研究課題/領域番号 |
21K19060
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分38:農芸化学およびその関連分野
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
魚住 信之 東北大学, 工学研究科, 教授 (40223515)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2022年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2021年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
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キーワード | イオン輸送体 / リン酸化 / 植物 / 機能発現 / カリウム / 大腸菌 / 恒常性 |
研究開始時の研究の概要 |
ゲノム配列情報から推定されるイオン輸送体ホモログの中で輸送機能が判明しているイオン輸送体は限られている.植物シロイヌナズナのゲノムにコードされるK輸送体があるが,申請者が構築した大腸菌輸送体測定法によってK輸送の検出に成功した.本研究では,申請者が開発した大腸菌発現系を用いて,これまで誰も測定に成功しなかった機能未知のK輸送体の機能を測定する.この方法を用いて,これまで輸送機能が不明のまま取り残されている動物・植物の様々な輸送体の機能活性の解明を可能にする具体的な一つの方法を提示し,輸送機能が不明なために滞っている個々の輸送体の解明の道を開く新たな概念を吹き込むことをめざす.
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研究実績の概要 |
本研究で研究対象にする植物K輸送体の大腸菌のホモログ輸送体について検討して新たに以下のことが分かった.この結果は宿主に用いる大腸菌のK輸送体の理解を促進し,植物K輸送体の検討に重要な知見となると考えられる.特に,今回調べた大腸菌の輸送体は,植物K輸送体の先祖型であり基礎的な知見が含まれている.大腸菌の2つの同族K輸送体であるTrkHおよびTrkGを詳細に構造と機能を明らかにすることができた.TrkHは他のK輸送体(TrkG, Kup, Kdp)よりも強力なK輸送活性を持つことが明らかとなった 一方,TrkGは,K輸送体として機能するだけでなく,Na輸送体としても機能が見られた さらにK輸送活性はNaによって活性化することも分かった.両者が存在する理由についても検討したところTrkGは水平伝播によって侵入した外来の遺伝子であった.植物においても同様に同族輸送体を取得した可能性が考えられ,今回研究対象とするK輸送体と同等の構造であることから,今回得られた結果は植物のK輸送体の分子進化にも関連すると考えられる.TrkGのNa輸送活性化に関する部位についても検討を行ったところ,4回繰り返される構造単位のうち,第三番目のK輸送体の選択孔領域に特徴的な酸性アミノ酸が存在することが分かり,このアミノ酸は植物の同族輸送体においても保存されていることがわかった 今回,対象とする3種類のK輸送体においてこの酸性アミノ酸の存在は明らかとなっていないがK輸送活性の結果が得られた際にこのアミノ酸の有無の検討を行う.上記の宿主の情報を参考にして,今年度の植物のK輸送体の検討をすすめる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度に用いた新規K輸送活性の測定を行うための宿主大腸菌の変異株となる4種類のK取込み輸送体(TrkG, TrkH, Kup, Kdp)の遺伝子の多重変異株を用いて,TrkGとTrkHの性質を調べた.調節因子であるTrkAの遺伝子が必要であり,TrkGとTrkHはK取り込み輸送活性が同等であった.しかし,培地のK濃度を変化させて大腸菌の増殖を検討するとTrkHを維持する大腸菌の方がTrkGを発現している大腸菌よりも増殖速度は高かった.また,TrkHはK輸送活性のみであったが,TrkGはNaも輸送することが分かった.さらに,TrkGのK輸送活性はNa依存性であった.これらの性質が植物K輸送体の機能解析に与える影響は少ないと考えられるが,大腸菌がその生育にTrkGが有するNa輸送活性を要求する場合,植物K輸送体にNa輸送活性がある場合と無い場合において,宿主となる大腸菌の増殖に影響を与える可能性がある.植物K輸送体の中にはNa透過性をもつ輸送体も知られており,また,Na依存的にK輸送が活性化する輸送体も存在する.植物K輸送体の機能において,Naの影響については大腸菌がNa取り込み活性を要求する可能性をもつことから,獲得する植物K輸送体の機能においての解釈に本観点も考慮することが必要であることが明らかになった.酵母のK要求性株を用いて3種類の植物K輸送体のうち,1つが単独で酵母のK要求性を相補したことを昨年度において見いだすことができたが,再現実験を行ったところK要求性を相補は観察されなかった.昨年度から複数回にわたって本測定を繰り返しており,次第に技量と測定条件を絞ることができつつあり,より精度の高い植物K輸送体の機能測定が可能になりつつある.
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今後の研究の推進方策 |
組織別および時期特異的な遺伝子発現を調べるためにレポーター遺伝子をK輸送体遺伝子のプロモーターに連結した遺伝子を導入した植物を用いて発現箇所の検討をすすめている.今年度も様々な環境における発現変化を検討する.特に,細胞外の様々なK濃度の環境における生育を検討する.酵母変異株において,リン酸化酵素の共発現によるK輸送系を活性化する分子の単離をめざして260種類のリン酸化酵素複合体をK輸送体と酵母への導入を行っており,複数回のK輸送体の輸送活性変化の検討を行い,昨年度に引き続き確実な結果の取得を試みる.これまでの結果から,K輸送体の活性化に関与するリン酸化酵素複合体に関して,細胞に共発現して膜電位固定による電気生理測定を行い,K輸送体のK電流の特性を調べる.また,輸送活性を増大するリン酸化酵素複合体による他のK輸送体の活性化の有無について電気生理測定により検討を行う.K輸送測定以外のNaなどの影響も電気生理学測定によってより明瞭になると期待される.Naの活性化または透過性に関しても検討する.これらの結果は,大腸菌,酵母,動物細胞におけるK輸送活性の有無を比較して,その活性発現の差異が何に起因するのかを探る.上記の検討から獲得した植物リン酸化複合体の標的アミノ酸の絞り込みも検討する.
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