研究課題/領域番号 |
21K18937
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分32:物理化学、機能物性化学およびその関連分野
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
堀谷 正樹 佐賀大学, 農学部, 准教授 (80532134)
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研究分担者 |
大久保 晋 神戸大学, 分子フォトサイエンス研究センター, 准教授 (80283901)
原 茂生 神戸大学, 研究基盤センター, 特命技術員 (60520012)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2023年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2022年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2021年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | 金属タンパク質 / 電子常磁性共鳴 / テラヘルツ / 高周波数・強磁場ESR / ヘムタンパク質 / 金属酵素 / ジャイロトロン / 電子スピン共鳴法 / 整数スピン / 強磁場 / テラヘルツESR / ヘム酵素 |
研究開始時の研究の概要 |
電子スピン共鳴法(ESR)はこれまで数多くの金属酵素研究に応用されてきた。しかし、市販の装置では測定対象が半整数スピン系の時のみに限定される。このデメリットを解消するため、強磁場・高周波数のESR装置の開発が行われているが、低感度装置であるため希薄スピン濃度系である金属酵素への応用研究はほとんどなされていない。本研究では全ての金属酵素が測定対象になる高感度テラヘルツESR装置を開発し、長年多くの研究者によって注目され続けているヘム酵素の反応多様性について、電子状態・配位構造の両面から解き明かす。さらに、ESR法があらゆる生体分子に適用できるようにし、生体分子ESRの研究拠点になることを目指す。
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研究実績の概要 |
金属タンパク質の機能と金属中心の電子状態は密接に関わっており、様々な物理化学的手法によって金属タンパク質の電子状態研究が行われている。その中で電子スピン共鳴法(ESR)は特に利用されてきた分光法のひとつだが、市販の装置では半整数スピン系をもつ金属タンパク質のみしか測定対象とならなかった。これは測定に用いる周波数・磁場が低いためである。そこでこれまで高周波として市販より10倍高い周波数発振器、超電導磁石を用いたESR装置を開発してきた。しかし、金属タンパク質は大部分が水であり、さらに巨大生体分子の中にひとつだけしか金属イオンが含まれていない希薄スピン系であることから、感度の面で高周波数・強磁場ESR信号の観測が困難であった。 今年度はこれを解決するため、テラヘルツジャイロトロン発振器を用いたESR装置を利用することとした。これを用いることで装置の感度は従来と変わらないが、照射するマイクロ波エネルギーが従来型ではμWオーダーであったものが、Wオーダーでの照射が可能となる。つまり信号の飽和が無いと仮定すれば、100万倍程度の高感度化が見込めるものである。これを用いてマッコウクジラ由来酸化型ミオグロビン(Fe3+ヘム)についてジャイロトロンESR測定を行った。その結果、500mWでは完全に信号が飽和して観測できないことが分かり、250mW以下の照射エネルギーで酸化型ミオグロビン由来ESR信号の観測に成功した。これはジャイロトロンを用いた初めての生体分子のESR信号観測である。次にグローブボックス内で作成した還元型ミオグロビン(Fe2+ヘム)について同様の測定を行った。こちらの信号はブロードであることが予想されており、今回強エネルギー照射条件ではベースラインのゆがみと信号強度が同程度になってしまうことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
巨大な生体分子の中にひとつの金属イオンしか含まない希薄スピン系である金属タンパク質では一般的なテラヘルツESR装置では信号検出が出来ない。そこでまず高感度化のために温度検出ESR装置を利用し、金属タンパク質のESR信号検出が可能であるかの検証を行った結果、金属タンパク質のESR信号が観測されることが分かった。しかし、その信号のSN比は低いものであり、高濃度化が可能、線幅が狭い金属タンパク質でのみ本システムが利用可能であることが明らかになった。そこで次にジャイロトロン発振器を利用して、高強度テラヘルツ光ESR装置による信号検出に取り組んだ。通常のテラヘルツ光源では検出器に戻ってくるエネルギーはμWオーダーになってしまうが、ジャイロトロン発振器を用いた場合、Wオーダーまで強度を上げることが出来る。つまり、ESR信号の飽和が観測されない試料であれば、ジャイロトロンを利用するだけで10^6倍の高感度測定が行えることになる。本システムを利用して半整数スピン系金属タンパク質の代表格であるマッコウクジラ由来酸化型ミオグロビン(Mb)について測定を行った。酸化型Mbは市販の装置ではマイクロ波エネルギーを高めても飽和しづらいことが報告されていたので、高出力ジャイロトロン発振でのESR測定を行ったところ、全く信号を得ることが出来なかった。そこで出力を弱めていき、250mWになったところで初めてESR信号が観測された。これは世界発のジャイロトロンESR信号である。この信号は125mW程度で最大となった。続いてグローブボックスを利用して還元型Mbを作成し、還元状態を保ったままESR装置に試料をセットアップした。この状態でジャイロトロンESR測定を行った。酸化型Mbでは信号がシャープであったため問題とならなかったが還元型Mbでは信号がブロードなためベースラインの不安定さが問題になることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
高出力ジャイロトロンを利用したESR装置によって希薄スピン濃度系である金属タンパク質のESR信号の観測が出来ることが証明できた。ただし、酸化型Mbなどのような信号がシャープな時に限定されることも明らかになった。これはブロードな信号を与える試料ではベースラインのうねりが信号と同程度になり、ESR信号の観測を困難にしていることが予想できた。このうねりは高出力ジャイロトロンによる熱発生によるものだと考えられる。そこで、出来るだけベースラインのうねりを抑えるため、熱伝導の低い金属でESRプローブを作成することが必要である。次年度は、従来のプローブより熱伝導の低い金属かつその他ベースラインに影響を及ぼす因子を排除したプローブの作成により、還元型MbのジャイロトロンESR信号の観測を目指したい。またさらなる高感度化には磁場変調を用いたジャイロトロンESR装置も開発する。磁場変調が可能になれば、ベースラインのうねりを各段に減少させることが可能である。しかし、同時にブロードなESR信号も観測不能になる可能性があるので、試料によって磁場変調システムを選択できる分光器の開発を行いたい。
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