研究課題/領域番号 |
21K18697
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分20:機械力学、ロボティクスおよびその関連分野
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
倉林 大輔 東京工業大学, 工学院, 教授 (00334508)
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研究分担者 |
服部 佑哉 呉工業高等専門学校, 電気情報工学分野, 准教授 (30709803)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2023年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2021年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
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キーワード | 生物規範システム / 自律ロボット / 線虫 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では,線虫C. elegansに着目し,これに基づいてロボット群の協調的かつ効率的な行動アルゴリズムを構築することを目的とする.線虫C. elegansは体長1mm程度の小さな生物で,神経細胞を302個しか有しないが,学習を含む適応的行動が可能であることが分かっている.本研究では,限られた計算・通信資源でいかに行動様式を変容させ,採餌・繁殖につながる効率的な動作を生成するかを生物実験とモデル検証で解明する.これにより,効率的な自律型ロボットシステムの構成方法解明に貢献する.
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研究実績の概要 |
本研究は,極めて限られた情報処理資源(計算・通信・移動能力)しか有しない線虫C. elegansに着目し,自律ロボット群の協調的かつ効率的な探索行動アルゴリズムを構築することを目的とする.情報処理系を環境や身体といった物理的実体と調和的に用いるシステム設計に挑戦する.具体的には,生物が発揮する局所的・物理的な相互作用をモデル化し,自律ロボット群の制御アルゴリズムへと転換することで,限られた情報処理資源と単純な相互作用による,効率的なロボット群システムの実現に貢献する.令和4年度は,前年度までに構築した計測系およびそれによって得られたモデル生物の行動解析を行い,集団密度と行動変容の関係について知見を得た.具体的には,モデル生物である線虫が行う行動について従前の文献に沿って2種に大別し,そのうちの急激な移動方向変化を生じる確率分布を同定した.結果として,優れた探索結果を残した群とそうでない群にこの点で差があることがわかった.コンピュータシミュレーションにより抽象化したエージェントモデルでも同様の現象が再現されることを確認した.また,実体を持つエージェントによるパーティクル探索に対する行動アルゴリズム構築の基盤として,制御バリア関数を用いて有意な身体サイズを有した自律型移動ロボットを想定した制御システムの数理モデル構築を行った.完全に自立した移動体の集団においても有効に機能することを,シミュレーションによって確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究ではモデル生物として線虫C. elegansを取り上げ,その行動の条件適応的修飾に着目して,少ない情報処理資源を効率的に活用可能なアルゴリズム・システム構成を明らかにすることを目的としている.令和4年度では,前年度までの生物計測結果に基づき,数理モデルによる応答変化の解析および再現を行った.新型コロナ禍による納品遅れや研究活動の制約はあったものの,おおむね計画通りの研究進捗を得ている.線虫C. elegansは小さく小規模の神経系しか有しない生物であるが,集団密度によって行動が変化することが知られている.この際に働く相互作用について直接観測することは難しいため,行動観測結果である時系列画像データをコンピュータビジョンによって個体分離・追尾し,発現行動の変容とその際の状況の対応関係を調べた.これに基づいて,確率的に急激な進行方向の変化をもたらす確率密度関数が,個体密度に応じて変化すること,また優れた探索を行う集団とそうでない集団とで差異があること,を見出した.これを抽象モデルとしてシミュレーション上の自律エージェントとして実装し,検証を行ったところ所期の性質を有することが分かった.さらに,この成果のロボット実装を想定し,制御バリア関数を用いた衝突回避制御系を有する探索エージェントについての制御モデル構築,および局所的な相互作用のみに基づいて集団の調和的状態を導出可能なネットワーク制御モデルについて構築を行い,シミュレーションによってその有効性を確認した.
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今後の研究の推進方策 |
最終年度となる令和5年度においては,これまで得られた知見を有用な工学システムとして,探索行動を効率的に行う自律ロボット群への帰結を目指す.本研究で取り上げるモデル生物である線虫C. elegansは集団となったとき単体と異なる行動をとることが知られており,線虫同士の相互作用は化学物質の放出および受容ないし物理的な接触にあると考えられている.しかし,化学物質を介した相互作用の動態解析は困難であり,また人工システムとして化学的相互作用をそのまま実装することは適切とはいえない.そこで,単独線虫の行動モデルを計測・構築した後,線虫の観測と計算機上の相互作用付与モデルとを併用し,陽に観測できない相互作用項を明らかにするとともに,その相互作用をエッジコンピューティングを行う実体としての自律ロボットで実現する手法の構築を行う.行動様相と相互作用について機能的効用に基づいて解析および設計を行うとともに,実体を有するロボットのための制御手法を構築する.具体的には,各個体を振動子にモデル化し,結合振動子系において生じる位相波動に基づいて,局所的な相互作用のみによって集団密度あるいは集団構成個体数を推定する手法の構築・実装によって,生物実験にて得られた機能性を実現するシステムを構築する.最終的に小型自律移動ロボットへ相互作用を含む探索行動アルゴリズムを実装し,人工システムとその制御手法として有効性を評価する.
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