研究課題/領域番号 |
21K18238
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研究種目 |
挑戦的研究(開拓)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分44:細胞レベルから個体レベルの生物学およびその関連分野
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研究機関 | 公益財団法人東京都医学総合研究所 |
研究代表者 |
齊藤 実 公益財団法人東京都医学総合研究所, 脳・神経科学研究分野, 副所長 (50261839)
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研究分担者 |
黒見 坦 公益財団法人東京都医学総合研究所, 脳・神経科学研究分野, 研究員 (30009633)
鈴木 力憲 公益財団法人東京都医学総合研究所, 脳・神経科学研究分野, 研究員 (80836172)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
26,000千円 (直接経費: 20,000千円、間接経費: 6,000千円)
2023年度: 7,800千円 (直接経費: 6,000千円、間接経費: 1,800千円)
2022年度: 9,100千円 (直接経費: 7,000千円、間接経費: 2,100千円)
2021年度: 9,100千円 (直接経費: 7,000千円、間接経費: 2,100千円)
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キーワード | 情動伝染 / セロトニン作動性神経 / ショウジョウバエ / セロトニン作動性神経細胞 |
研究開始時の研究の概要 |
我々は共感性の原初的形態である情動伝染がショウジョウバエでも起こること、情動伝染は集団飼育で発達する一方、ストレスの負荷で低下することを見出した。さらに情動伝染の表出が僅か一対の5-HT作動性神経細胞で制御可能なことも示唆された。本研究はショウジョウバエを新たなモデルとして導入することで、情動伝染回路を解剖学・分子生理学的に同定し、情動伝染の発達や障害機構を分子・シナプスレベルで明らかにする。
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研究実績の概要 |
これまでの研究からショウジョウバエも、集団では翅を目安として他者の熱逃避行動の観察から自身の熱逃避行動を亢進させる逃避伝染が起こること(個別での熱逃避行動より、集団での熱逃避行動の逃避スコアが高い)、この集団効果に特定の神経細胞クラスター(PMPDクラスター)内のセロトニン(5-HT)作動性神経細胞(PMPD-5-HT神経細胞)が関与していること、PMPD-5-HT神経細胞はFan-shaped body (FB)の6層と楕円体のR3層に軸索を投射していることなどが分かった。今年度は熱逃避行動に加えて電気ショックからの逃避行動にも視覚情報に依存した集団効果があることを確認した。さらに視覚情報による逃避伝染の確証を得るため、デモンストレーターと翅を切ったオブザーバーを分けて、透明な仕切り越しにデモンストレーターの逃避行動を観察するduplex assay系を開発し、デモンストレーターの逃避行動をオブザーバーに観察させた。その結果、デモンストレーターがいない時と比較してデモンストレーターがいるときはオブザーバーの逃避行動が上昇すること、しかしデモンストレーターの翅が無いと、オブザーバーの逃避行動は上昇しないこと、さらに逃避行動でないデモンストレーターの逃避様行動はオブザーバーの逃避行動には影響を与えないことなどが分かった。さらに抑圧ストレスや飢餓ストレスを受けたオブザーバーはデモンストレーターの逃避行動を見ても自身の逃避行動は上昇しないが、ストレスを受けたデモンストレーターの逃避行動を見たときはオブザーバーの逃避行動は上昇することなども分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
脊椎動物ではオキシトシンが情動伝染に必要なホルモンとして知られている。しかしショウジョウバエにはオキシトシンも類似のホルモンも発現していない。オキシトシンを発現しないショウジョウバエも情動伝染を起こすのか?現在まで集団で熱逃避行動が上昇すること、各種感覚変異体を用いることでこの集団効果が、翅を手掛かりとした視覚情報によることを明らかにした。また熱逃避だけでなく、電気ショックに対する逃避行動も集団で亢進すること、これがやはり視覚情報に依存していることも確かめた。さらにduplex assayを用いることでオブザーバーのショウジョウバエも脊椎動物同様、他個体(デモンストレーター)の状況を観察することで熱逃避行動を上昇させる逃避伝染が起こることを明らかにした。ショウジョウバエはオキシトシンや類似ホルモンを発現していないが、ホモホロジー検索からオキシトシン受容体と類似性を持つタンパクが検索された。そこでこれらタンパクの発現を抑制したが熱逃避行動の集団効果は抑制されなかった。以上の結果からショウジョウバエはオキシトシンシグナルに依らずに逃避伝染を起こすことが強く示唆された。前年度PMPD-5-HT神経細胞が軸索を投射するFan-shaped body (FB)の6層の5-HT2B受容体の逃避伝染への関与を示したが、PMPD-5-HT神経細胞の投射先には5-HT7受容体も発現していることがデータベース解析から示唆された。そこで投射先の脳領域で5-HT7受容体のノックダウン系統を作製して調べたところ、集団効果は抑制されなかった。現在これらの知見の統計学的有意性を得るための実験を進めているため、やや遅れていると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究からPMPDクラスターを形成するPMPD-5-HT神経細胞が逃避伝染を制御することが示唆されており、これに準じて軸索投射部位で5-HT2B受容体を抑制すると逃避伝染が抑制されることを見出している。またPMPD-5HT神経細胞からの出力を熱遺伝学的に阻止すると逃避伝染が抑制され、逆に活動を上げるとそれだけで逃避行動が更新することも分かった。今後はこのPMPD-5-HT神経細胞が実際に、自身が嫌悪刺激を受けた時だけでなく、他者の逃避行動を見た時も活性化されることを実証する。すでに神経活動のマーカーとしてリン酸化ERKに対する抗体を用いた解析からPMPD-5HT神経細胞が他者の逃避行動を観察した時も活性化されることが示唆されている。しかし抗リン酸化ERK抗体を使った免疫組織化学的解析では活性化された神経細胞の特異性が不確定である。そこで紫外線照射後に活性化された神経細胞を特異的に標識するCaMPARI (Calcium Modulated Photoactivatable Ratiometric Integrator)をPMPD-5-HT神経細胞に発現させた系統を用いて、PMPD-5-HT神経細胞が他者の逃避行動を見た時にも活性化されるか、また個別飼いにして逃避伝染が発達しない個体では他者の観察によるPMPD-5-HT神経細胞の活性化が抑制されているのかなどを検証する。
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