研究課題/領域番号 |
21K18798
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分26:材料工学およびその関連分野
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
川野 潤 北海道大学, 理学研究院, 准教授 (40378550)
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研究分担者 |
豊福 高志 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 超先鋭研究開発部門(超先鋭技術開発プログラム), 主任研究員 (30371719)
北垣 亮馬 北海道大学, 工学研究院, 教授 (20456148)
川西 咲子 京都大学, エネルギー科学研究科, 准教授 (80726985)
荒木 優希 金沢大学, 数物科学系, 助教 (50734480)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2022年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2021年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
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キーワード | 可視化 / pH / 固液界面反応 |
研究開始時の研究の概要 |
材料工学に関わる幅広い分野において、水溶液中における物質の反応を理解することは非常に重要であるが、具体的なイオンの移動を理解するには、これまでバルク溶液のpHやイオン濃度測定に頼らざるをえなかった。本研究は、申請者が近年開発した、反応界面における局所的なpHおよびカルシウム濃度変化を蛍光プローブを用いて可視化する技術を、多様な材料に適用できるように高精度化・汎用化することで、材料―水界面で実際に起こる2次元的もしくは3次元的なイオンの移動を目で見て捉えることを可能とし、その反応解析において新たな評価基準を提供するものである。
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研究実績の概要 |
本研究は、研究代表者が近年開発した、反応界面における局所的なpHおよびCaイオン濃度変化を蛍光プローブを用いて可視化する技術を、多様な材料に適用できるように高精度化・汎用化することを目的としている。2023年度においては、以下について研究を進め、成果を得た。 [1] 本手法は、さまざまな対象に適用可能である一方で、統一的なキャリブレーション手法の確立が課題であった。本年度の研究において、TRISバッファーによりpHが安定化した、さまざまなCaイオン濃度/pHの溶液を用いてキャリブレーションを行ったところ、正確なpH依存性を考慮したCaイオン濃度の定量化に成功した。 [2] カルサイト溶解時のpHおよびCaイオン濃度変化を、上記のキャリブレーション手法により定量化して測定し、拡散法方程式を用いて解析したところ、Caイオンの拡散に関しては、見積もられた拡散速度とカルサイトの溶解速度は、これまで報告例のあるものと整合的であることが示された。その一方で、通常の溶解反応式から予想されるpHより、実測されたpHははるかに低く、表面での溶解においては、HCO3イオンが重要な役割を果たしていることが示唆された。 [3] 近年、CO2固定化の際の陽イオンのソースとして、岩石風化プロセスが注目されている。本研究では、岩石風化に関わる重要な鉱物であるオリビンの水中での溶解を本手法により可視化することを試みた。その結果、わずかなpH変化と、陽イオンの溶出を可視化することができることを確認し、岩石風化の問題に新しい視点からの知見を与えることができることを示した。さらに、ジプサムが水中で溶解する際のpHおよびCaイオン濃度を可視化したところ、面方位による顕著な異方性が観察された。本手法は、2次元で可視化することにより一目で反応の異方性を確認できることが可能であるが、その有用性が確認できたといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
これまでの研究により、本課題で提案している蛍光プローブを用いたpHおよびイオン濃度の可視化手法は、炭酸カルシウム系化合物、リン酸カルシウム系化合物、ケイ酸カルシウム系化合物など幅広い物質の水溶液中での反応に適応できることが明らかになってきた。当初、2年間の計画であったが、今年度はさらに、近年世界的に逼迫した課題となっているCO2固定化に貢献することを目指し、新たにかんらん石など造岩鉱物の反応におけるpHやイオン濃度変化の可視化を試みたところ、十分に適応可能であるとの感触を得たため、研究期間を延長してさらなる検討を行うこととした。さらに本年度の研究において、十分な精度のキャリブレーション手法を確立できたため、それを用いた定量化を行うことにより、一気に研究を進めることができる。 また、現在までのところ、(1)炭酸カルシウム結晶の溶解過程におけるpHおよびCaイオン濃度変化の可視化とそのモデル化、(2)ゲル媒体中における結晶の形成過程におけるpH変化の可視化、(3)さまざまなリン酸化合物の溶解過程の可視化などの成果については、十分なデータが得られており、すぐにでも論文化できる状況にあるが、まだ出版に至っていない。現在論文化を進めているところであるが、早急に出版できるよう、準備を進めたい。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究において、蛍光プローブを用いたpHおよびイオン濃度の可視化手法の高精度化と汎用化を進めたことにより、さまざま溶媒中における多様な材料の反応において本手法が適用可能であることが示された。さらに、本年度の研究において、十分な精度のキャリブレーション手法を確立したことにより、次年度は以下のような様々な分野で課題となっている実際の系における反応を精密に解析し、解決につなげることができる。(1) CO2固定化の陽イオンのソースとして重要であると考えられている、ケイ酸塩鉱物の水溶液中の溶解反応についての観察を行い、従来バルクでの溶解速度で議論されることが多い本現象について、溶液―結晶界面での振る舞いを明らかにするとともに、溶液条件による違いを解析する。(2) リン酸カルシウム化合物の反応について、実際の生体内の環境に近い溶液条件での観察を行って、骨補填剤としての利用可能性や、生体内での骨形成反応についての新たな知見を得る。 以上により、本研究で提案する可視化技術を、多様な材料における固液界面反応の課題解決につながる新たな評価方法として確立し、国際誌や顕微鏡のテクニカルノートとして発表することにより、より多くの材料に適用する基盤とすることを目指す。
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