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アリの捕食がもたらすアブラムシ口吻長の進化:自然界における「育種」

研究課題

研究課題/領域番号 21K19294
研究種目

挑戦的研究(萌芽)

配分区分基金
審査区分 中区分45:個体レベルから集団レベルの生物学と人類学およびその関連分野
研究機関信州大学

研究代表者

市野 隆雄  信州大学, 学術研究院理学系, 教授 (20176291)

研究分担者 陶山 佳久  東北大学, 農学研究科, 教授 (60282315)
研究期間 (年度) 2021-07-09 – 2025-03-31
研究課題ステータス 交付 (2023年度)
配分額 *注記
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2022年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2021年度: 3,120千円 (直接経費: 2,400千円、間接経費: 720千円)
キーワードクチナガオオアブラムシ属 / ケアリ属 / 相利共生 / MIG-seq解析 / 淘汰勾配解析
研究開始時の研究の概要

アリ共生型のアブラムシには、口吻の長さが体長の3倍近くと極めて長大化している種がいる。なぜ長大化しているかについて、本研究では次の仮説を立てた。「アブラムシ個体のうち、口吻が短いため甘露分泌が少ない個体は、共生アリによって選択的に捕食される
。その結果、アブラムシ集団として口吻が長くなる方向への進化が起こった。」
本研究では、まずアブラムシの口吻長が遺伝形質であることを示し、次にアリの選択的捕食によって口吻が長くなる方向への進化(「育種」)が起こっていることを明らかにする。さらに「育種」方法の異なるアリ種に随伴されているアブラムシ集団間で、遺伝的な分化が起こっているかどうかについて検証する。

研究実績の概要

本年度は、研究項目の2番目である「アリの捕食によってアブラムシの口吻が長くなる方向への進化が起こっているか?」について、長野県松本市の4地点、7つのクヌギクチナガオオアブラムシのコロニーを対象に、アリに捕食された(捕獲・運搬された)アブラムシ個体を回収し、捕食されずに生存していた個体と口吻長と頭幅を比較した。その結果、捕食されたアブラムシ個体は生存していた個体よりも口吻が有意に短かった。また、体サイズに対する口吻長の比を表す相対口吻長(口吻長/頭幅:体サイズの指標)も、捕食されたアブラムシ個体は生存していた個体よりも短いことが判明した。
この結果は、成虫と幼虫をまとめて解析しても、成虫と幼虫を分けて解析しても同様に得られたことから、アリによる選択的捕食がクヌギクチナガオオアブラムシの口吻長に対する選択圧として機能していることが示唆された。
この7つのクヌギクチナガオオアブラムシのコロニーはそれぞれ別の寄主木(クヌギ)の幹上に形成されていたが、アブラムシ1個体当たりのアリに捕食される率は、アブラムシの平均口吻長が短い寄主木ほど高かった。すなわち、選択的な捕食はアブラムシコロニー内で起こるとは限らず、コロニー間でも起こっていることが示唆された。そこで、季節的にどのようなパターンで寄主木間でのアブラムシの平均口吻長の違いが生じているかを明らかにするため、季節を通して継続的にアブラムシサンプルを採取した。
これと関連して、どのような寄主木にクヌギクチナガオオアブラムシが定着し、増殖しやすいのかを調査する目的で、長野県松本市において300本以上のクヌギをランダムに抽出し、胸高直径、日当たり、幹上でのアリとアブラムシの存否を調査した。その結果、クヌギクチナガオオアブラムシは定着時に寄主木の胸高直径や日当たりに対して有意な選好性を示さないことが判明した。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

研究項目の2番目である「アリの捕食によってアブラムシの口吻が長くなる方向への進化が起こっているか?」について、ヤノクチナガオオアブラムシとクヌギクチナガオオアブラムシの2種について一貫した結果が得られた。すなわち、両種ともケアリ属クサアリ亜属のアリが口吻の短いクチナガオオアブラムシを選択的に捕食していることが明らかになった。ヤノクチナガオオアブラムシについてのこの成果はThe Science of Nature誌へ投稿中である。
さらにクヌギクチナガオオアブラムシについては、口吻長の季節変動を詳細に調査するためのサンプルを採取した。サンプルは、約800個体のうち約350個体分のプレパラート標本作成が完了している。プレパラート標本作成後、形態計測と解析を行い論文化する。

