研究課題
挑戦的研究(萌芽)
本研究は,地球科学分野で確立・熟成された解析手法の他研究分野への最大級の波及効果を狙った世界初の試みであり,最先端の解析手法を考古学分野に提供するための挑戦的課題である.具体的には,近代地質学への最大のパラダイムシフトである「ジルコンの局所年代法」を土器に適用する.本研究では,破壊を伴う解析に必要な土器の総量とジルコン混入の起源について,ジルコン年代測定に加え,鉱物分離,胎土分析,鉱物種分析からアプローチする.土器は世界各地の遺跡から普遍的に出土し,一つの遺跡から多量に出土する場合もあるため,本分析手法の確立により,極めて「広域的に」「高密度で」「高精度な」物流ネットワーク解析が展開できる.
令和5年度は,筑紫地区遺跡群(御供田遺跡)から出土した弥生土器,須恵器,遺跡の風化土壌,遺跡周辺岩石(黒雲母-白雲母花コウ岩),遺跡周辺の川砂の試料から分離した全502粒子のジルコンについてU-Pb年代測定を実施した.まず,遺跡周辺に分布する花コウ岩からは,93 ± 1.1 Ma(9千3百年前)の年代が得られた.この岩体は,北部九州の花コウ岩体の中で早良花コウ岩と呼ばれ,これまで報告されている周辺の花崗岩類の年代(94 ± 1.1 Ma; 堤ほか,2022)に調和的であった.弥生土器と風化土壌の年代頻度分布は極めて類似し,年代ピークは95から90 Maをしめすが,全ての試料で110 Ma程度までの古いジルコン粒子を含むことが明らかとなった.年代ピークは3資料の弥生土器でそれぞれ,94 ± 1 Ma,93 ± 1 Ma,93 ± 1 Ma,3試料の風化土壌が94 ± 1 Ma,91 ± 1 Ma,91 ± 1 Maであり,遺跡周辺の花コウ岩の年代値に極めて近い年代をしめした.一方で,須恵器中に含まれるジルコンは97 ± 2 Maをしめした.遺跡周辺の牛頸川で採取した川砂試料から得られたジルコンからは,91 ±2 Maおよび103 ± 2 Maのバイモーダルなピークが得られた.ここれらの年代は,遺跡周辺の早良花コウ岩と上流に分布する糸島花崗閃緑岩を起源とするジルコン粒子と考えられる.これらの結果から,筑紫地区遺跡群出土の弥生土器に関しては現地性の粘土を使用していたことは明らかである.このことはこれまでの胎土分析では混和材の影響で直接的に対比できなかった粘土と胎土を本手法によって完璧に対比できることが可能であり,今後の遺跡間物流解析ツールとしての有用性がしめされた重要な発見である.さらに須恵器から得られた年代の違いは,考古学的にも非常に高い重要性をしめしている可能性がある.
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