研究課題/領域番号 |
21K19288
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分45:個体レベルから集団レベルの生物学と人類学およびその関連分野
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
多羽田 哲也 東京大学, 定量生命科学研究所, 客員教授 (10183865)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2022年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2021年度: 5,200千円 (直接経費: 4,000千円、間接経費: 1,200千円)
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キーワード | ツリガネムシ / telotroch / 集団行動 / 個体認識 / 社会性 / 同調分化 / 繊毛虫 / zooid / 集団遊泳 / 集団固着 / 細胞認識 / 個体識別 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究の対象とするツリガネムシtelotrochの集団行動の報文は、申請者が知る限り、法政大学の堀上英紀博士と石井圭一博士による1976年以降の数次の学会発表要旨(国際学会を含む)および1986年の法政大学教養部紀要が主たるものである。同グループは、この集団行動を示す4種のツリガネムシを同定し、telotrochが集団行動を惹起する物質を分泌する可能性について考察している。このグループ以外の報告がほぼ無い理由は、ツリガネムシ研究者がそもそも少ない上に適当な種を長時間観察する必要があるからかと思える。現代の分析技術によりこの集団行動の物質基盤を理解したい。
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研究実績の概要 |
単細胞生物である繊毛虫に分類されるツリガネムシの中に、行動を共にして群生する種があることを見出した。ツリガネムシは柄を有し構造物に固着し、コロニーを形成し群生している様子が観察される。また、柄から離れて遊走するtelotrochとよばれる形態にもなることも知られている。ある種では、telotrochへの分化がコロニー内で同調しており、遊走の後に先に着地点を見つけた少数の個体の周囲に続々と集まり、互いに密着するようにコロニーを形成する。この種では、コロニーは、少数の個体が分裂して増えて形成されるのではなく、最初から多数のtelotroch同士が相互に認識し、集団行動をしていることを強く示唆している。この集団行動の報文は、申請者が知る限り、法政大学の堀上英紀博士と石井圭一博士による1976年以降の数次の学会発表要旨(国際学会を含む)および1986年の法政大学教養部紀要が主たるものである。同グループは、この集団行動を示す4種のツリガネムシを同定し、telotrochが集団行動を惹起する物質を分泌する可能性について考察している。このグループ以外の報告がほぼ無い理由は、ツリガネムシ研究者がそもそも少ない上に適当な種を長時間観察する必要があるからかと思える。現代の分析技術によりこの集団行動の物質基盤を理解したい。その足掛かりとして集団行動の行動を高精細の動画として数多く記録した。その中には2日間に及ぶタイムラプス映像や捕食者集団にコロニーが捕食される様子の記録も含まれている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
懸案であった培養法の確立ができず、研究の進捗に大きな進展は見られなかった。 使用したサンプルからDNAを抽出し、rDNAの内部転写スペーサー領域(ITS1とITS2)および5.8S RNA配列を用いて、種の同定を行った。その結果、集団行動を示したサンプルから抽出したDNAは例外なく、文献1で同定されたVorticella sp 11とほぼ完全な相同性を有していたので、本種を暫定的にVorticella sp 11 sanと名付けることにする。文献1によると、Vorticella sp 11はITS2の系統樹ではsubclade 1に属し、Vorticella fuscaの近縁種と分類され、ITS1-5.8S-ITS2による系統樹ではsubclade 2の基幹に位置する。Vorticella sp 11及びVorticella fuscaに関して、本研究対象のVorticella sp 11 sanと関連する生態あるいは行動様式の報告はない。 文献1 Sun P, Clamp JC, Xu D, Huang B, Shin MK, Turner F. 2013. An ITS based phylogenetic framework for the genus Vorticella: finding the molecular and morphological gaps in a taxonomically difficult group. Proc R Soc B 280: 20131177.
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今後の研究の推進方策 |
Vorticella sp 11 sanの特徴は同期した形態の変化(zooidからtelotroch及びその逆)とtelotrochの集団行動にある。一般に、ツリガネムシのzooidからtelotrochへの変化は、環境が悪くなった時に、生息地を変えるために遊走可能な形態になると説明されている。しかし、Vorticella sp 11 sanは、1日に1回の頻度で形態変化を繰り返していることが観察されているので、必ずしも環境変化に応じて形態を変えているわけではないかも知れない。また、この際に有性生殖の様子も観察されないことから、核相交代でもないと考えられる。zooidからtelotrochへの形態変化に先立って、細胞分裂を行うコロニーとその割合が低いグループが観察された。両者のゲノム比較は行なっていないが、栄養条件の差かも知れない。 以上のような形態変化の分子機構は興味深いものであり、本研究の目的であったが、培養法が確立されていない現状ではRNA profilingなどの物質レベルの解析は難しい。本年度は、上記の記録を精査し、行動を記録した高精細動画をもとにtelotrochの行動解析に注力し、投稿論文を完成させる。
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