研究課題/領域番号 |
21K19148
|
研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分40:森林圏科学、水圏応用科学およびその関連分野
|
研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
植木 尚子 岡山大学, 資源植物科学研究所, 准教授 (50622023)
|
研究分担者 |
隠塚 俊満 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 水産技術研究所(廿日市), 主任研究員 (00371972)
小池 一彦 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 教授 (30265722)
|
研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
2023年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2022年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2021年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
|
キーワード | 赤潮 / ヘテロシグマ / 随伴細菌 / 海洋細菌 / アスタキサンチン / 光合成 |
研究開始時の研究の概要 |
単細胞藻ヘテロシグマは、夏季に海面近くで活発に増殖し、重度の漁業被害を与える赤潮を形成する。この季節、海面での光強度は非常に高く、通常の植物プランクトンであれば著しい強光障害を受け生存すら難しい。本研究では、申請者が過去に単離した海洋細菌によるヘテロシグマ増殖促進効果と強光耐性強化のメカニズムに迫り、ヘテロシグマが、細菌が生合成するカロテノイド系代謝物を利用して、光合成系の強光クエンチング機能を増強することにより,スーパー強光耐性を獲得するという新規仮説の立証を目指す。本研究の成果は、全く新しい視点からの赤潮発生要因の理解を可能にする。
|
研究実績の概要 |
赤潮原因藻ヘテロシグマは、夏季に海面近くで増殖・高密度に集積し、重度の漁業被害を与える『赤潮』を形成する。赤潮が頻発する夏季は、光強度は非常に強い。このような強光は多くの光合成生物に有害であり、多くの光合成機構は強光ストレスからの自衛のため、光合成装置の修復機構や、過剰な光エネルギーを散逸する機構を備えている。一方、多くの鞭毛を持つ植物プランクトンの多くは、その移動能力を生かして深い水深に潜り強光を避ける戦略を取るため、光合成系の強光防御機構は陸上植物に比べて遥かに弱い。 しかし、鞭毛藻の一種ヘテロシグマは例外である。本種は著しい強光に晒される海面付近に集積し、赤潮を形成する。遊泳能力を持ちながらも水中深くに潜ることなく、過剰な光があたる海表面で指数関数的に増殖し優占する。つまりヘテロシグマは並外れた強光耐性を備えているが、そのメカニズムには不明な点が多い。 申請者のグループは、ヘテロシグマと付着共生する海洋細菌A. ishigakiensis を見出した。A. ishigakiensisは従属栄養性細菌であり、単独では増殖できないが、ヘテロシグマに付着し、ヘテロシグマ由来の有機物を利用して増殖する。同時に、ヘテロシグマの増殖はA. ishigakiensisに促進される。この時、興味深いことに、本細菌との共培養がヘテロシグマのNPQ(non-photochemical quenching、過剰な光を熱として放散する葉緑体の強光に対する防御機能)を増大させることを予備的に見出した。この結果より、申請者らは本細菌がヘテロシグマの強光耐性を増強し、著しい強光下でのヘテロシグマ赤潮形成を可能にするという全く新たな仮説に至った。本研究では、ヘテロシグマ強光耐性がある種の細菌に補完される可能性を検証し、その機序を探ることを目的としている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ヘテロシグマとA. ishigakiensisの共培養を行なったところ、本細菌のヘテロシグマNPQへの影響が安定しないことが明らかになった。一方で、一般には植物プランクトンのNPQを低下させると言われる栄養制限条件下において、ヘテロシグマの強光耐性の変化を検討した。まず、NPQを低下させると言われるリン制限条件にてヘテロシグマを培養し、NPQを測定した。リン制限条件にてヘテロシグマを培養すると、数日後より増殖が見られなくなり、さらに一週間後には死滅する。増殖停止した直後のヘテロシグマNPQと栄養十分条件下のヘテロシグマのNPQを比較したところ、大きな変化は見られなかった。また、特にリン制限にてNPQが低下しやすいスケレトネマは、抗生物質であるクラリスロマイシンに生育と光合成活性に影響を受ける。スケレトネマの光合成活性が影響を受けるクラリスロマイシン濃度(10 microg/mL, 100 microg/mL)にてヘテロシグマを処理し、RNAseqにて未処理区と比較した遺伝子発現変動を解析した。同様の実験を、比較対象としてスケレトネマについても行なった。スケレトネマはクラリスロマイシン処理の影響を受けやすく、発現量が有意に変更する遺伝子は高濃度処理区で3500以上に登ったが、ヘテロシグマについては375にとどまり、また、変動の割合も小さいものが多かった。ヘテロシグマにおいては、光合成関連遺伝子の発現変動が少なく、ヘテロシグマNPQあるいは光合成活性が培養条件によって変動を受けにくいという知見と一致した。また、ヘテロシグマが細菌が産生する色素を光合成に利用する可能性を検討してきたが、ヘテロシグマがA. ishigakiensisを貪食することを見出した。この結果は、ヘテロシグマが必要に応じて細菌を貪食し、細菌由来の物質を自身の生存に利用できることを示している。
|
今後の研究の推進方策 |
ヘテロシグマとA. ishigakiensisの共培養を行なったところ、本細菌のヘテロシグマNPQへの影響が安定しないことが明らかになったが、この理由について検討を続ける。これまで、ヘテロシグマの培養条件について、特に最高到達細胞密度(培養液中の栄養塩濃度と逆相関する)、水温(高水温は光合成活性に影響があるという知見がある)などの異なる条件にてA. ishigakiensisとの共培養を行い、影響を検討する。また、本研究はA. ishigakiensisがカロテノイドの一つであるアスタキサンチンを産生すること、アスタキサンチンが葉緑体に取り込まれるとNPQを変化させるという知見をもとに発案したものである。培養条件によってA. ishigakiensisのアスタキサンチン産生能が変化する可能性についても検討が必要と考えている。 また、自然界で発生した高密度のヘテロシグマ赤潮がサンプリングされた場合には、そのサンプルに含まれるヘテロシグマ由来の光合成に関与する色素類を同定定量することで、赤潮状態にあるヘテロシグマと、通常の培養状態にあるヘテロシグマが保有する葉緑体機能に関係ある色素の違いについての情報を得る。
|