研究課題/領域番号 |
21K18591
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分13:物性物理学およびその関連分野
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
佐々木 孝彦 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (20241565)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2023年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2021年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | 導電性有機高分子 / 電子輸送現象 / 電子輸送 / 有機高分子 / 超伝導 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では,有機高分子材料のさらなる高電気伝導化への指針獲得を目指す.物性物理学の研究対象としては未開拓な有機高分子材料の非周期ナノ構造集積状態におけるメゾスケールな不均一電子状態を解明し,これまで報告されてきた基本的電子物性のパラドックスを解き明かす.材料科学・工学と微視的物性物理の学術的谷間を埋めることで有機高分子材料を舞台とする複雑系電子物性研究へと発展させ,さらに有機高分子においていまだ実現していない超伝導性の発見を目指す.
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研究実績の概要 |
本研究では,導電性有機高分子材料に対して,物性物理学的視点から電気伝導機構の解明を試み,更なる高電気伝導化への指針獲得を目指している.2023年度は,自己ドープ型導電性高分子材料S-PEDOTおよび参照として従来型のPEDOT:PSSについて,各種の成膜手法,成膜条件による導電性膜の作製及びその膜構造の評価と電気伝導性評価を行った.合わせて高い光透過性により期待されるシリコン太陽電池への電極応用を目指した膜接合界面の評価を行った. S-PEDOTは,これまでに多くの研究が行なわれてきたPEDOT:PSSとは異なり,自己ドープによって伝導キャリアを生成し,また成膜後の後処理などの高電気伝導化するためのプロセスが必要無いなどの特質や利点がある.しかし,新しい材料であるため,基本となるキャリア輸送機構についての情報集積・物理機構理解が進んでいない. S-PEDOTの電気抵抗の温度依存性を,高分子重合度や成膜条件が異なる複数の試料を用いて測定し,電気伝導性について膜構造との対比を行い,電気伝導機構モデルを適用した解析を行った.その結果,PEDOT:PSSの場合は,高電気伝導化が成膜後の処理により進むにつれて,電気伝導機構もホッピング伝導(可変領域型)から乱れた金属(弱局在)に変化していくのに対して,S-PEDOTの場合は,膜作製条件などにより高電気伝導化した試料においてもホッピング伝導を維持したまま局在長が長くなっていく振る舞いが観測された.このことは同程度の高電気伝導性を有するPEDOT:PSSとS-PEDOTにおいて,電気伝導機構が異なることを示している. また,太陽電池の電極応用を目指してシリコン基板と膜との間の界面状態の評価から長い鎖状PSS部を有するPEDOT:PSSよりも構造単位が小さいS-PEDOTの方が基板との密着性がよく電極材料として適している結果が得られた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新しい導電性有機高分子材料S-PEDOTについて共同研究を新たに実施することで,当初計画におけるPEDOT:PSSのみの研究から両者の比較研究が行なえるようになった.このため異なるキャリアドープ機構を相互比較できるようになり電気伝導機構モデルを検討するうえでの重要な進展となった.一方で,研究成果の発表において,データの解析に時間がかかっているため十分な出版に至っていない.次年度に研究経費を繰り越して進展を図る.
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今後の研究の推進方策 |
典型的導電性高分子材料PEDOT:PSSの成膜方法・条件の探索による高電気伝導化と伝導機構解明との対比として新規な自己ドープ型導電性高分子材料S-PEDOTの伝導機構解明を電気伝導度測定,赤外光学測定から進める.両者の構造特性や伝導特性の相違点と類似性を見極めることで,高分子材料系の伝導機構解明を進める.応用材料として必要とされる更なる高電気伝導化に向けた物性物理視点のアプローチを可能とする詳細な電子状態解明に向けて,電気伝導性,赤外物性に加えて精密エックス線散乱測定によって微視的構造計測を進める. 実験データの集積は進んでいるため,解析・比較検討を進めて成果発表,論文化を進める.
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