研究課題/領域番号 |
21K18731
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分21:電気電子工学およびその関連分野
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
板垣 奈穂 九州大学, システム情報科学研究院, 教授 (60579100)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2022年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2021年度: 4,940千円 (直接経費: 3,800千円、間接経費: 1,140千円)
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キーワード | 励起子 / ZnO / ZnMgO / スパッタリング / 量子構造 / ZAION |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は,代表者オリジナル技術を背景に,励起子が量子情報を記憶する革新的デバイスを創製するものである.励起子を「電子と正孔が再結合する過程 (=中間状態)としての準粒子」として扱い,受発光を伴うその生成と消滅に着目した工学的応用を行ってきたこれまでの励起子研究を転換させる点で,挑戦的研究としての意義を有する.この記憶する励起子を用い,大規模集積化において有利な光によるデータ伝送を前提とした量子コンピュータの実現を目指す点で,実用的観点からも意義を有する.本研究は,明るい励起子そのもののを長寿命化させる,というアイデアにより,従来の励起子において存在した寿命と制御性のトレードオフ問題を解決する.
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研究実績の概要 |
本研究は,明るい励起子そのもののを長寿命化させる,というアイデアにより,従来の励起子において存在した寿命と制御性のトレードオフ問題を解決し,革新的量子デバイスを実現することを目的としている.昨年度は,長寿命な明るい励起子実現の鍵となる, サファイア基板上へのZnMgO/ZnO超高品質ヘテロ界面の形成を行うとともに,ZnMgOの室温での励起子発光を確認した.基板と膜との間の大きな格子不整合率(18%)がボトルネックとなったが、代表者が開発した逆Stranski-Krastanov (逆SK)法が単結晶膜の作製を可能にした.そこで本年度はまず,これら単結晶薄膜の励起子寿命ならびに励起子発光メカニズムを明らかにすることを目的とし、時間分解ルミネッセンス計測を行った.その結果、非輻射再結合寿命がpsecオーダーと短く、これがデバイス性能を支配する可能性が示唆された。非輻射再結合中心密度は10^18 /cm3と見積られたが,XRD測定結果からこれらは転位ではなく点欠陥に起因していることが分かった。そこで次に,上記逆SK法における結晶成長の前段階として,極性制御層としての極薄MgO膜を形成し,点欠陥の低密度化を試みた.結果,膜厚1-2 nmのMgO層の重畳は,ZnO膜およびZnMgO膜の表面平坦性および結晶品質の向上に極めて効果的であることが分かった.特に面外配向性は大きく向上し,本手法により作成したZnO膜の(0002) 面 X線ロッキングカーブ半値幅はサファイア基板直上に作製したZnO膜に比べて1桁低い,約0.03°の値を示した.これは,薄膜の極性を制御することで,成長表面におけるスパッタ粒子のマイグレーションが促進され, 欠陥発生が抑制されたためと考えられる. 今後は,上記手法をZnO/ZnMgO歪量子井戸に展開し,その効果を検証するとともに,量子ビットとしての機能発現を目指す.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題は,代表者オリジナルのシーズ技術を背景に,「長寿命な明るい励起子」の実現ならびに量子ビットとしての応用可能性を示すことを目的としている. これまでに,その実現の鍵となる単結晶ZnMgO膜の作製ならびに室温での高効率励起子生成に注力し,それに成功した.さらに上述したように,これら単結晶ZnMgO膜の品質は,薄膜形成前に極薄MgO層を導入することにより,更に向上可能であることも示された.一方で,時間分解フォトルミネッセンス測定から,上記薄膜の非輻射再結合寿命はpsecオーダーと短く、これが量子ビットとしての性能を律速する,という課題が示唆された。今後はまず、原料の高純度化を行うとともに、成膜温度や成膜後の降温レート・降温時の雰囲気等を制御することで、非平衡下で形成されやすいとされる点欠陥の発生の抑制に注力し、欠陥密度10^16/cm3以下のZnMgO膜を実現する.さらにこれら薄膜上にZnO量子井戸をシュードモルフィックに形成することで,本研究の目的である長寿命な明るい励起子を実現する.
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今後の研究の推進方策 |
今後はまず,ZnOならびにZnMgO膜中の非輻射再結合中心密度の抑制に注力する.具体的には,これらの原料となるスパッタリングターゲットの高純度化を行うとともに、成膜温度や成膜後の降温レート・降温時の雰囲気等を制御することで、非平衡下で形成されやすいとされる点欠陥の発生を抑制し、欠陥密度10^16/cm3以下のZnMgO膜を実現する.次に,ZnO/ZnMgOからなる量子井戸を形成する.この時,井戸層を障壁層に対してシュードモルフィックに成長させることで励起子長寿命化において圧倒的に有利な”歪”量子井戸を形成する.寿命の測定は,歪量子井戸に励起光を照射しストリークカメラにより発光寿命を観測することで行う.さらに上記で得た歪量子井戸に金属微細加工を行い量子ドットを作製,これにパルスレーザー光を照射して量子ビットの操作を行う.まず単一量子ドットに対して,電子と正孔の基底状態のエネルギーに対応したパルス光を照射し,照射光の強度変調を行った際の発光強度の振る舞いを調べる.ラビ振動 (基底状態の励起子が “ある” 状態と “ない” 状態の2準位間でのコヒーレントな振動)を確認し,1量子ビット回転ゲートの実現を目指す.
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