことから、これまで用いてきた材料の評価を系統的に実施することが可能になったと考えている。また、Bpin基に代わる、もしくはBpin基以上の顕著な効果をもつ置換基としてネオペンチルボリル基(Bnp)基を導入したDNTT誘導体を合成したものの、安定性に問題があることが明らかになった。従って今後の材料開発は、まずはBpin基のみで行うべきという結論に至った。以上の結果は、最終年度に向け、望ましい材料の構造と評価のためのプラットフォームを確立できたことになる。
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今後の研究の推進方策 |
以上のように最終年度に向け、研究のための情報の整理が可能となったこと、Bpin-DNTTにおける凝集誘起IPシフトの機構をほぼ理解できたことから、今後はこれまでに開発している材料の評価に加え、新たに材料開発も行い、この現象の一般化と応用の可能性を検討する。特に、Bpin-DNTTにおいて、シリコン基板上に蒸着した薄膜の大気暴露前のフェルミ準位が3.9 eV程度であることがケルビンプローブ測定により明らかとなった。この値はp型有機半導体としては極めて高いものであり、電子ドープ材料としての可能性を持つと期待される。実際に並行して検討している研究プロジェクトで電子ドーパントの開発を行っているが、集合状態とはいえBpin-DNTTのフェルミ準位とHOMOは電子ドーパントしても十分機能し得るレベルに達している。そこで、本研究でも電子ドーパントしての可能性を追求することも検討したい。 また予備的データながら、Bpin-DNTT単結晶トランジスタ(基板-単結晶界面をチャネルとする)の移動度の温度依存性は270 K程度の高温領域ではバンド伝導的であったことから、空気界面の一層の大気ドープされた領域では金属的伝導が実現しても良いように考えられる。比較的高いドープ率を考慮すると、また、Bpin-DNTT分子が反平行の二量体を形成し、それが結晶中でヘリンボーン様に充填したサンドイッチヘリンボーン構造、即ちBEDT-TTFにおけるκ型の結晶構造をとっていることを考えると、特異な電子相が発現することも期待できる。最終年度は、材料開発とその応用に加え、分子層一層の二次元電子系としての可能性についても検討したいと考えている。
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