研究課題/領域番号 |
21K18390
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分3:歴史学、考古学、博物館学およびその関連分野
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所 |
研究代表者 |
国武 貞克 独立行政法人国立文化財機構奈良文化財研究所, その他部局等, 主任研究員 (50511721)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
2021年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
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キーワード | 新人到来 / 後期旧石器時代初頭 / 大型石刃 / 小石刃 / 斜軸尖頭器 / 発掘調査 / 3万7千年前 / 年代測定 / 初期後期旧石器時代 / 尖頭形剥片 / ユーラシア大陸 / ホモサピエンス / 日本列島 / 後期旧石器時代 / 尖頭器 / 石刃製作跡 / 香坂山遺跡 / ユーラシア / 初期後期旧石器時代(IUP) |
研究開始時の研究の概要 |
5~4万年前の新人最古期の文化は斉一的で北アジアまで及ぶが東アジアまで新人の最初の拡散が到達したか不明である。3.8万年以前の後期旧石器遺跡がない列島には新人のユーラシア拡散の本流は直接及ばなかったとされる。これに対し申請者は長野県香坂山遺跡を発掘した結果ユーラシア最古期と酷似した石器群を列島で初めて発見した。そのため本研究では香坂山遺跡を発掘して石器組成を確定し年代を決定して、新人のユーラシア拡散の本流が列島に直接流入した可能性を検証する。成否はその石器組成がユーラシア最古期と対比可能か否か、石刃石器群として列島最古の年代値が得られるかで決まる。既存研究への影響は計り知れず波及効果は大きい。
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研究実績の概要 |
令和5年度には日本列島最古の石刃石器群の類例を検討するために、3万6千年前よりも古いと見込まれる遺跡の発掘調査を試みた。昭和46年に発掘されていた大型石刃の資料からみて、北八ヶ岳麦草峠直下の標高1700mのトリデロック遺跡の発掘調査を行った。その結果、3万5千年前の八ヶ岳第4軽石層の下部の暗色帯から、麦草峠産黒曜石を素材とした石器集中部1か所を検出した。放射性炭素年代測定の結果、較正年代で3万6千900年前の年代値が得られ、最古の石刃石器群である香坂山遺跡とほぼ同時期の遺跡であることが判明した。この石器群の内容を詳しく分析している最中であるが、中型石刃を組成し、小石刃核と小石刃、及び定義的な斜軸尖頭器である尖頭形剥片を組成する石器群であることが分かっている。現在整理分析中ではあるが、本研究で目標としていた列島最古の石刃石器群の貴重な類例を得ることが出来た点で非常に大きな成果を得た。この石器群の技術組成は、大小の石刃と斜軸尖頭器の組み合わせを示す点では、香坂山遺跡と共通するが、小石刃核から観察される小石刃生産技術は大きく異なっている。その技術分析は今後の課題であるが、現在の所見では香坂山遺跡において確認している彫器状石核からの小石刃剥離ではなく、打面を作出したやや粗い楔形の石核からの剥離であり、中央アジアや北アジアの後期旧石器時代前期(EUP期)の小石刃生産技術と類似している。黒色安山岩の原産地近傍である香坂山遺跡と異なり、黒曜石を素材とする場合には、ほぼ同時期であっても異なる技術が発現していたことを示しており、最古の石刃石器群の新たな技術様相を把握できる可能性を示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題においては、列島最古の石刃石器群である香坂山遺跡と同時期の石器群を、香坂山遺跡とは異なる石材原産地で把握することを目指していた。その目的のもと同じ中部高地のうちで黒曜石原産地遺跡において、過去の発掘データと地形、及び露頭断面から観察される堆積状況、3万5千年前の八ヶ岳第4軽石の降下範囲を勘案して、トリデロック遺跡を発掘調査し、当初の目的通り、香坂山遺跡とほぼ同時期の石器群の検出に成功した。列島最古級の遺跡の発掘調査は決して容易ではなく、目標を立てたとはいえ新たに確実な新資料を得ることは非常に困難である。このため、その可能性のある資料を入手できれば、十分な進展と考えていたが、それ以上に1度目の挑戦により、香坂山遺跡と対比可能な完全な新資料を入手することが出来た。この点で、当初の計画以上の進展がったと評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度に新しく獲得した最古の石刃石器群の類例であるトリデロック遺跡の発掘資料を分析して論文投稿により成果を公表する予定である。香坂山遺跡との比較を通じて、日本列島に到来した最初期のサピエンスによる最古の石刃石器群の技術組成の全体像を可能な限り復元する。この他に、トリデロック遺跡では石刃製作跡を検出することが出来なかったため、北八ヶ岳蓼科山付近において、和田峠産黒曜石に関連した後期旧石器時代初頭の石刃製作遺跡を探索し、可能であれば試掘調査を試みる。これらにより列島最古の石刃石器群の技術的な特徴について明らかにするとともに、それを中央アジアや北アジアの同時期の石刃石器群と比較検討することにより、本研究課題が目標としていたユーラシア大陸北回り現生人類の列島到来の可能性について、考古学的な手掛かりを得ることを目指す。
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