研究課題/領域番号 |
21K18916
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分31:原子力工学、地球資源工学、エネルギー学およびその関連分野
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
千田 太詩 東北大学, 工学研究科, 准教授 (30415880)
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研究分担者 |
新堀 雄一 東北大学, 工学研究科, 教授 (90180562)
関 亜美 東北大学, 工学研究科, 助教 (80912328)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2021年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
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キーワード | 核種移行 / 雲母 / 収着 / 花崗岩 / 核種固定化 / バックエンド / 放射性廃棄物 / 原子力 |
研究開始時の研究の概要 |
放射性廃棄物の埋設処分において,地下環境中に放射性核種を閉じ込めるバリア性能が期待される天然岩盤には,核種を吸着する能力に優れた雲母鉱物が含有される.従来,核種と鉱物の相互作用については,鉱物を粉砕した粉末試料により調べられてきた.しかし,実際の地下の雲母は層状構造を有し,数cm程度の薄片形状で存在する.このため,核種と雲母鉱物が相互作用する場合,薄片の端に吸着するのみならず,層状構造内部へ核種が浸入,固定化されると考えられる.本研究では,薄片状雲母を用いた実験検討により,粉末試料ではわからなかった核種収着メカニズムを解明し,天然岩盤にさらなる核種閉じ込め性能を見出すことを目指す.
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研究実績の概要 |
地層処分場周辺の岩盤には廃棄物を閉じ込める天然バリアとしての効果が期待されており,特に黒雲母などの雲母鉱物による核種収着能が期待される.しかし,この核種収着能は雲母鉱物を粉砕した粉末試料を用いた実験により確認されたものである.実際の岩盤中では黒雲母が数cm程度の薄片形状で存在するため,収着・脱着による化学平衡のみならず,薄片状黒雲母の層状構造内への拡散過程を含めた核種収着メカニズムの解明が,天然バリアのより現実的な核種閉じ込め性能の評価に重要である.2年目となる今年度は,薄片状黒雲母へのEuの収着に関する温度依存性を検討した.地下の温度勾配は深度100 m毎に温度が約3℃上昇することから,地表温度から地層処分深度(300 m以深)の温度を想定した15~40℃の範囲でパラメータを設定した.実験では,pH 3および5に設定した0.5 mM Eu溶液と薄片状黒雲母(約5 mm四方)を液固比10 mL/gで混合し,温度15℃,25℃,40℃に設定した恒温振とう機で振とうしながら7日に亘りEu濃度変化を調べた. 収着実験では,いずれのpHにおいても温度の上昇に伴いEuの薄片状黒雲母への収着速度が増大した.これらの結果に基づき,薄片内の二次元的な拡散と溶液のEu濃度減少を関連付けた解析モデルによって薄片状黒雲母内の見かけの拡散係数を評価したところ,温度上昇に伴い増大するものの,概ね10^-13 m2/sのオーダーとなった.これらの値は従来の性能評価に適用されている深成岩中の拡散係数と比較して同程度か小さく,岩盤内の核種収着が薄片状黒雲母内への拡散に律速される可能性を示唆する.また,見かけの拡散係数から得られた活性化エネルギーはpH 3では4 kJ/mol,pH 5では55 kJ/molと得られ,pH 5では拡散過程に付随するイオン交換のような化学反応の寄与が大きくなることが見出された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度行った,薄片状黒雲母へのEuの収着挙動に関する温度依存性の検討,および,モデル解析による見かけの拡散係数評価は研究実施計画に沿うものである.前年度に整備した実験手法により薄片状黒雲母へのEu収着を観察するとともに,液相中のEu濃度の経時変化と,薄片内部におけるEuの二次元的な拡散を組み合わせたモデルにより,薄片内の見かけの拡散係数を評価できた.このモデルでは,実験中に生じる薄片状黒雲母の破損や剥離などに伴う表面積の増大(収着サイトが大きくなりEu収着量も時間に対してステップ状に増大)をも考慮した.このように,薄片状の雲母鉱物を用いた収着実験から見かけの拡散係数の評価まで通貫できたことは大きな成果と言える. また,今年度は,実環境の地下水pH(8程度)を想定した薄片状黒雲母へのEu収着についても試行した.本研究においてEuは,廃棄物に含まれることに加え,処分システムの性能評価上重要な核種であるAmの化学アナログとして位置づけているが,いずれもpH 6以上で加水分解して沈澱するため地下水中を移行しづらい核種として従来扱われている.一方,加水分解種がコロイド状態で液相に留まり,岩盤に収着せず移行することが懸念されている.そこで,Euの加水分解種が液相に分散したpH 8における薄片状黒雲母への収着実験を行ったところ,pH 3やpH 5と同様に薄片内への拡散過程を示す緩やかな濃度減少が観察された.さらに,二次イオン質量分析法(SIMS)によって,実験後の薄片状黒雲母内にEuが浸入していることを確認した.これらのことは,Euが加水分解する実環境においても,薄片状黒雲母への拡散過程を伴う収着によりEuが固定化される可能性を示唆する. 以上のように,実環境における薄片状黒雲母による核種固定化の可能性が当初計画以上に得られつつあることから,「当初の計画以上に進展している」と判断した.
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今後の研究の推進方策 |
本研究では目的達成のために2つの検討事項を設定している.2023年度においても,2022年度までの成果を反映しながら,研究計画に沿ってこれらの検討を推進する. <検討事項(1):薄片状雲母への陽イオン収着機構解明> 本検討事項では,陽イオン形態をとる核種の薄片状雲母への収着挙動について実験的に検討するとともに,それらに基づく固定化メカニズムの解明を進める.次年度は,Eu以外の陽イオン(一価のCsや二価のSrなど)の薄片状黒雲母への収着挙動を調べて比較検討する.また,NaイオンやKイオンなどの共存イオンの影響についても検討する.実環境においては海水系地下水のように高濃度のNaClの溶存が想定され,薄片状黒雲母へ核種が陽イオン交換によって収着する際には,Naイオン等の共存イオンが核種収着を低減する可能性が予想される. <検討事項(2):薄片状雲母への陽イオン収着に関する数値解析> 本検討事項では,薄片状雲母内部におけるトレーサーの拡散浸入を反映した物質移行モデルによる解析を実施する.2022年度には薄片状黒雲母内における見かけの拡散係数の評価に至っており,次年度においても検討事項(1)にて得られた実験結果へのモデル適用によって,見かけの拡散係数により共存イオンの影響などを定量的に整理する. また,2023年度は最終年度となるため,得られた知見を取りまとめ,実環境における雲母鉱物の核種固定化メカニズムに基づくバリア機能の新解釈を目指す.
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