研究課題/領域番号 |
21K19297
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分45:個体レベルから集団レベルの生物学と人類学およびその関連分野
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
藤本 仰一 大阪大学, 大学院理学研究科, 准教授 (60334306)
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研究分担者 |
Sarper Safiye 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 訪問研究員 (90899915)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2021年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
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キーワード | 進化発生 / 対称性 / 刺胞動物 / 数理モデル / 器官配置 / 形態形成 |
研究開始時の研究の概要 |
刺胞動物は放射対称な種と左右対称な種が共存する。さらにイソギンチャクでは、器官配置が放射対称な個体と左右対称な個体の種内多型を我々は見出した。本研究では、この対称性の種内多型を多角的(配置の形成順序、解剖学的知見、遺伝子発現)に証明する。この多型から左右/放射対称性を選択的に発生させる再構成実験系を構築し、対称性を調節する発生学的特徴を明らかにする。同時に、複数の種(他のイソギンチャクとクラゲ)で器官配置過程を計測し、対称性が生まれる過程の共通性と多様性を明らかにする。これらの知見を統一的に実現する数理モデルを構築する。動物の多様な対称性の調節原理を構成的かつ統一的に理解する。
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研究実績の概要 |
主に3種の刺胞動物に対して、器官配置の多様性の定量解析系を構築した。 タマウミヒドラ:ポリプを国内で採取し、DNAバーコーディング法から種を同定した(Coryne uchidai と98%一致)。研究室でポリプを飼育し、固定し、DAPI染色後、共焦点顕微鏡で3D撮影した。ポリプの輪郭から触手の3次元配置を定量した結果、ポリプごとに3放射相称、4放射相称、あるいは、5放射相称を示すという種内多型を見出した。 ミズクラゲ:ポリプを数日間継続観察し、触手が形成し配置する過程の時空間パターンを明らかにした(n=100)。クラゲ特有のボディプランである4放射相称は、触手が逐次的に形成するために一時的に乱れるが、触手が16本形成時に回復することを発見した。加えて、触手は、両側に隣接する触手の中点から有意にずれた位置に付加されることでも放射相称性は乱れた。後に、触手が近接する領域に細胞増殖が局在することで、触手は等間隔に配置し、4放射相称が回復した。これらポリプの成長と触手形成が、栄養依存的に働くFgf-TOR経路に制御されることを見出した。これらの結果を基に数理モデルを構築し、放射相称性が乱れ・回復する仕組みを提案した。 タテジマイソギンチャク:MgCl2の一時的投与により、(親体から一部分が切除される欠片化による)無性生殖の誘導に成功した。切除後の個体再生過程において、胃袋、口、管溝が生じる時空間パターンを顕微鏡下でライブ観察する系を構築した。その結果、切除された欠片は、分節構造を含む組織へ再生し、分節構造から複数の胃袋が生じた。親個体由来の胃袋から最も離れた場所に、管溝胃袋がまず生じた後、その周囲から1 次胃袋と2次胃袋が逐次的に生じた。親由来の胃袋のアイデンティ(1次、2次、管溝)は、維持され、胃袋の再生と配置への寄与が示唆される。加えて、管溝胃袋による他の胃袋の配置制御が示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3種の刺胞動物で定量解析系が構築できた結果、本研究課題の中核目標である器官配置の多様性とその発生機構の一端が明らかとなった。タテジマイソギンチャクでは、器官配置の放射対称性と左右対称性の種内多型(昨年度出版)が発生する過程のライブ観察系が構築できた。これにより、器官配置の時空間動態が観察でき、我々の数理モデルの予測を検証できる上に、さらに、対称性を制御する構成的実験系の構築が期待される。タマウミヒドラでは、新たに数性の種内多型を見出した。ミズクラゲでは、4放射対称性が発生過程で一過的に乱れた後に回復するという新規の現象と、その分子機構を見出した。
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今後の研究の推進方策 |
ミズクラゲとタマウミヒドラの成果に関しては、23年度前半に各1報の論文投稿を目指す。 タマウミヒドラ:触手配置が植物の葉や花の器官配置に現れる螺旋(らせん)や輪生配置パターンに類似していることを、我々は見出している。これらポリプの器官配置を定量的に解析し、螺旋・輪生との共通性を明らかにする。並行して、触手配置の種内多型が現れる機構を数理モデルの解析を通じて探る。過去の研究では(Meinhardt 1993) ヒドラポリプの頭・足から分泌されるActivator/Inhibitorの濃度勾配で触手が生える場所が決まる事が示唆され、その後の多くの実験でこのモデルが支持された。しかし、個々の触手配置や多型の背景にある機構については明かされていない。私たちは触手配置の定量的解析に加えて頭・足の除去後の再生実験を通してモデルの拡張を行い、触手配置や種内多型の背景にある機構を探索する。 ミズクラゲ:ミズクラゲのポリプの触手配置では4放射相称性が一時的に乱れるが、その後に成長したポリプでは修正されることを我々は見出している。ポリプからストロビレーションを経て触手の一部がエフィラの足になる発生過程において、器官(触手や足)の配置の4放射相称性の乱れや修正が、発生ステージを超えてどのように引きつがれるかを解析する。 タテジマイソギンチャク:異なる胃袋配置を含む欠片の再生過程を定量的に比較解析し、胃袋配置ルールを解明する。これらの結果をまとめて、我々の数理モデル(Sarper 他 2021)を拡張し、多様な対称性が出現する機構を明らかにする。数理モデルの有効性を検証するために、再生途中の欠片の単離実験を行う。例えば 、管溝胃袋が他の胃袋の配置を調節するならば 、再生途中で管溝胃袋を単離すると、1次と2次胃袋の配置が変化すると予想される。これらの単離実験に基づきモデルを改訂する。
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