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パブリックヒストリーとダークツーリズム

研究課題

研究課題/領域番号 21K18396
研究種目

挑戦的研究(萌芽)

配分区分基金
審査区分 中区分4:地理学、文化人類学、民俗学およびその関連分野
研究機関金沢大学

研究代表者

井出 明  金沢大学, GS教育系, 教授 (80341585)

研究分担者 深見 聡  長崎大学, 水産・環境科学総合研究科(環境), 准教授 (20510655)
後藤 真  国立歴史民俗博物館, 大学共同利用機関等の部局等, 准教授 (90507138)
研究期間 (年度) 2021-07-09 – 2025-03-31
研究課題ステータス 交付 (2023年度)
配分額 *注記
6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
2021年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
キーワードダークツーリズム / パブリックヒストリー / 福島第一原発事故 / 能登半島地震 / 博物館 / 観光
研究開始時の研究の概要

20世紀末に観光の新しい概念として提唱されたダークツーリズムは、近年急速かつ世界的に広まりつつある。しかし、日本はもちろんのこと、海外においてもさまざまな反発が存在し、具体的に展開していくための手法が確立していない。こういった反発に対応し、悲劇をいかに教訓として承継していくのかという点について、欧米では近年パブリックヒストリーなる概念が提唱されている。これは、地域史を専門家のものとせずに、住民ベースで納得のできる形で次世代につなげていこうとする手法である。本研究では、パブリックヒストリーの方法論とダークツーリズムの接続を試みる。

研究実績の概要

この三年間、ダークツーリズムと歴史学の新しい方法論であるパブリックヒストリーの関係性について考察を深めてきた。地域の影の記憶を、地域住民が主体となって、専門家と協働しつつ歴史を承継していく可能性や手法について、理論的かつ具体的に掘り下げてきた。
幸いなことに、観光学・歴史地理学・歴史学とそれぞれ専門を異にするメンバー間の関係は良好であり、研究は建設的に進展してきた。特に、ダークツーリズムは近代の諸概念を批判的に検討するポストモダニズム思想と密接な関係性があるため、学際研究として展開されている本テーマは挑戦的研究のふさわしいモデルとなっていると言えよう。
今年度の重要な発見としては、ダークツーリズムと災害復興を表すキーワードとしてしばしば使われるホープツーリズムが決して背反ではなく、補完概念であるという気付きがあった。詳しくは他項目に譲るが、公が記そうとする歴史から漏れた地域史は、必ずしも地域の多数派にとっては喜ばしい記憶ではないため、なかなか承継されにくい。これらはしばしば民間レベルの私設伝承館のようなところから発信されるのであるが、その内容はまさに地域の影の歴史であるため、ダークツーリズムの主要なコンテンツとなっている。
歴史上の記憶は、光の影の両面からアーカイブ化される必要があり、それは車軸の両輪を構成していると言える。それ故、市井の人々が担うパブリックヒストリーは、ダークツーリズムとの関係性が必然的に強くなる一方、光の部分から語られる公の歴史と一体をなしつつ、地域の全体像を描き出すことになる。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

現在までの研究の進捗については、概ね順調に推移している。海外の研究者とともに日本のダークツーリズムポイントを訪れ、それぞれの専門分野からパブリックヒストリーの知見を踏まえた考察を深めることが出来た。特に福島県浜通り地域において、国や自治体そして東京電力による博物館・資料館で語られるいわば「公定の歴史認識」に加え、民間ベースの歴史伝承がダークツーリズムの実施と同期的に拡散している状況が確認できている。詳しい内容については、研究の完成時に改めて報告したい。
また2023年の9月にモロッコのジオパークの国際会議において自然災害とダークツーリズムの関係性について報告しているが、この時期にちょうど地震が起こり、地域における災害の記憶の承継と観光開発の関連性について議論と理解を深めることが出来た。
この他、2023年が関東大震災100周年であったことから、10月にソウル大学で開かれたアジア学術会議において、自然災害と(朝鮮人を始めとする)大量虐殺の関係についても、どのように記憶を承継していくべきかという観点から、討議を行うことが出来た。
このように、研究自体は順調に進んできていたが、本年1月に能登半島地震が起きたため、急遽研究を一年延長することにした。この理由については次項で詳しく述べる。

今後の研究の推進方策

今年1月1日におきた能登半島地震は、研究代表者が所属する大学にも大きな影響をもたらし、復旧・復興に対する地元から研究者への期待も大きい。ダークツーリズムとパブリックヒストリーの関係性については、上に記述した通り、密接なつながりがあり、今後北陸の被災地で語られる災害の記憶と現地への訪問が、本研究によって有機的に結び付けられる可能性がある。
今回、あえて研究期間を一年延長した背景には、この能登半島地震に対して、リアルタイムで当該研究成果を適用できないかという根源的な願いがある。幸いなことに、地元メディアから「石川テレビ賞」という形で、ダークツーリズムがオーソライズされ、能登半島地震における応用に関しても地域からの要望がある。それ故、これまで「ダークツーリズムという言葉を使うことが適切か」や「ダークツーリズムが地域に受け入れられるためにはどうすればよいのか」というレベルの概念的研究にとどまらず、より実践的なダークツーリズムの展開が可能となっている。換言すれば、過去の歴史に対して目を向けていたパブリックヒストリーとダークツーリズムの関係性について、未来に向けた現実的な課題として考えていくことになる。

