研究課題/領域番号 |
21K18581
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分12:解析学、応用数学およびその関連分野
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
赤木 剛朗 東北大学, 理学研究科, 教授 (60360202)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
2023年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2021年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | 非整数階微分 / 発展方程式 / 非線形問題 / 摂動理論 / 解の漸近挙動 |
研究開始時の研究の概要 |
拡散現象は人間の老化や薬剤の効果など私達の生活に密接に関わる重要な物理現象の一つである。その基礎理論は前世紀中に確立したが、そこから逸脱する重要な現象が数多く発見され、それらを理論的に理解する試みが多くなされた。本研究課題ではそのための数学的理論を整備するために、非整数階微分(例えば1/2階微分やπ階微分)を伴う微分方程式の研究を行う。特に具体的な方程式に対する精密な個別解析から、広いクラスの方程式を一括して扱うことのできる一般論の構築まで、具体と抽象が交差する数学の強みを活かした研究を行い、非整数階微分と非線形構造が共存する発展方程式が記述する特異な現象を理解するための枠組みを構築する。
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研究実績の概要 |
今年度は、申請者が2019年にIsrael Journal of Mathemaitcs誌に発表した非整数階微分を伴う勾配流理論を拡張するために前年度から取り組んだ非凸型エネルギー汎関数に対する非整数階微分を伴う勾配流に関する予備的研究を発展させ、抽象論の枠組みで時間局所解の存在およびエネルギーに強圧性を仮定した上での時間大域解の存在を証明した。またその際に仮定する条件は古典的な勾配流の場合と同程度のものであり、抽象論として十分な完成度を持つものとなった。さらにこの抽象論を非整数階微分を伴う爆発項付き退化放物型方程式の初期値境界値問題へ応用し、時間局所解および時間大域解の存在性の証明に成功している。非整数階微分を伴う場合でも半線形の問題に対しては(半群理論はそのまま利用できないものの)積分方程式による接近法が有効であり、既にGalやWarmaらによって主だった問題は解決されていた(同氏らのモノグラフ参照)。一方、p-Laplacianに代表される退化楕円型作用素を伴う問題に対して類似の結果は全く見当たらない。これは積分方程式による接近法が適用できないため、有効な基礎理論が構築されていないことに起因する。今年度の研究成果は同問題に対する解析基盤を整備するものであり、それに基づいて同問題のさらなる解析の足がかりとなることが期待される。実際、小さな初期値に対する時間大域解の存在やそのような時間大域解の最適な減衰レートについて予備的な研究結果も得られている。特に興味深いことは、非整数階微分のオーダーを1に近づけても、古典的な結果とは連続的に接続しないことが明らかになった点である。このことはリーマン・リュービル(もしくはカプート)微分の定義に内在する構造と関係があり、同微分の定義の妥当性を検証する一つの材料となることが期待される。以上は中島慶人氏(東北大学)との共同研究の結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年に発表した非整数階微分を伴う勾配流理論はほぼ凸型のエネルギー汎関数しか扱うことができず、その摂動理論の構築が本研究課題の大きな目標の1つであった。それに対して汎関数の凸性の仮定を大きく緩めることができたことは重要である。特に偏微分方程式への応用に於いては既存の理論では扱うことができなかった問題をカバーすることに成功しており、理論の拡張にむけて十分な進展がなされたと考える。また個々の偏微分方程式に特化した解析に関する予備的研究も進んでおり、特にエネルギー法による接近法では困難の原因となっている非局所微分不等式の解の定量的解析に解決の緒を見出しており、今後の研究の見通しをつける上で大きな進展があった。
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今後の研究の推進方策 |
まずは今年度に予備研究として行った小さな初期値に対する時間大域解の存在を抽象論のレベルで整備し直し、今年度の主結果である時間局所解・大域解の存在定理と合わせて非凸型エネルギー汎関数に対する非整数階勾配流の理論として論文を完成させる。またこの論文では具体的な退化放物型方程式への応用についても述べ、特に個別解析による最適な解の減衰レートの導出やその考察についても述べる。一方、解の爆発現象に関しては、(積分方程式による接近法が使えない)退化放物型方程式に対して結果が見当たらない。実際、エネルギー法を用いる場合、非局所微分不等式の解の定量的解析が必要となるが、連鎖律公式が不等式になってしまう非整数階微分の問題では、不等号の向きから爆発解の解析ができない状況にある。(一方、解の減衰評価は導出できる。)そのような爆発解の解析を可能にする手法についても検討を進める。他にも勾配流理論の一般化にはさまざまな方向性があるので、それらについても検討を進める。例えば非自励系の解析も手つかずの状態である。この問題も連鎖律公式に深く関連する問題であり、非整数階微分の理論を発展させる上で有意義な取り組みと言える。特に非自励系の解析は摂動理論の構築と深く関連するものである。さらに解の漸近挙動の解析に関連する力学系的な理論の構築についても検討を進める。非凸型エネルギーに対する非整数階勾配流の研究は引き続き中島慶人氏(東北大)との共同研究として進める。それ以外についてはまだ予備的な段階にあるため、単独で検討を進める他、力学系の専門家であるChristian Kuehn氏(ミュンヘン工科大)とも協働する。また非整数階微分を伴う発展方程式の解析には函数解析的な手法と実解析的な手法を融合させることが有効である。それらの観点から両分野の合同シンポジウムを企画し、研究情報の収集や専門家との議論を行いたい。
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