研究課題/領域番号 |
21K19193
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分42:獣医学、畜産学およびその関連分野
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
加藤 大智 自治医科大学, 医学部, 教授 (00346579)
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研究分担者 |
山本 大介 自治医科大学, 医学部, 准教授 (90597189)
水島 大貴 自治医科大学, 医学部, 助教 (50843455)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
2023年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
2022年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2021年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | 吸血昆虫 / 腸内細菌叢 / サシチョウバエ / ハマダラカ / リーシュマニア / マラリア / 腸内フローラ / 囲食膜 / リーシュマニア原虫 / マラリア原虫 |
研究開始時の研究の概要 |
「囲食膜」とは、昆虫の中腸で食物の周囲に形成される薄い膜で、食物による中腸の物理的ダメージを防ぎ、中腸への毒物や病原体の通過を防ぐフィルターのような役割があると考えられている。吸血昆虫では、吸血に反応して血液を取り囲むように囲食膜が形成され、赤血球に含まれる毒物を隔離すると考えられている。また病原体に対するバリアとしても働くが、囲食膜を部分的に破壊して中腸上皮に接着・侵入し発育する寄生虫もいる。本研究では、吸血昆虫の囲食膜の形成メカニズム、病原体侵入に対する役割を解明し、囲食膜のバリア機能強化による病原体伝播阻止法の開発を目指す。
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研究実績の概要 |
吸血昆虫の中腸は、吸血によって哺乳類から取り込まれた病原体がはじめて遭遇する昆虫の体内環境で、ダイナミックな環境変化に適応して生存するためには様々なバリアが存在する。本研究では、吸血に伴って吸血昆虫の中腸に形成される囲食膜などのバリア機能に着目し、それが形成されるメカニズム、病原体侵入阻止に果たす役割の解明を目指す。本年度の研究実績の概要は次の通りである。1)抗生物質投与によってマラリア原虫の感染が亢進したハマダラカで発現変動する遺伝子を網羅的に解析し、囲食膜関連遺伝子群や新規抗菌ペプチドの相同遺伝子群(AsX:仮名)の発現低下を認めた。AsX遺伝子ノックダウン蚊を作出し、マラリア原虫感染への影響を検討したが、対照群と比較して有意な差は認められなかった。2)囲食膜形成に重要な役割を果たす腸内細菌叢について、コロニー飼育下の3種のサシチョウバエで網羅的解析を行った。同じ環境下で飼育しているにも関わらず、種によって異なる腸内細菌叢をもつが、近縁種では類似した腸内細菌叢を持つことが明らかになった。3)チュニジアで自然分布する数種のサシチョウバエの腸内細菌叢を比較解析した。生息場所と腸内細菌叢に関連があることが明らかとなり、生態系が腸内細菌叢の形成に深く関与することを明らかにした。4)ハマダラカの性分化遺伝子を改変した系統を作出したところ、雌の唾液腺の発達に異常をきたし、野生型と比較して唾液量が減少した。この蚊にネズミマラリア原虫を感染させたところ、中腸のオオシスト数が有意に低下した。ハマダラカの唾液は、中腸環境でのマラリア原虫の初期の発育に影響を及ぼすことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
吸血昆虫の病原体媒介に重要な腸内環境について明らかにすることを目指す。抗生物質投与によってマラリア原虫の感染が亢進したハマダラカにおいて発現変動する遺伝子を網羅的に解析した。これらの蚊では、囲食膜関連遺伝子群の発現低下がみられた。また、抗生物質を投与し腸内細菌叢を減少させた蚊では囲食膜の形成が阻害されていることが組織学的・機能解析により示唆された。これらのことは、腸内細菌叢が囲食膜のバリア形成に関与することを示唆する。これまでの研究で、抗生物質投与群で著しく発現低下を認める分子として同定した新規抗菌ペプチドの相同遺伝子AsXの遺伝子ノックダウン蚊を作出し、マラリア原虫感染に及ぼす影響を検討したが、対照群との有意な差は認められなかった。 また、囲食膜形成に影響を及ぼす腸内細菌叢について、コロニー飼育しているサシチョウバエ、およびチュニジアに自然分布するサシチョウバエにおいて解析を行った。腸内細菌叢の形成にはサシチョウバエの種による遺伝的背景に加え、生態環境が大きく影響することを明らかにした。またハマダラカの性分化遺伝子を改変した系統を作出したところ、野生型と比較して唾液量が減少し、マラリア原虫の感染・発育に抑制的に働いた。ハマダラカの唾液中の分子が、中腸環境でのマラリア原虫の発育に影響を及ぼすと考えられた。従って、病原体の初期の感染・発育に重要な場となる腸内環境の形成には、腸内細菌のみならず、唾液分子も重要な役割を果たしていることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
1.囲食膜形成における腸内細菌の役割:血液または液体培地を摂取させた吸血昆虫、抗生物質投与後に吸血させた吸血昆虫の囲食膜の形成過程を詳細に検討する。 2.サシチョウバエ、ハマダラカの遺伝子ノックダウン、遺伝子改変技術の確立:吸血昆虫、特にサシチョウバエでは遺伝子ノックダウンや遺伝子改変技術は確立されていない。現在検討中であるが、効率よく発現抑制や遺伝子改変ができる条件を検討する。
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