報告書

(3件)
  • 2023 実施状況報告書
  • 2022 実施状況報告書
  • 2021 実施状況報告書
  • 研究成果

    (41件)

すべて 2024 2023 2022 2021 その他

すべて 国際共同研究 (7件) 雑誌論文 (19件) (うち査読あり 10件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (12件) (うち国際学会 2件) 図書 (3件)

  • [国際共同研究] ハーバード大学(米国)

    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [国際共同研究] ヤギェヴォ大学(ポーランド)

    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [国際共同研究] ウプサラ(スウェーデン)

    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [国際共同研究] ハーバード大学(米国)

    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
  • [国際共同研究] ヤギぇヴォ大学(ポーランド)

    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
  • [国際共同研究] ロンドン大学(英国)

    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
  • [国際共同研究] ハーバード大学(米国)

    • 関連する報告書
      2021 実施状況報告書
  • [雑誌論文] 地域歴史資料Linked Dataのための情報基盤構築2024

    • 著者名/発表者名
      亀田尭宙,後藤真
    • 雑誌名

      情報処理

      巻: 65 ページ: 292-304

    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
    • 査読あり
  • [雑誌論文] Quantitative content analysis of codes of conduct for ecotourism in Japan2024

    • 著者名/発表者名
      Wanqing Zhang, Satoshi Fukami
    • 雑誌名

      Journal of Hospitality and Tourism Managemen

      巻: 58 ページ: 209-213

    • DOI

      10.1016/j.jhtm.2024.01.002

    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
    • 査読あり
  • [雑誌論文] 地方芸術祭の財政分析 奥能登国際芸術祭の批判的検討2023

    • 著者名/発表者名
      倉本啓之, 井出明
    • 雑誌名

      地域生活学研究

      巻: 14 ページ: 25-39

    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 白米千枚田における持続可能な観光についての一考察2023

    • 著者名/発表者名
      倉本啓之, 井出明
    • 雑誌名

      日本観光学会誌

      巻: 64 ページ: 13-23

    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] デジタルとウェブがひらくパブリックヒストリー2023

    • 著者名/発表者名
      後藤真
    • 雑誌名

      世界思想

      巻: 50 ページ: 90-94

    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [雑誌論文] Ecotourism and environmental education: Significance and status quo in Japan2023

    • 著者名/発表者名
      Wanqing Zhang, Satoshi Fukami
    • 雑誌名

      九州地区国立大学教育系・文系研究論文集

      巻: 10 ページ: 1-15

    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
    • 査読あり
  • [雑誌論文] Legal Considerations on the Relationship Between Tourism Marketing and AR2023

    • 著者名/発表者名
      Akira Ide
    • 雑誌名

      Information and Communication Technologies in Tourism 2023: Proceedings of the ENTER 2023 eTourism Conference,

      巻: 1 ページ: 329-333

    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] 歴史・文化系のデジタルアーカイブとその広がり2023

    • 著者名/発表者名
      後藤 真
    • 雑誌名

      全科教NEWS

      巻: 53(2) ページ: 8-9

    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
  • [雑誌論文] 影から地域に迫る方法論: ダークツーリズムという試み2022

    • 著者名/発表者名
      井出明
    • 雑誌名

      生活教育

      巻: 74(6) ページ: 2-7

    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
  • [雑誌論文] タビによる記憶の継承-ダークツーリズムという方法2022

    • 著者名/発表者名
      井出明
    • 雑誌名

      建築雑誌

      巻: 1759 ページ: 16-17

    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
  • [雑誌論文] エコツーリズムにおける環境教育の推進に関する研究2022

    • 著者名/発表者名
      深見聡・張婉清
    • 雑誌名

      アジア文化

      巻: 42 ページ: 130-144

    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
  • [雑誌論文] 人文学社会科学分野における学際的共同研究類型化の試み2022

    • 著者名/発表者名
      朝岡 誠, 大波 純一, 林 正治, 関野 樹, 後藤 真, 山地 一禎
    • 雑誌名

      」じんもんこん2022論文集

      巻: 1 ページ: 131-136

    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
    • 査読あり
  • [雑誌論文] デジタル歴史資料が導き出しうる「パブリック・ヒストリー2022

    • 著者名/発表者名
      後藤真
    • 雑誌名

      歴史学研究

      巻: 1021 ページ: 45-49

    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
  • [雑誌論文] デジタル歴史資料が導き出しうる「パブリック・ヒストリー」とは2022

