研究課題/領域番号 |
21K18604
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分13:物性物理学およびその関連分野
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
寺嵜 亨 九州大学, 理学研究院, 教授 (60222147)
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研究分担者 |
秋山 良 九州大学, 理学研究院, 准教授 (60363347)
堀尾 琢哉 九州大学, 理学研究院, 准教授 (40443022)
荒川 雅 九州大学, 理学研究院, 助教 (10610264)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2022年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
2021年度: 3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
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キーワード | 過冷却液体 / 液滴 / 真空 / 蒸発冷却 / 相転移 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、真空中の液滴を扱う我々独自の実験手段で、従来困難だった過冷却深部の未踏領域の探索に挑戦する。例えば4℃での密度最大など、水の謎の解明は、物質科学から生命科学にまで波及する重要な課題である。この謎の主要因の一つが過冷却液体の科学の空白地帯にあることから、本手法で可能となる低温領域への新たなアプローチで、過冷却状態の高密度水-低密度水間の相転移など、水の相図問題に挑む。なお、この問題に取り組む戦略として、ポリオール混合溶液、塩添加溶液など水溶液系も対象とし、基本的な諸物性を明らかにする。これらの研究を通して、過冷却液体の科学の深化を図る。
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研究実績の概要 |
研究計画に沿って実験ならびに理論研究を進めている。実験では、真空中に発生した液滴を、発生後の各時刻に200滴ほど画像観察を行って、時間とともに蒸発冷却が進み凍結した液滴の割合が増加する様子(凍結曲線)を描いて、凍結に至る時間(凍結時間)を測定している。本年度はまず、凍結の画像判定を機械学習により自動化し、実験・解析の効率化を図った。そして、水液滴へのポリオール混合効果に関して、エチレングリコールとグリセロールのほか、キシリトールを試みて同様の凍結時間を得た。その結果、OH基近傍ばかりでなく、混合分子周辺の水素結合ネットワークの乱れが凍結を阻害するとの仮説を再確認した。一方、蒸発冷却過程での温度変化の評価を目的に、液滴のラマン分光に取り組んでいる。特に液滴径の精密計測法となるWhispering-gallery mode(WGM)の測定・解析に関して、周回モードに加えて動径モードも考慮し、解析の高度化を図った。さらに、ラマン散乱に代えて白色光レーザーを光源とした広帯域測定を試み、多数のモードを捉えて計測精度の一層の向上を進めている。 理論面では、ポリオール添加時の凍結曲線に関して、数値シミュレーションでの再現を試みている。溶液の蒸気圧や比熱の温度依存性が関与するパラメータであるが、特に均質凍結核生成速度が鍵を握る。当初、均質凍結温度が低温に移動することだけを考慮したが、それでは凍結曲線を再現できず、凍結核生成速度の温度依存性を露わに取り込むことが重要との認識に至った。そこで、その解明のために分子動力学計算を開始した。親水基と疎水基の寄与の分離などに着目し、今後、ポリオール混合効果の理論基盤の構築を進めてゆく。 以上の成果に関して3件の学会発表を行い、ナノ学会第20回大会で学生が若手優秀ポスター発表賞を受賞するなど、高い評価を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験面では、特に液滴径の分光計測の実験・解析手法を高度化して計測精度を向上する進展があり、蒸発冷却過程における液滴の解析に有効な手段を新たに加えた。理論面では、凍結曲線の数値シミュレーションで必要となる凍結核生成速度の温度依存性に関して、分子動力学計算による解明に着手し、ポリオール混合効果の理論基盤の構築に向けて研究を進展させた。
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今後の研究の推進方策 |
液滴径の精密測定に関して、新たに高感度・高分解能の分光器を導入して、測定精度の一層の向上を目指す。それを真空中の液滴の測定に展開し、過冷却状態の液滴温度の議論を精密化する。理論面では、均質凍結核生成速度の温度依存性について、昨年度に開始した分子動力学計算による解明を進めてゆく。水素結合ネットワーク中のポリオール分子が水の凍結核形成を阻害するとの仮説の検証を引き続き進め、ポリオール混合効果の理論基盤を構築する。以上の成果をとりまとめ、学会発表・論文発表で成果の発信を行ってゆく。
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