研究課題/領域番号 |
21K19021
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分36:無機材料化学、エネルギー関連化学およびその関連分野
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
柳 博 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (30361794)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2023年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2022年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2021年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | アモルファス酸化物半導体 / 正の磁気抵抗 / 巨大磁気抵抗 / 磁性半導体 / 磁気抵抗 / アモルファス / 酸化物半導体 |
研究開始時の研究の概要 |
社会のIT化を推し進める電子機器は半導体が有するキャリアの極性で制御されてきた。これにスピンの自由度を加えるべく磁性半導体の研究が盛んに行われているが、これまでに室温で磁性を発現する磁性半導体は実現してない。本研究では、室温で磁性を発現する「新規透明アモルファス磁性半導体」の実現を目指す。まず結晶相では室温以上のキュリー点もしくはネール点を持つ構成材料に注目。これに別の元素をわずかに加えることで結晶の持つ秩序構造をわずかに破壊しアモルファス化することで室温での磁性の発現を抑制する。ここに伝導キャリアを導入し、伝導キャリアと磁性イオンとの相互作用により室温での磁性の発現と制御を目指す。
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研究実績の概要 |
In2O3とNiOの粉末粉ターゲットとして用いたRFマグネトロンスパッタリングにより製膜した透明アモルファスIn-Ni-O薄膜において電気物性の評価を行った。得られた薄膜はn型半導体であり、可視光領域において80%以上の透過率を有していた。作製したキャリア濃度が~10^19 cm^-3と~10^20 cm^-3の薄膜試料の電気抵抗率は低温になるほど大きくなる半導体的挙動を示した。キャリア濃度が~10^20 cm^-3の薄膜試料は負の磁気抵抗を示した。その最大値は約5%であった。Ni濃度を4%から7%に増加させると低温で正の磁気抵抗成分が観察されるようになり、Ni濃度7%の試料では5Kで正の磁気抵抗を示した。一方キャリア濃度が~0^19 cm^-3の薄膜試料は最大100%の正の磁気抵抗を示すことを明らかにした。Ni濃度が4%から7%のいずれの薄膜試料も50K以上の高温領域では負の磁気抵抗を示した。その値は最大0.9%程度であり、キャリア濃度~10^20 cm^-3の試料に比べて小さくなっていた。~10^19 cm^-3の試料も温度を下げると正の磁気抵抗の成分が観察されるようになり、Ni濃度が増加するほど正の成分が大きくなった。Ni濃度6%と7%の薄膜試料において、5K、9T印加時に最大値である100%の正の磁気抵抗を得た。しかし低温、高磁場領域においても負の磁気抵抗成分が存在しており、高磁場になるほど磁気抵抗が飽和するような傾向を示した。10^20 cm^-3薄膜資料の高温域での負の磁気抵抗はアモルファスIn2O3について報告されているものと同様の傾向を示したのに対し、低温では正の成分が生じるためこれから大きく離れた。正の磁気抵抗成分について既報のバリアブル・レンジ・ホッピングによるメカニズムでは説明できず、今回の薄膜では新規現象が生じている可能性が強く示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新規透明アモルファス酸化物半導体In-TM-O系(TM:遷移金属)において磁気秩序の発現を目指した研究を進めている。アモルファス半導体においては低温で局在化した準位が正の磁気抵抗を発現させることが知られているが、今回得られた正の磁気抵抗はバリアブル・レンジ・ホッピングにより説明できないことから新規現象が生じていることを強く示唆している。また、正と負の磁気抵抗成分両方が存在し、N遷移金属濃度に正の成分が増大することが明らかになるなど、この現象に対するd電子の影響が少しずつではあるが明らかになりつつある。このように本研究では新規透明アモルファス半導体において新規現象を発現させることに成功したことなどから順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
新規現象である正の巨大磁気抵抗のさらなる増大や高温での発現を目指す。Ni濃度の最適化とともにキャリア濃度を最適化することが求められる。現在の試料ではキャリア濃度が低い方が正の磁気抵抗成分が大きい傾向があるが、キャリア濃度を下げると電気抵抗率が大きくなるため現在使用している物性評価装置の測定レンジから外れる課題がある。従って高移動度化も重要になってくる。RTAなどの事後処理の最適化も含めて薄膜試料作製条件をつめていく必要がある。これに加えて正の磁気抵抗発現の起源を探ることも重要である。遷移金属を含まないアモルファスIn2O3では正の磁気抵抗を示さないことからd電子の存在が重要な役割を担っていると考えられる。d電子数の影響を明らかにしていくことも重要になってくる。
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