    • 著者名/発表者名
      後藤真
    • 雑誌名

      歴史学研究

      巻: 1021 ページ: 45-49

    • 関連する報告書
      2021 実施状況報告書
    • 査読あり
  • [雑誌論文] タビによる記憶の継承 -ダークツーリズムという方法(<特集>災害の記憶の継承)2022

    • 著者名/発表者名
      井出明
    • 雑誌名

      建築雑誌

      巻: 1759 ページ: 16-17

    • 関連する報告書
      2021 実施状況報告書
  • [雑誌論文] 地域資源の保全と観光のジレンマ ―長崎県平戸市春日集落における事例を中心に―2021

    • 著者名/発表者名
      深見聡, 小川知夏
    • 雑誌名

      アジア文化

      巻: 41 ページ: 126-136

    • 関連する報告書
      2021 実施状況報告書
    • 査読あり
  • [雑誌論文] 長崎市外海地区における潜伏キリシタン遺産の保全活動のゆくえ―枯松神社の事例から―2021

    • 著者名/発表者名
      深見聡, 伊藤凌
    • 雑誌名

      日本観光研究学会全国大会学術論文集

      巻: 36 ページ: 205-208

    • NAID

      40022758831

    • 関連する報告書
      2021 実施状況報告書
  • [雑誌論文] 島嶼地域における観光振興-「奄美・沖縄」の事例から考える2021

    • 著者名/発表者名
      深見聡
    • 雑誌名

      都市問題

      巻: 112(7) ページ: 56-63

    • 関連する報告書
      2021 実施状況報告書
  • [雑誌論文] コロナ禍と博物館② 新型コロナウイルス蔓延下における博物館の諸活動と今後―オンライン・現代資料・パブリック―2021

    • 著者名/発表者名
      後藤真
    • 雑誌名

      日本史研究

      巻: 706 ページ: 60-73

    • 関連する報告書
      2021 実施状況報告書
    • 査読あり
  • [学会発表] 観光地における訪問者への災害情報の伝達 について2023

    • 著者名/発表者名
      井出明
    • 学会等名
      日本観光学会
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [学会発表] 観光地における災害の発生とそ の対応について考える2023

    • 著者名/発表者名
      井出明
    • 学会等名
      日本島嶼学会
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [学会発表] Bridging Geotourism and Dark Tourism2023

    • 著者名/発表者名
      Akira Ide
    • 学会等名
      International Conference on UNESCO Global Geoparks 2023
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
    • 国際学会
  • [学会発表] Potential for Interaction through Dark Tourism in Japan and South Korea2023

    • 著者名/発表者名
      Akira Ide
    • 学会等名
      Science Council of Asia Conference
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
    • 国際学会
  • [学会発表] 日本型ダークツーリズムとオリジナルの共進化2023

    • 著者名/発表者名
      井出明
    • 学会等名
      進化経済学会
    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
  • [学会発表] 国によって設立された博物館・資料館・展示館の動向について2022

    • 著者名/発表者名
      井出明
    • 学会等名
      アートマネジメント学会
    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
  • [学会発表] 領土・主権展示館に見る島の描かれ方2022

    • 著者名/発表者名
      井出明
    • 学会等名
      島嶼学会
    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
  • [学会発表] 災害の記憶におけるパブリックヒストリーとダークツーリズム2022

    • 著者名/発表者名
      井出明
    • 学会等名
      地域安全学会
    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
  • [学会発表] ダークツーリズムとDarkTourismの間隙2022

    • 著者名/発表者名
      井出明
    • 学会等名
      日本観光学会
    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
  • [学会発表] 奄美大島の世界遺産登録とエコツーリズムに関する一考察2022

    • 著者名/発表者名
      王奕寧・深見聡
    • 学会等名
      日本観光学会九州・沖縄支部大会
    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
  • [学会発表] エコツーリズムで環境教育を担うのは誰か2022

    • 著者名/発表者名
      張婉清・深見聡
    • 学会等名
      日本観光学会九州・沖縄支部大会
    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
  • [学会発表] 学際研究としてのパブリック・ヒストリーとダークツーリズム2022

    • 著者名/発表者名
      井出明・深見聡・後藤真
    • 学会等名
      進化経済学会
    • 関連する報告書
      2021 実施状況報告書
  • [図書] Ethics and Sustainability in Digital Cultures(Cultural frictions in the ethics of smartphone games,pp169-183)2023

    • 著者名/発表者名
      Ide, A., & Pachciarek, P
    • 総ページ数
      14
    • 出版者
      Routledge
    • ISBN
      1032434643
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [図書] 古文書の科学2023

    • 著者名/発表者名
      渋谷 綾子、天野 真志
    • 総ページ数
      240
    • 出版者
      文学通信
    • ISBN
      4867660043
    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
  • [図書] 世界史とは何か(デジタル技術を活用した歴史研究の展開を分担執筆)2021

    • 著者名/発表者名
      後藤真
    • 総ページ数
      342
    • 出版者
      岩波書店
    • ISBN
      9784000114110
    • 関連する報告書
      2021 実施状況報告書

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公開日: 2021-07-13   更新日: 2024-12-25  

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