今後の研究の推進方策

研究項目の1番目である「アブラムシの口吻長は遺伝形質か? 」について、口吻長のクローン間、クローン内の分散分析を行うことにより調べる。クローン判別は、次世代シーケンサーを利用したジェノタイピング解析であるGRAS-Di (Hosoya et al. 2019)により実施する。まず、1本のクヌギに生息しているクヌギクチナガオオアブラムシの個体数増加パターンを春~初夏まで観察し、その後初夏に全個体(200個体程度)を回収する。
次に、各個体のクローン判別を行うとともに個体ごとの口吻長およびその他の形態長を計測する。予備実験では、同一の寄主木には春の定着時点で5~7クローン系統が存在しており、これらがその後クローン繁殖により個体数を増やしていくことを確認している。得られた結果について、有意な遺伝分散があるかを確認する。
研究項目の2番目である「アリの捕食によってアブラムシの口吻が長くなる方向への進化が起こっているか?」については、具体的には平均口吻長の短いアブラムシコロニーでアリの捕食頻度が高かった。しかし、そもそもなぜコロニー間で口吻長の差が生じるかの至近要因はわかっていない。このため、寄主木ごとのアブラムシ口吻長の季節変動とアリコロニーの栄養要求量の季節変動をそれぞれ定量化する。
仮説としては、「アリのタンパク要求時期が遅いコロニーでは、アブラムシに対する捕食が春~初夏の長期間起こらないため、アブラムシにとって成長戦略上有利な、口吻の短い個体が多数派となる。このようなコロニーでは、アリのタンパク要求が高まる夏になると、口吻が短く甘露提供量の少ない個体に対する捕食頻度が急激に高くなる」を立てた。研究としては、アリコロニーのタンパク要求時期が遅い寄主木ほど夏期のアブラムシの平均口吻長が短くなっているかを検証する。

報告書

(3件)
  • 2023 実施状況報告書
  • 2022 実施状況報告書
  • 2021 実施状況報告書
  • 研究成果

    (5件)

すべて 2023 2022

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件) 学会発表 (4件)

  • [雑誌論文] Evolutionary host shifts across plant orders despite high host specificity in tree stem surface-living Stomaphis aphids inferred from molecular phylogeny2023

    • 著者名/発表者名
      Matsuura T., Yamamoto T., Matsumoto Y., Itino T.
    • 雑誌名

      Journal of Asia-Pacific Entomology

      巻: 26 号: 4 ページ: 102138-102138

    • DOI

      10.1016/j.aspen.2023.102138

    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
    • 査読あり
  • [学会発表] 共生アリによる捕食はクヌギクチナガオオアブラムシの口吻長に対する選択圧となるか?2023

    • 著者名/発表者名
      松浦匠, 中村駿介, 中瀬悠太, 市野隆雄
    • 学会等名
      第55回種生物学会シンポジウム
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [学会発表] 共生アリによる選択的捕食はクヌギクチナガオオアブラムシの口吻の長大化に寄与するか?2023

    • 著者名/発表者名
      松浦匠, 中村駿介, 中瀬悠太, 市野隆雄
    • 学会等名
      第83回日本昆虫学会
    • 関連する報告書
      2023 実施状況報告書
  • [学会発表] クヌギクチナガオオアブラムシの口吻長と共生アリによる捕食の関係2023

    • 著者名/発表者名
      松浦匠, 中村駿介, 中瀬悠太, 市野隆雄
    • 学会等名
      第70回日本生態学会
    • 関連する報告書
      2022 実施状況報告書
  • [学会発表] ヤノクチナガオオアブラムシの口吻長の個体差が共生アリによる被捕食率におよぼす影響2022

    • 著者名/発表者名
      中村駿介, 山本哲也, 松浦匠, 田路翼, 中瀬悠太, 市野隆雄
    • 学会等名
      第69回 日本生態学会大会
    • 関連する報告書
      2021 実施状況報告書

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公開日: 2021-07-13   更新日: 2024-12-25  

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