研究課題/領域番号 |
21K18982
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分34:無機・錯体化学、分析化学およびその関連分野
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
石川 直人 大阪大学, 大学院理学研究科, 教授 (20251605)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2023年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2021年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | アクチニド / 分子磁性 / 5f電子 / π電子 / 励起状態 / ランタニド / ウラン / トリウム / アクチノイド / ランタノイド / 角運動量 / スピン |
研究開始時の研究の概要 |
ポルフィリンおよびフタロシアニンを代表とする環状π電子系をもつ配位子とウラン(IV)およびトリウム(IV)の錯体群を系統的に合成し、温度依存・磁場依存磁気円二色性分光測定を行う。これにより5f電子系-励起π電子系間相互作用の存在の有無を明らかにする。相互作用の存在を確認できれば、そのπ電子系・5f電子状態・π-π*励起準位依存性を詳細に検討する。配位原子の違い、組み合わせ、幾何構造、に対する依存性を調べつために、系統的な錯体群の合成を行い、磁気分光測定を行う。研究の進行度により、他のアクチノイド元素、特にネプツニウム錯体についても研究を行う。
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研究実績の概要 |
本研究代表者らはこれまでの研究により大環状π共役系の光励起により誘起される軌道角運動量と、局在4f電子の間に強い相互作用が存在することを実験的に明らかにしている。環状π共役配位子に結合した希土類錯体において見出されたこの新しい種類の相互作用は、同じ分子内でもπ-π*励起準位の違いによって、相互作用強度の著しい変化や、強磁性的から反強磁性的への逆転が観測されるなど、これまでの考え方では説明できない興味深い性質を示した。 本研究計画は、この新しい形態の相互作用(以下、J-L相互作用と呼ぶ)が関与する新しい量子状態の研究領域を開拓することを目的とする。系統的に環状π電子系と4fおよび5f電子系の種類と構成を変えた化合物群について、温度可変・磁場可変磁気円二色性の詳細な測定と解析を行う。さらにこの相互作用の配位子依存性、励起状態依存性、金属依存性を調査する。これらをもとに、この新しい相互作用の機構を解明し、新奇量子状態の実現と制御方法を確立する。 これまでにフタロシアニンの二層構造をもつウラン錯体と対配位子にアセチルアセトナト配位子をもつフタロシアニン単層型ウラン錯体の合成を行い、温度磁場依存磁気円二色性(VTVH-MCD)の測定を行った。また同様の構造を持つ二種類のポルフィリン錯体の合成を試みた。本年度は、5f電子系におけるJ-L相互作用の研究を行うために、フタロシアニン配位子とサレン配位子をもつヘテロ二層型4価ウラン錯体U(Pc)(salen)の新規合成を検討した。さらにその過程で得られる中間化合物U(Pc)Cl3Liについて温度磁場依存磁気円二色性(VTVH-MCD)の測定を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度、テトラフェニルポルフィリン(TPP)と4価ウランの2:1錯体(U(TPP)2)の合成法を検討した。前駆物質として、必要なトリスアセチルアセトナトウラン錯体の合成が不調であったため、京都大学複合原子力科学研究所山村教授から同化合物の提供を受け、さらに本研究室の大学院生を京都大学複合原子力研究所に派遣し、同研究所山村教授およびスタッフから化合物合成の指導を受けた。 コールドラン実験として、同じ酸化数を取る同構造セリウム錯体の合成を行った。これによりウラン錯体でも適用可能な合成経路を確立した。さらにこの錯体を用いて温度磁場依存磁気円二色性(VTVH-MCD)の測定を行った。その結果、Ce(IV)錯体では一見予期しない著しい温度依存性が観測された。嫌気下での放射性化合物の合成を行う上で必要な機材と環境を、大阪大学放射線科学基盤機構の協力のもとで進めた。 今年度は、異なる配位子で構成される新規ウラン錯体U(Pc)(salen)の合成を検討した。前駆体[PcUCl3]Li(THF)4は文献に従って合成した。サレンのDMSO溶液にトリエチルアミンを加え、この溶液に[UP-cCl3]Li(THF)4のDMSO溶液を少量ずつ混合し、よく振とうした。その結果、サレンの添加により可視領域の吸収スペクトルのピークトップが短波長側にシフトした。サレンの吸収ピークが増加した時点で添加を中止した。このようにして得られた化合物は、λmax = 687nmにQバンドと呼ばれる鋭い特徴的なバンドを持つ金属フタロシアニンの典型的なスペクトルを示した。今後、この化合物が目的とする新規ウラン錯体U(Pc)(salen)であることを確認し、その磁気分光測定をおこない、J-L相互作用の配位子依存性を明らかにする予定である。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、第二配位子としてサレンを持つフタロシアニン単層型配位構造、ポルフィリン単層型配位構造を放射性U(IV)、Th(IV)に適用し、4回回転軸を失ったウラン―環状配位子1:1錯体の合成を行い、VTVH-MCDの測定を行う。これらを通じて5f電子系における「J-L相互作用」の本質の解明に取り組む。 これに加えて、これまでに非放射金属イオンを用いて合成法を確立した、サイクレンを第二配位子とするフタロシアニン単層型配位構造、ポルフィリン単層型錯体、および12クラウン4を第2配位子に用いた同種配位構造を放射性U(IV)、Th(IV)に適用し、4回回転軸を保持したウラン―環状配位子1:1錯体の合成を行う。 上記の錯体について、VTVH-MCDの測定を行い、5f電子系におけるJ-L相互作用の配位子依存性を明らかにし、J-L相互作用のメカニズムについて理論計算を用いた解析を行う。計算手法としては、量子化学プログラムOpenMOLCASを用い、RASSCF,RASSI法を適用し、スピン軌道相互作用と相対論を考慮した解析を行う。
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