研究課題/領域番号 |
21K18605
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分13:物性物理学およびその関連分野
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
前多 裕介 九州大学, 理学研究院, 准教授 (30557210)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2022年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2021年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
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キーワード | アクティブマター / 細胞骨格 / 人工細胞 / 非平衡物理学 / マイクロ流体デバイス / 合成生物学 / 秩序形成 / アクトミオシン / 分子モーター / 実験 |
研究開始時の研究の概要 |
細胞はエネルギーを消費し,秩序だった構造を維持しながら,動き,変形する複雑な分子システムである。このようなダイナミクスの根幹となる概念が「対称性」である。生命の基本単位である細胞の対称性も,細胞運動や細胞分裂,さらには分化する細胞の運命をも決定する。しかし,細胞内での構造配置の対称性がどのように制御され,細胞の自発的な運動が誘起されるのか、その基本原理は十分理解されていない。この問題を解決するために本研究では,細胞内環境の複雑性を軽減した人工細胞モデルを確立し,細胞のように自律的に動き,変形する人工細胞の運動原理を解明する。本研究から細胞の動きと変形の普遍法則に挑む技術基盤が確立される。
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研究実績の概要 |
細胞はエネルギーを消費し,変形しつつ自律的に運動する複雑な分子システムである.本研究ではアクチン細胞骨格とミオシン分子モーターのアクティブゲルを細胞サイズの油中液滴に封入し,その自律的運動の原理をマイクロ流体デバイスならびにソフトマター物理学の見地から明らかにする.これまでに脂質膜とアクトミオシンゲルとが接着する機能的膜界面を持つ人工細胞を構築し,アクトミオシンの収縮力が外部基盤に伝割自律的な運動が起こることを明らかにした.狭い空間に拘束された人工細胞の運動では,界面摩擦力と流体抵抗のバランスが運動速度を定め,効率的な力の伝達に外部環境と細胞表面の相互作用が不可欠であることを突き止め,本年度に論文発表を行った(PNAS 2022).また,重要なことに運動の推進力は,アクトミオシンが波のように伝搬する「アクチン波」から伝達された摩擦力である.しかしアクトミオシン波の発生原理は十分な理解がなく,理論モデルの構築を通じて,細胞内空間において分子モーターの力が周期的アクチン波を形成するメカニズムの解明を目指した.細胞区画内の①アクトミオシン流動場の方程式,②細胞骨格の連続の式,③細胞の形を表す方程式の3つでアクティブゲルモデルを構築した.フェーズフィールド法を元に細胞区画を設定し,周期的なアクチン波が再現されるかを数値計算で検証したところ,ミオシンの収縮力とアクチン繊維の重合率を主要パラメータとして周期的アクチン波が現れる条件を突き止めた(Phys Rev Res 2023).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究開始後すぐに,アクトミオシンを油中水滴に内包した人工細胞が狭い空間を非接着型運動で進むことを論文誌に発表した(PNAS 2022).重要なことに自律運動の推進力は,アクトミオシンが波のように伝搬する「アクチン波」から伝達された摩擦力である.摩擦力による運動では狭い空間を動くためにあえて細胞接着を取らないのであるが,そのような運動様式には最適な物理的条件があることを理論計算に基づき明らかにした.しかし,人工細胞内でどのようにしてアクトミオシンが周期的な波のように伝搬するのかは十分に理解がされていなかったことから,本年度はさらにアクトミオシンの理論(アクティブゲルモデル)による人工細胞内の秩序形成の理論的解析を進めた.細胞区画内のアクチン繊維とミオシン分子モーターからなる①アクトミオシン流動場の方程式,②細胞骨格の連続の式,③細胞の形を表す方程式で理論モデルを構成した.フェーズフィールド法を元に周期的なアクチン波が再現されるかを数値計算で検証したところ,ミオシン収縮力とアクチン繊維の重合率を主要なパラメータとして,周期的な波が発生することがわかった.収縮力の高まりによって一様状態から波動伝搬への転移が起こることは,力が秩序形成を誘起することを示しており,細胞内秩序形成と運動原理の理解につながると期待できる.本研究を論文誌に発表したが(Phys Rev Res 2023),さらに研究を推し進めることが重要と考え,当初の補助期間を延長し人工細胞をモデルとした細胞運動と自律的変形の非平衡力学の構築を目指す.
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今後の研究の推進方策 |
アクトミオシンの周期的な波動伝搬を介した自律的運動,および波動伝搬を説明する理論モデルの構築に成功し,論文誌(PNAS 2022, Phys Rev Res 2023)に発表した.当初計画の内容を概ね達成しているが,事業期間を延長した次年度では残された課題である人工細胞の自律的変形に関する実験と理論解析を進める.周期的アクチン波が人工細胞の膜と相互作用することで,膜界面が変形し,周期的な波動伝搬と協調して規則的な形態変化が起こる.これまでに構築した理論モデルではアクトミオシンの力によって細胞膜が変形するという作用は取り入れておらず,これを実装したフェーズフィールドモデルに拡張することを目指す.このような細胞形態の変化は実際の生体内の細胞においても見出されており,人工細胞モデルとアクティブゲル理論を組み合わせることで,複雑な生体組織内における細胞の運動・変形・対称性制御に関する非平衡力学を構築することを目指す.
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