研究課題/領域番号 |
21K19150
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分40:森林圏科学、水圏応用科学およびその関連分野
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
北岡 卓也 九州大学, 農学研究院, 教授 (90304766)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2023年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2022年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2021年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
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キーワード | ナノセルロース / キチン・キトサン / TEMPO酸化 / 硫酸化・リン酸化 / 細胞培養基材 / マイクロ粒子 / 細胞応答制御 / 細胞・組織工学 / 構造多糖 / 界面修飾 / 多孔質フォーム / 細胞生育環境 / 細胞組織工学 / ナノキチン / 界面物性 / 幹細胞ニッチ |
研究開始時の研究の概要 |
林産系ナノ素材として注目されている樹木セルロースナノファイバーや、水産資源のキチンナノファイバーは、豊富に賦存する天然資源としてのみならず、明確な固体界面構造を持つ“人工合成不可能な”希少ナノマテリアルとしてのポテンシャルを秘める。本研究では、再生医療の課題である造血・間葉系幹細胞の性質維持と未分化培養の鍵を握る微小環境の制御に、細胞外マトリックスの構造アナログとしてセルロースやキチンの結晶性ナノファイバーを用いることで、「固体糖鎖界面」と「ナノ繊維形状」の両特性で細胞・組織培養のための微小環境を制御する、新発想の幹細胞培養基材の開発に挑戦する。
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研究実績の概要 |
天然多糖ナノ素材として注目を集める樹木由来セルロースナノファイバーとキチンナノファイバーの明確な固体界面構造とナノファイバー形状に着目し、細胞生育の足場としての微小環境制御に挑んだ。本年度は以下の重要な成果を得た。 (1)TEMPO酸化セルロースナノファイバーとキトサンナノファイバーをEDS化学で縮合することで、3D印刷可能なバイオインクの開発に成功した。ヒト肝がん細胞HepG2をゲル内で培養したところ、14日間のスフェロイド培養と高いアルブミン産生能を示した。(2)TEMPO酸化セルロースナノファイバーをカルシウム架橋することで、弾性率の異なるヒドロゲルを設計し、骨髄由来ヒト間葉系幹細胞を培養したところ、硬さの違いで細胞形態や遺伝子発現挙動に違いがみられた。(3)表面硫酸化セルロースナノファイバー基材上で、ラット副腎髄質由来褐色細胞腫PC-12を培養したところ、顕著な神経突起の伸長が観察され、極低濃度の分化誘導因子の添加でも機能した。(4)表面リン酸化セルロースナノファイバー基材上で、骨芽細胞様細胞MC3T3-E1を培養したところ、リン酸基量依存的な細胞接着挙動を示し、分化誘導培地なしで初期的な骨形成の促進が見られた。(5)セルロースナノファイバーとキチンナノファイバーをピッカリングエマルションでマイクロ粒子化したところ、ヒトHepG2やマウスKupffer細胞KUP5において特徴的なパイロトーシスが誘導された。素材単独ではこの現象が見られないことから、多糖微粒子が免疫系に直接働きかける未知機構が示唆された。 生体内の細胞外マトリックスのナノ形状と界面構造を模倣可能な林産・海産資源由来の多糖ナノファイバーを駆使することで、培養細胞に直接働きかける様々な現象を見出した。これらは、細胞の生体機能を制御できるバイオアダプティブ素材として極めて有用であり、今後さらなる研究展開を図る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
林産・海産資源由来の天然多糖を従来型のバルク素材としてではなく、最先端の医工学バイオマテリアルとして機能設計する本課題の挑戦により、昨年度に引き続き、天然構造多糖ナノファイバーのバイオアダプティブ特性を数多く見出すことに成功した。表面官能基化のバリエーションにも富み、表面硫酸化や表面リン酸化でも新知見を得ている。得られた成果はSmall(IF=15.153)などに発表しており、エディターとして英文図書も発行した。当該分野で極めてインパクトの高い成果と認められる。他にも、間葉系幹細胞の培養実験も実施しており、再生医療分野への応用も志向している。以上の結果は、天然構造多糖のナノマテリアル研究に大きく寄与する研究成果であり、詳細な機構解明とさらなる展開が大いに期待されることから、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
再生医療分野における喫緊の課題は、Xeno-freeでの体性幹細胞の未分化大量培養である。本年度までの成果から、多糖ナノファイバーが極めて多機能なバイオアダプティブ素材として、細胞培養基材やアジュバントとして利用できることが示された。次年度は、様々な表面改質多糖ナノファイバーを用いた異種動物由来成分フリーの無血清培養に展開する。単なる細胞接着・増殖促進のみならず、培養幹細胞の分化・未分化の状態を詳細に把握し、細胞周辺環境をナノ物性の観点で精査することで、“細胞生育環境”を定義できる構造因子を見出す。また、KUP5のパイロトーシスの結果から、多糖ナノファイバーが細胞の免疫系シグナル伝達の直截的活性化にも関与し得ることが示唆された。そこで、創薬支援基盤として重要なin vitroでin vivo機能を発揮する細胞制御培養にも挑戦し、挑戦的研究(萌芽)にふさわしい成果を目指す。
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