研究課題/領域番号 |
21K18318
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研究種目 |
挑戦的研究(開拓)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分64:環境保全対策およびその関連分野
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
早坂 大亮 近畿大学, 農学部, 准教授 (20583420)
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研究分担者 |
角谷 拓 国立研究開発法人国立環境研究所, 生物多様性領域, 室長 (40451843)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
25,870千円 (直接経費: 19,900千円、間接経費: 5,970千円)
2023年度: 9,100千円 (直接経費: 7,000千円、間接経費: 2,100千円)
2022年度: 8,580千円 (直接経費: 6,600千円、間接経費: 1,980千円)
2021年度: 8,190千円 (直接経費: 6,300千円、間接経費: 1,890千円)
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キーワード | 生態リスク評価 / 化学物質汚染 / 温暖化 / 生態系レジリエンス / EDM / 深層学習 / メソコズム(実験生態系) / キーストーン指標 / 化学物質曝露 / 生物群集 / 生物(群)間相互作用 / 生物間相互作用 / メソコズム / 生態毒性学 / 群集生態学 / 環境影響評価 / レジリエンス |
研究開始時の研究の概要 |
化学物質の生態毒性評価の課題のひとつに「生態系レベル評価の難しさ」が挙げられる。それは、生態系の複雑さや個別性に起因する。そこで本研究では、化学物質の生態系レベル評価の可能性を検討すべく、農薬の曝露拠点、かつ生物・生態系サービスのホットスポットである水田をモデルに、複合影響要因や地理的影響を操作・比較可能な野外・開放系実験を主軸として、(1)汎用的な生態系把握のためのコア機能群(共通の特性をもつ生物種や個体群の集合)や相互作用の特定と、(2)実用的な生態系機能の指標(生態系レジリエンス指標)の検討に取り組む。また、それを通じて化学物質による群集・生態系への実効性のある影響評価手法を検討する。
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研究実績の概要 |
令和5年度は、目的達成に向け、野外操作実験(メソコズム試験)を継続し、その結果をもとに、各サブテーマで以下のような成果が得られた。
サブテーマ①の成果: 深層学習技術を活用した水田生物の自動計数手法を開発し、省力的に農薬影響モニタリングを実行できた。また、各地域における水温上昇下において殺虫剤使用が水田生態系の摂食機能群に及ぼす影響の実態を解明すべく解析を進めた。特に水田の上位捕食者であるトンボ群集に対する影響の実態を評価し、(1)水温上昇下では、目レベルの殺虫剤影響が強化されること、(2)水温上昇と殺虫剤に対する反応は科ごとに異なることを解明した(Ishiwaka et al. 2024 Environmental Pollutionに掲載)。さらに、「温暖化と殺虫剤の複合影響による上位捕食者の減少を介した生物群集と水質の反応」について日本生態学会で発表し、ポスター賞(優秀賞)を受賞した。
サブテーマ②の成果:生物群集に対する攪乱影響評価の個別性と頑健性を評価するため、生物間相互作用の条件依存性について検証した。令和3年度の研究で得られた動物プランクトン群集の時系列データにEmpirical Dynamic Modeling (EDM)を適用することで、動物プランクトン群集の生物間相互作用を実験処理ごとに定量し、その条件依存性が軽微であることを示唆することができた。また、令和4年の実験結果を微生物活性の面から解析し、温暖化と殺虫剤が複合的に藻類生産性を低下させる可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
進捗状況は以下の通り。
サブテーマ①については、農薬曝露と水温上昇に対する生物群集の反応について、奈良県奈良市と茨城県つくば市でモニタリングを行い、データの取得が完了した。調査・モニタリング手法のさらなる省力化に向けて、深層学習技術を用いた自動計数技術を開発し、72.4%の検出精度を達成し、目視による計数結果と高い相関を得ることができた。また、サブテーマの目的である「汎用的な生態系把握のためのコア機能群や相互作用の特定」を目指し、地域ごとに摂食機能群(実用的なコア機能群候補)への農薬影響の評価にも取り組み、上位捕食者であるトンボ類への影響を解明した。
サブテーマ②については、前年度に引き続き、コア機能群や相互作用の特定のためのデータ解析を進めた。令和3年の研究で得られた動物プランクトンの群集動態データを用いた時系列解析を行い、動物プランクトン種間の相互作用とその強さおよび正負(相手にプラスまたはマイナスの影響を与えるかどうか)を特定した。その結果、加温や殺虫剤暴露はプランクトン種間の集団あたり相互作用にほとんど影響しないという、「環境に対する動物プランクトン種間相互作用の頑健性」が示唆された。また、令和4年の実験結果を微生物活性の面から解析し、温暖化と殺虫剤が複合的に藻類生産性を低下させる可能性を示した。さらに、除草剤と加温による攪乱影響を評価するための新たな実験を行い、生物群集および栄養塩動態のデータを取得した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、現地調査ならびに深層学習技術を活用したモニタリングを併用して野外操作実験(メソコズム試験)を進め、かつEDM等の先進的な解析手法を取り入れながら、生物多様性および生物(群)間相互作用におよぼす農薬曝露と加温(温暖化)の単独ならびに複合影響プロセスの全容解明を目指す。
サブテーマ①については、本研究であつかう影響要因(農薬,温度上昇)がもたらす水田生物群集への生態影響評価のコア機能群のひとつに「摂食機能群」を位置づけ、異なる地域間で比較する。並行して、両地域に共通で使用可能な生態系把握のためのコア機能群や相互作用のさらなる探索を進める。さらに、調査・モニタリングの省力化に資する新たな手法開発にも着手し、機械学習の精度向上や更なる省力化を目指す。
サブテーマ②については、前年度までに得られた群集動態および生態系の呼吸量、基質分解能、微生物活性、栄養塩動態データを対象とした解析を引き続き進める。これらの結果を奈良市とつくば市で比較し、汎用性と個別性のバランスの取れた指標を探る。また、発展的な内容として、令和5年度に得られた除草剤と加温による攪乱影響に関する実験のデータについて解析を進め、温暖化と農薬が微生物活性を通して栄養塩動態に与える影響を検証する。
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