研究課題/領域番号 |
21K18991
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分35:高分子、有機材料およびその関連分野
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研究機関 | 豊田工業大学 (2022) 北海道大学 (2021) |
研究代表者 |
小門 憲太 豊田工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (40600226)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2022年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2021年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
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キーワード | 筋肉 / 刺激応答性 / 高分子ゲル / 可逆性 / 酸化還元 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では筋肉のように化学力学変換を可能とするソフトマテリアルを創り出すことを目的とする。そのために、"可変長高分子セグメント"という概念を用いて、刺激に応答して膨潤相から膨潤相への体積変化だけを示す刺激応答性ゲルを創り出し、さらに自己組織化を用いて異方性を導入し、人工的に筋肉様ソフトマテリアルを創り出す。
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研究実績の概要 |
本研究では化学エネルギーを力学エネルギーに変換できるソフトマテリアルを創り出すことを目的としている。そのために、"可変長高分子セグメント"という概念を用いて、刺激に応答して膨潤相から膨潤相への体積変化だけを示す刺激応答性ゲルを創り出し、さらに自己組織化を用いて異方性を導入し、人工的に筋肉様ソフトマテリアルを創り出すことを最終目標としている。"可変長高分子セグメント"とは外部からの化学物質などの刺激に応答して切断・結合を繰り返す短鎖と、刺激に不活性な長鎖を組み合わせた高分子セグメントである。刺激に不活性な長鎖にはポリエチレングリコール鎖(PEG)を有し、刺激に活性のある短鎖にはジスルフィド結合を用いた二官能性の環状モノマーが鍵化合物となる。可変長高分子セグメントをコモノマーと架橋剤と混合して重合を行ったところ、ゲルが生成した。得られたゲルは有機溶媒を吸収してよく膨潤するオルガノゲルとなった。外部からの還元剤の添加によってこのゲルの膨潤度は2倍程度に大きくなった。これはジスルフィドがチオール2個へと変化したことによると考えられる。チオールの生成はエルマン試薬による呈色反応で確認できた。ここに酸化剤を添加すると数時間後にゲルの膨潤度は元の大きさに近く(約1.3倍)なった。ジスルフィド結合の再生成が起こったことによると考えられる。このゲルを圧力感知素子に包埋してゲル側にはマイクロ流路を接続し、素子からの電圧変化を取り出すデバイスを作製した。還元剤溶液、酸化剤溶液と交互に流入させたところ、溶液の変化に応じて電圧値が変化することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画で提案したような長鎖と短鎖の組み合わさったモノマーができたこと、また逐次重合の利用によってモノマーの分率が高分子材料内で高められたことで、線形高分子やゲルで結合の形成・開裂を増幅して観察することができた。また、これを圧力感知素子に搭載することで、化学変化から生じるゲルの膨潤度の変化を実際の電圧値の変化として取り出すことができた。このゲルの体積変化の始状態と終状態はどちらも膨潤状態であり、架橋密度の変化で体積変化を引き起こしていることから、ゲルの圧力感知素子からの剥離などが起こりにくく、デバイス応用にも適していると考えられる。当初の研究計画では可変長高分子セグメントで作るゲルに異方性を導入することまでを計画していたが、よりクリーンな反応系の利用を指向して、当初計画にはなかった電極反応の利用の方向へのシフトも考えている。これらの結果から本研究はおおむね順調に進展していると見なすことができる。
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今後の研究の推進方策 |
下記の3点について重点的に検討を進める予定である。 ①可変長高分子セグメントを含むゲルの解析:得られたゲルの酸化状態・還元状態について引張試験機などを用いて膨潤状態の力学特性を詳細に検討するとともに、反応前後での仕事量の測定も行う。また、外部刺激となる化合物に勾配(濃度勾配など)を与えることでゲルの走化性の発現にも挑戦したい。 ②異方性の導入による筋肉様ゲルの実現:上記項目①で得られたゲルに異方性を導入することで一軸方向の収縮が可能かという検証を行う。異方性を導入する手法としては液晶や結晶の自己組織化を用いる。液晶を用いる系ではずり応力や一軸配向基板を用いてモノマーを予め配向させ、モノマーが配向した状態で重合を行うことで配向ゲルを作製する。結晶を用いる系では研究代表者がこれまで行ってきた手法である多孔性結晶の構成要素連結を用いる。金属有機構造体(MOF)の有機配位子に重合性の官能基を導入し、ゲスト分子として可変長モノマーを導入して重合することでゲルを作製することを計画している。 ③電気化学の適用:得られた刺激応答性ゲルの体積変化を外部添加の試薬で引き起こすのではなく、電極反応によって誘起することを試みる。化学反応を用いるよりも過度な反応が抑えられるという点ではクリーンであると考えられる。そこでITO基板上にゲルを作製して、電圧印加によるゲルの体積変化の誘起を行いたいと考えている。いわゆるソフトアクチュエータのような往復運動とは全く異なる伸縮運動の誘起が期待できる。
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