研究課題/領域番号 |
21K18344
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分1:思想、芸術およびその関連分野
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
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研究分担者 |
ソン ヨンア 法政大学, デザイン工学部, 教授 (20831423)
城 一裕 九州大学, 芸術工学研究院, 准教授 (80558122)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2021年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
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キーワード | speculative ethics / more-than-human / biological HCI / 発酵 / 微生物 / ACI / モアザンヒューマン / 東アジア / デザイン理論 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は,アジア的な自然観,宗教的価値観,そして文化背景をモアザンヒューマン(環境哲学の議論で生まれた,人間以外の自然存在を「人間以上の存在」と捉える概念)の議論と接続するために,研究年度ごとに日本,韓国,台湾において現地調査を行い,得られた知見を情報技術のデザイン方法論と接続し,理論的な枠組みを確立することを目的とする.本研究提案は,工学研究の経験と多様なアジア文化を背景に持つ研究チームが,東アジアの発酵醸造文化における自然存在に対するケアの作法をデザインの対象として捉え,人新世時代において人間と自然存在がより調和的に共生するためのデザインと芸術表現の糸口をさぐるものである.
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研究実績の概要 |
本研究は,近年,特に欧米を中心として活発になっている脱人間中心主義の議論のなかで扱われる「モアザンヒューマン」、つまり人間以外の自然存在を「人間以上の存在」と捉え、人間と自然の対称性を回復するために用いられる概念を、アジア各地の発酵食品産業における自然観,宗教的価値観,そして文化背景と接続した上で,情報技術の設計に応用するフレームを確立することを目的とする。 本年度においては、前年度までの日本、韓国、台湾におけるフィールドリサーチの結果を受けて、「メタファーとしての発酵」モデルを更に推し進めるべく、発酵食文化における人間と非人間アクター(微生物、器具や建築物、包囲環境)たちが相互作用を持続させながら生成変化する在り方の理論を深り、論文と書籍の執筆およびデザインワークショップの開催を行った。また、2023年12月から石川県金沢市の発酵醸造文化のフィールドリサーチを開始したが、2024年元旦の能登半島地震発生に伴い、地元の醸造蔵の人びとの災害への対応を聞き取り調査し、その過程で得られた知見を国際学会での関連するテーマ設定に基づいたワークショップ参加にて発表し、議論を行った。2024年度において、金沢市内において発酵食文化の調査に基づいた、新規インタフェースを用いた作品展示を行い、その制作過程と鑑賞者による受容を観察し、また、関連して、3回目となる発酵デザインワークショップを開催し、その過程と結果をまとめて、国際学会や論文誌への投稿や書籍執筆を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究計画は、研究分担者の産休と育休に伴い、若干の計画推進の遅延が生じた関係で2024年度まで延長を行ったが、2024年度秋に金沢市内において21世紀美術館を中心として開催予定である地域交流アートプロジェクトのキュレーションおよび作品出展が決定した関係で、結果的に本研究計画の集大成を発表する場と、論文執筆の機会が得られることとなったため、順調な進展であると考えている。 スペインとフランスにおける発酵食に関する議論の場への参加を経て、2023年9月には、人間の動的な生成変化のモデルに基づいたウェルビーイング概念およびそのデザイン可能性について論じた共著書籍を上梓し、その中でも発酵食文化の観察と分析から得られた知見をまとめた。 また、2023年12月から2024年2月まで、東京において14名の一般参加者を募り、2022年度に開催した発酵デザインワークショップの第二弾を開催した。参加者はぬか床を仕込み、期間中そのケアを続行しながら、人と微生物の双方の活動から影響を受け、望ましい変化と望ましくない変化の両方を経るプロダクトデザインの可能性を探った。この結果は、ACM CHI 2024のSustainable Unmaking Workshopにてポジションペーパーとしてまとめ投稿し、発表と議論を行うことができた。 この一連の過程で得られた知見は、科研費(基盤B)「自然存在との相互ケア的な関係性を築くコミュニケーションデザインの提案と実践的評価」(21H03768)にもフィードバックし、システムデザインの議論にフィードバックしている他、発酵食文化において顕著な特徴である人間の営為と意図から離れた状況を歓待する側面の哲学的な議論は、「共話」という日本文化に根付く相互作用の議論とも接続し、ACM CHI24に採択されたコミュニケーションに関する論文の理論的フレームワークの構築を助けた。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となることを予定している2024年度は、主に金沢における発酵食文化をテーマにした地域交流アートプロジェクトへの参加を通して得られた知見をまとめ、デザインに関する国際学会または論文誌への投稿を予定している。また、2023年度に開催した発酵デザインワークショップの成果に基づき、2024年度においては3回目の同ワークショップ開催を予定しており、こちらの成果も併せて、もしくは別途、研究論文や書籍としての発表を行いたい。
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