研究課題/領域番号 |
21K18974
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分34:無機・錯体化学、分析化学およびその関連分野
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
平岡 秀一 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (10322538)
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研究分担者 |
高橋 聡 東京大学, 大学院総合文化研究科, 助教 (20456180)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2022年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2021年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
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キーワード | 超分子化学 / 分子自己集合系 / 速度論支配 / 経路選択 / 分子自己集合 / 環状自己集合体 / 数理モデル / 金属錯体 / 自己集合過程 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、Pd(II)イオンと有機多座配位子からなる一義配位自己集合体を対象とし、本研究で提案する2つの基本原理を実験及び理論研究により検証し、その過程により原理の詳細を分子論的に深化する。実験研究では、QASAPを利用し、原料及び生成物の時間発展を定量することで、中間体を明らかにし、提案する原理で期待される中間体が主生成物として生成するかを明らかにする。一方、理論研究ではNASAPを利用し、QASAPにより得られた結果を詳細解析することで、自己集合過程で生成する中間体を明らかにし、これらの中間体を生成する意義を反応速度定数として表現し、その分子論的意義を解明する。
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研究実績の概要 |
1. セルフシーティングは、複数種の構成要素からなる自己集合において自と他を認識し、自分達同士や異なる者同士で選択的に集まる現象である。多くのセルフソーティングは熱力学支配で発現し、自分達同士と異なる者同士の集合体間の熱力学安定性の違いにより実現する。そのため、構成要素の化学的性質が類似する系では、高い選択性が望めない。この問題の解決方法として、速度論支配が考えられる。中心に1,3,5-トリアジン環をもち3つの3-ピリジル基を導入した三座配位子(1)と1の中心環をベンゼン環に置き換えた2は1と幾何構造が近く、中心環と周囲の3-ピリジル基の二面角だけが異なる。NO3-存在下1と2を1:1比でPd2+と混合し熱力学支配に付すとほぼ統計的な混合物を与え、選択性は発現しなかった。一方、PF6-存在下、1, 2, Pd2+を混合したのちNO3-を加えると、選択的に1由来のM3L2錯体と2由来のM2L2錯体が得られ、経路選択によって準安定なソーティング状態へ導かれたことが明らかとなった。
2. これまで主にPd(II)イオン系における速度論支配を行なってきたが、異なる遷移金属への拡張により原理の一般性の検証や遷移金属イオンの特性を明らかにできる。Rh(II)イオンは配位子交換速度が遅いため、経路依存の速度論自己集合が実現すれば、穏和な条件で所望の集合体を形成できる上に、準安定種の速度論安定性が高く、材料としての応用にも繋がる。cis保護されたRh(II)二核錯体とカルボキシレート配位子(L)による自己集合において、脱離配位子がCH3CNでは、Rh3L3三角形とRh4L4四角形の混合物を与えたが、脱離配位子として2,6-ジクロロベンゾエートを用いると速度論的に四角形錯体のみを与え、脱離配位子によってエネルギー地形を変調できることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、Pd(II)自己集合系における速度論支配によるセルフソーティングとRh(II)自己集合系において、三角形構造と四角形構造を速度論支配により単一成分を形成することに成功した。前者についてはこれまで熱力学支配によるアプローチがほとんであり、速度論による達成例は極めて少ない。また後者の三角形・四角形の問題は、自己集合性錯体において、熱力学支配でも選択形成が難しいケースが存在したが、本研究による脱離配位子の選択による、三角形の形成を完全に抑制し、四角形への経路のみを可能にできることが明らかなった。この知見は、分子自己集合の構成要素外の物質によるエネルギー地形を変調し、経路選択に有利な地形を作り出せることを示しており、速度論支配の自己集合をコントールする上での重要な知見と言える。特に、配位自己集合における脱離配位子に相当する分子は別の自己集合系にも見出すことができ、その観点で、本知見は、配位自己集合系を超えた一般的な原理や戦略として利用できる点で、重要であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
エネルギー地形の変調の応用として、化学エネルギーを利用したエネルギーラチェット機構による準安定集合体の形成を計画している。ニ分子のPd2L4 かご形集合体がインターロックしたPd4L8錯体は内部に存在する3つの空隙にアニオンを取り込み安定化することが知られているが、テンプレートアニオンを除去してしまうと、インターロック分子の熱力学安定性が低下し、2分子のかご形分子に変換する。本研究では、エネルギー地形の変調を駆使し、準安定なインターロック分子の形成を目指す。その手法として、2つのエネルギー地形間を行き来するエネルギーラチェット機構を利用する予定である。これにより、準安定なインターロック分子を経て、一方向に変換する化学システムを構築できる。さらに、準安定なインターロック分子そのものが示す動的特性にも興味が持たれ、それについては各種分光測定により明らかにする予定である。併せて、今年度に行なった化学構造の異なるニ種類の多座配位子からなるセルフソーティングの速度論支配や、昨年度に形成機構を明らかにしたPd6L4 square-based pyramidの自己集合について、テンプレートイオンとアシストイオンのシナジーによる経路選択の可能性についても探求する予定である。
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