研究課題/領域番号 |
21K18328
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分1:思想、芸術およびその関連分野
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
出 佳奈子 弘前大学, 教育学部, 准教授 (60469426)
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研究分担者 |
竹囲 年延 弘前大学, 理工学研究科, 助教 (60517712)
慶野 結香 青森公立大学, 国際芸術センター青森, 学芸員 (00736746)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2022年度: 3,640千円 (直接経費: 2,800千円、間接経費: 840千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 美術作品 / 香り / 嗅覚 / 脳 / 檀像 / ニオイセンサ / 香りと脳波 / 現代美術 / 美術作品の受容 / 嗅覚システム / 美術館展示 |
研究開始時の研究の概要 |
美術作品の受容における「嗅覚」のはたらきは、美術史研究においても、現代の美術作品においても、また美術館における作品体験の面でもこれまでほぼ看過されてきた。対して、人工知能の開発分野においては、嗅覚センサやシステムの開発が進み、それらをアニメーションやゲームに導入する試みもなされている。記憶や情操に作用する嗅覚のはたらきは、イメージ受容のあり方にも大きな変化をもたらすであろう。以上の学術的背景から、本研究は、「美術作品の受容における香りの効果と嗅覚のはたらき」・「現代アートにおける嗅覚システムの応用可能性」・「美術館等展示施設における嗅覚システム利用の効果」を明らかにしようとするものである。
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研究実績の概要 |
香りと美術作品の関係、さらには香りをともなう作品が鑑賞者に及ぼす影響を探るため、以下の調査・実験を行った。 第一に、香りをともなう過去の宗教作品に注目し、それらの作品と香りが観者にどのように働きかけ、またどのように受け止められていたのかを明らかにするため、キリスト教の文脈で香りに言及した文献を調査し、受容者(=信者)と香りの関係を明らかにしていった。また、仏教における仏像と香りの関係にも注目し、制作当時胎内に香を収納されていたことが判明している神奈川県立歴史博物館所蔵の《菩薩半跏像》の実地調査を行い、内容物の確認をした。仏像の体内に香を収納する習慣についてはいくつかの経典においても説かれており、頻繁に行われていたことが推測される。とはいえ、胎内の収納物が現存する例は稀であり、また内蔵物が確認されていたとしても、納められていた香がどのような材料で作られ、どのような香りを持っていたのかを科学的の調査した例はない。そこで、上述の菩薩半跏像内にあった香の構造を、ガスクロマトグラフィで化学的に分析する準備のため、他の香料を用いた試験的な実験を行った。 第二に、香りをともなう作品鑑賞とともなわない作品鑑賞が人の脳にどのように作用しているのかを明らかとするため、脳波計を用いた実験を実施した。具体的には、被験者の頭部に脳波測定のための電極を取り付け、モニター用の画面に白檀による木彫作品を映し、画面を視覚のみでとらえた時と、木彫の材料である白檀の木屑の匂いを嗅ぎながらとらえた時とで、脳の反応がどのように変化するかを確認した。これによって、香りをともなう時の方が脳の反応が大きくなる傾向にあることは明らかとなったがら、被験者の年齢や性別によって異なる場合があることも判明した。 第三に、白檀・榧・シナで制作した同じデザインの彫刻を展示し、香りをともなう鑑賞体験を実施し、アンケート調査を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
とりわけ、香りをともなう嗅覚を使った作品鑑賞が人に与える影響の調査が順調に進んでおり、被験者の年齢や性別、また実験に用いる香りの種類別にさらに細かい実験を行う段階まで来ている。次年度は被験者とサンプル数を増やしたり、実験する場所を変えたりしながらデータ数を増やし、より詳細な実験結果を得ることができるように準備されている。また、仏像の内容物の調査についても香りを分析する方法を見出した段階までは来ており、今後は実際の内容物の化学分析を行いたい旨、所蔵者にも伝えているところである。さらに、次年度に予定している国際芸術センター青森での成果報告を兼ねた展覧会を想定して、匂いを材料に用いて活動しているアーティストにも声がけをしている段階である。 以上の点から、研究は概ね順調に進んでおり、次年度以降に成果を出せる段階にきていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
過去における香りと作品が人に与えていた影響の考察を進めるにあたって、特に宗教美術に絞って、その思想的背景を探る文献調査をさらに進める。それによって、これまであまり考察の対象に含まれてこなかった香りや嗅覚に対する心性史を掘り下げていきたい。また、仏像の胎内に収納されていた香りについては、上述の神奈川県立歴史博物館の菩薩像の胎内から発見された香の成分分析をガスクロマトグラフィで行う。 脳波計を使って、香り付きの作品鑑賞が人の脳に与える刺激の程度を明らかにする研究では、年齢・性別の異なる被験者をそれぞれ10人程度ずつ集め、さらに細かなデータ分析を行なっていく。その際、実験の用いる匂いのサンプルは、キリスト教美術研究の文脈で比較的多く言及されている乳香あるいは龍涎香と、仏教美術における檀像の材料であることの多い白檀を使用する。できれば、上述の菩薩像に収納されていた香と同じ匂いサンプルも使用したいと考えている。 現代のアート作品における香りの位置付けとその受容については、上述の実験結果なども参考にしつつ、アーティストと相談の上、香りをテーマとする展覧会あるいはシンポジウムを年度末に予定している。
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