研究課題/領域番号 |
21K19168
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分41:社会経済農学、農業工学およびその関連分野
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研究機関 | 島根大学 |
研究代表者 |
石田 秀樹 島根大学, 学術研究院農生命科学系, 准教授 (70201316)
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研究分担者 |
荒西 太士 島根大学, 学術研究院農生命科学系, 教授 (10371832)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
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キーワード | 種組成 / 質量分析 / PCR / 走査型電子顕微鏡 / 水凍結乾燥法 / 質量分析法 |
研究開始時の研究の概要 |
これまで,排水処理施設での適切な水質管理を行うための正確かつ低コストな水質判定法として、原生生物の種組成をもとにした判定法が利用されてきました。しかし,顕微鏡観察での種同定が難しくなってきており,新たな短時間で低コストの水質判定法が必要となってきました。質量分析法を用いることで、原生生物の種同定・種組成把握を行い曝気槽運転条件を迅速に決めることができる、種名と質量分析データがセットになったデータベースの構築を目指しています。
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研究実績の概要 |
本研究は排水施設の原生生物を迅速に同定分類し,水処理の状態を低コストで素早く判定するための基盤を構築することを目指している。コロナ感染症の影響により,対象施設が利用できず当初から別施設に変更して調査を行っていたが,変更後の施設でのデータが蓄積してきたため,このまま継続してデータ解析を続けることとした。 研究の内容は大きく次の4つに分けられる.①サンプリングした原水の水質測定,②出現原生生物種の観察同定,③活性汚泥中の原生生物の遺伝情報解析,④活性汚泥中の原生生物の質量分析解析. 水質測定については,排水施設では一般的に計測されている水質項目を網羅的にカバーしている.これらのデータは,水処理施設で従来の運転状況判断の根拠となるデータであり,さらに本実験で運転状況判断との比較をするべき重要な基礎データである.種同定については,光学顕微鏡観察のほかに水凍結乾燥法を用いた試料作製を行い,走査型電子顕微鏡で観察した。その結果,この排水施設は出現種がほぼ一般的な種で構成されていることが明らかになり,種組成もある程度一般化して考察することができると考えられる.遺伝情報を用いた迅速な種組成判定に関しては,原生生物用のユニバーサルプライマーを設計してPCRを行い,リボソーム18Sを中心とした遺伝情報の収集を行っている。今年度は解析結果が安定しつつあり,さらに,V9領域に着目することで,効率的に種分類がおこなえることが明らかになっており,原生生物の種組成を明らかにするうえで有効な手段となると考えられる.質量分析についてはまだ安定した解析結果が得られていない。一歩立ち返って,単離培養中の原生生物を試料として測定し,比較することで,違いを明らかにするところから進めている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ感染症の影響により当初予定の対象施設でのサンプリングが出来なくなったため,サンプリング対象を調査可能な類似施設に変更し,引き続きサンプルの収集をおこなっている.コロナ環境は改善しつつあるが,またいつ変化するかわからないことや,現在の施設でのデータが蓄積してきたことなどを考慮し,施設を元に戻さず代替施設でそのまま継続して調査をおこなっている。昨年度と同様に水質の測定や原生生物の種組成と出現頻度,生息密度に関するデータ取得は比較的順調に進んでいる。これらのデータを遺伝情報データや質量分析データと比較することで,お互いのデータが紐づけされることになる. 昨年度から進めていたSEM観察のための水凍結乾燥法の手法がより改善され,電子顕微鏡観察用試料の作成が容易にできるようになったため,短時間でより正確な種同定が出来るようになったことは評価できる。この水凍結乾燥法は各方面で評価が高く,論文発表,学会講演やシンポジウムの講師として多くの方に周知の機会を持つことができた. PCR解析については,原生生物用のユニバーサルプライマーを再設計し,安定した解析結果が得られるようになってきた。特に18S rRNAのV9領域を詳しく見ることで,種組成や種同定が精度高く行えることが分かり,現在さらなる分析を進めているところである.抽出等の作業は比較的容易にできるため,水処理施設の現場での作業にも応用できると考えている. 一方,質量分析については未だ安定した解析結果が得られていない.個々の細胞の分離の精度が重要であることが判明したため,手法を再検討した.まずは1種または少数の種からデータを取得し,必要なデータが取れているかどうかの確認作業を進めている.活性汚泥から分離した細胞を個別に培養し,単一種を用いた検討を行うことで,比較検討のための基礎データを収集している.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,当初予定の施設ではなく代替施設での調査を継続して行うこととする.幸いなことに,代替施設の活性汚泥は一般的な組成であると考えられるため,この新しい施設での調査でも汎用性のあるデータが得られると考えられる.この施設では農業集落排水施設ではあまり行われていない嫌気槽・曝気槽を繰り返す処理(高度処理)を行っているが,生物反応槽から得られたデータは農業集落排水施設にも適用できると考えられるため,当初の目的から外れることはないと考えられる. 種同定のために用いた走査型電子顕微鏡を用いての観察が有効であることが分かり,引き続きSEM観察を続け,基礎データをさらに蓄積する予定である。水凍結乾燥法が迅速な試料作成に有効な手段であることが明らかになったので,さらなる迅速化,高画質化を目指して改良を進める. PCRによる出現種の遺伝情報取得については,新しく設計したプライマーが有効であり,安定的なデータが得られてきている.引き続きこのプライマーを使うことで経時的な変化を追うことができ,年間を通じての活性汚泥の変化をとらえる予定である.18SrRNAV9領域以外にV4領域を組み合わせることでより高精度の解析ができる可能性があるが,迅速化と高精度化のバランスで最適な方法が決まると考えられ,この点についても検討を進める. 質量分析については,年度の中盤まではまず分離細胞単体での測定データ取得に専念する.ただし,島根大学の質量分析装置が故障したため,鳥取大学または広島大学の施設を使っての実験となる.活性汚泥そのものを直に分析することが目標であるため,単体の細胞だけでなく複数のサンプルを混合した状態でも判定をすることが必要である.単離培養する種を増やし,それぞれを比較していき,最終的には複数の種を混合した状態でのスペクトルデータを取得する予定である.
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