研究課題/領域番号 |
21K18567
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分10:心理学およびその関連分野
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
服部 雅史 立命館大学, 総合心理学部, 教授 (50301643)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2023年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2021年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
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キーワード | 思考 / バイアス / 推論 / 判断 / 合理性 / 創造性 / 問題解決 / 抑制機能 / 意思決定 |
研究開始時の研究の概要 |
何かを「しない」ことは「する」ことの否定であるが,そこには単なる論理値の反転以上の違いがある。「する」ことには注意が当たるが,「しない」ことは背景に退く。つまり,思考の「図と地」が形成されている。この図と地の差異化が,一方では余計なことを考えなくて済むよう思考を省力化するが,他方では思考のバイアスを生む。本研究は,従来,心理学で扱われてきたエラーの多くが,思考の図と地に関わっていると考え,認知基盤を再考する。研究成果は,思考のバイアスを固定化させずに柔軟な考えを持つために何が必要かの示唆を与え,多様性を許容する社会の実現に貢献することが期待できる。
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研究実績の概要 |
当初の研究計画にしたがい,モンティ・ホール問題と後知恵バイアス課題を実験材料として二重フレーム間の切り替えを引き起こすような実験操作を教示によって行い,また,個人差としての特性要因による説明を意図して他の課題との関連性を明らかにする実験を行った。 実験の結果,二重フレーム(A/Bフレーム)の効果は確かに認められたが,単一の概念でバイアスの起こりやすさと個人差をすべて説明し尽くすことはできないことが明らかになった。たとえば,モンティ・ホール問題と同型でありながら正答率の非常に高い課題の作成には成功したが,そのためには,仮説として考えていた二重フレームの要因(「思考の図と地」の反転)だけでなく,その他の複数の要因を同時に変更する必要があった。また,後知恵バイアスと心の理論の誤信念課題の誤りやすさの間には,メタレベルの非対称性という意味で共通性があることから課題成績間に個人差の点で関連性が予想されたが,実験の結果,ほとんど関連はみられなかった。つまり,バイアスの起こりやすさやバイアスを起こす個人特性には,複数の要因が複雑に関係していることが示唆された。 本研究を実施しながら仮説を再考する過程で明らかになったことは,従来の研究における「バイアス」という現象に対する捉え方(フレーム)の偏り(バイアス)である。自閉スペクトラム症者が,むしろ合理的な推論をする傾向があるという事実は,この点において示唆的である。バイアスのない推論は脱文脈化した推論であり,目標を単一のものに絞った「切り取られた」推論である。こうした推論は,しばしば社会的に望ましくないことがあり,「よい」推論のためには創造性が必要になる。 今後の研究の展開としては,合理性の本質を明らかにするためには創造性との関係が問題となることに気づいたため,創造性と合理性の関係,さらには創造性の測定と拡張の研究を進めていく。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年度までのところで,研究の進捗に大きな遅れをとった。理由は昨年度の実績状況報告書に記した通りである。 2023年度に実施した研究の結果,上記の「研究実績の概要」の通り,研究開始前に考えていた仮説が誤っていることが判明した。そのこと自体は残念なことであったが,誤っているという情報そのものは研究を別の方向に進めるためのよいきっかけとなり,よって研究の進展のためには大いに有益であった。 現在は,合理性と創造性との関係や創造性の測定と拡張の研究に着手している。当初の予定と方向性が変わったこともあり,研究自体はやや遅れてはいるものの,進捗に大きな問題はない。研究期間を1年延長することが認められたため,その期間内に一定の成果を収める予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は,当初予定の研究期間を過ぎているが,期間延長承認申請書に記した理由により,当初計画の変更の承認のもとで実施するものである。 ここ数年間,感染症拡大の影響で海外の国際会議での発表が思うようにできなかったが,感染症拡大状況も落ち着いて海外渡航も通常化しつつあるため,これまで執行できなかった予算を使用して,これまでの研究成果を国際会議で発表する。 また,以前に比べると感染症の状況が大きく改善して,対面での実験実施も容易になっていることから,2024年度は,前年度からの繰越予算を実験プログラム作成やクラウドソーシングを利用した実験の謝金などにも使用する。
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