研究課題/領域番号 |
21K18883
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分28:ナノマイクロ科学およびその関連分野
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
山本 大輔 福岡大学, 理学部, 教授 (80377902)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2023年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2022年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2021年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
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キーワード | 走査プローブ顕微鏡 / 原子間力顕微鏡 / 生物物理 / 脂質膜 / 1分子計測 / 蛋白質 |
研究開始時の研究の概要 |
原子間力顕微鏡測定(AFM)においては、探針を取り付けたカンチレバーは熱により常にゆらいでいる。本研究課題では、カンチレバーのゆらぎから熱力学パラメーターを検出する方法を開発し、それを利用して試料のナノ構造物性を可視化する新規な高速AFM測定法を開発する。これにより、従来のAFMでは観察することすらできなかった柔らかな構造とそこに内在する物性を同時に1分子レベルで可視化することが可能となると期待される。
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研究実績の概要 |
本研究課題では、原子間力顕微鏡(AFM)の測定に用いるカンチレバーの熱揺らぎを利用してナノ構造物性を可視化する測定法を開発する。カンチレバーの熱揺らぎには弾性エネルギーと運動エネルギーに相当する信号が含まれており、これらを利用することによりカンチレバーの熱力学パラメーターを評価し、試料の表面物性を解析する。昨年度は、カンチレバーの先端に取り付けられた探針が試料表面と相互作用する際に、カンチレバー熱揺らぎのたわみ信号と速度信号がそれぞれどのような変化を示すか評価を行い、試料の物性に応じて熱揺らぎ信号に差が生じることを明らかにした。また、熱揺らぎ速度信号に含まれるノイズが測定精度を下げていることを明らかにした。今年度は、はじめに、熱揺らぎ速度信号のさらなる低ノイズ化に取り組んだ。そのために、速度信号測定回路の構成を見直し、速度信号のシグナルノイズ比の向上を行った。標準試料としてDPPCとDOPCで構成される平面脂質膜を測定し、AFM測定において表面構造画像と同時に得られる運動エネルギー画像のコントラストが大幅に向上していることを確認した。つぎに、探針と試料との距離を変化させながらカンチレバーの信号を計測するフォースカーブ測定において、たわみ信号と速度信号を同時に取得できるようにAFM装置の改変を行った。本測定においては、高いサンプリングレートでデータを取得し、また、データを解析するプログラムを新しく構築することにより、探針と試料との間の距離に対するカンチレバー信号のスペクトルの変化を解析することが可能になった。これにより、試料の表面物性に応じたカンチレバーの熱揺らぎ変化を詳細に評価できると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の研究計画は、カンチレバー熱揺らぎの速度成分を計測するための電子回路の高性能化、熱揺らぎ一定モードAFMによる表面構造とナノ物性マッピングの同時測定、ならびに熱力学パラメーターマッピングを可能とするためのAFM装置の改変である。本年度の研究により、カンチレバー熱揺らぎの速度信号測定回路の改良により測定精度が向上したことで、表面物性マッピングのコントラストが向上した。また、フォースカーブ測定において、探針と試料と間のの距離に応じた熱揺らぎ信号のスペクトル変化を解析できるようになり、それによりカンチレバー熱揺らぎの運動エネルギーを用いた物性マッピングにおいてコントラストが生じる要因をより詳細に解析できるようになった。同時に、スペクトルに含まれる熱揺らぎ信号成分と電気ノイズ成分とを分離できるようになり、カンチレバー熱揺らぎの熱力学パラメーターを解析するための準備が進展した。以上により、本年度の研究計画はおおむね達成されたと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度は、熱揺らぎ一定モードAFMによるタンパク質の局所物性マッピングを行い、フォースカーブ測定によるカンチレバーの熱力学パラメーター再構成の高精度化を行う。具体的には、次の方法で研究を進める。 1.タンパク質の局所物性マッピング:今年度までに達成した平面脂質膜の表面物性マッピングでは、脂質ドメインの大きさが100nm程度あるため、どこまで分解能良くマッピングできるか未評価である。膜タンパク質を測定試料として用いて物性マッピングを行い、分解能の評価をすると同時にナノメートルサイズの局所構造のマッピングが可能であるか検証する。 2.熱力学パラメーター再構成の高精度化:本年度構築したフォースカーブ解析システムを改良し、カンチレバー熱揺らぎスペクトルから電気ノイズ成分を除去し熱揺らぎ信号成分を抽出することで、熱力学パラメーターの再構成に用いる弾性エネルギー信号と運動エネルギー信号の測定精度を向上させる。いくつかの試料を測定し、抽出した信号から熱力学パラメーターを再構成する。測定は、雲母、脂質平面膜、タンパク質試料を用い、熱力学パラメーターによる表面物性マッピングの検証を行う。
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