研究課題/領域番号 |
21K19324
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分47:薬学およびその関連分野
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
浅井 禎吾 東北大学, 薬学研究科, 教授 (60572310)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2021年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2023年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2022年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2021年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | 天然物 / 糸状菌 / 休眠遺伝子 / ゲノム再編成 / 生合成 |
研究開始時の研究の概要 |
微生物のゲノム上には、医薬品候補となり得る新しい天然有機化合物をコードする未利用な生合成遺伝子が数多く存在する。本研究では、TAQingシステムを糸状菌に最適化し、大規模ゲノム再編成を引き起こすことで休眠遺伝子を活性化する、独創的な方法の開発を試みる。本研究が達成されれば、これまで利用困難であった遺伝子由来の天然物の獲得が可能となり、医薬品開発を支える新しい化合物ライブラリーの構築が可能となる。
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研究実績の概要 |
ゲノム解読技術の飛躍的な進展は、未利用生合成遺伝子資源というポストゲノム時代の新たな天然物探索資源を我々に提示した。これらは新規天然物の宝庫として期待され、これまで様々な休眠遺伝子の覚醒法や強制発現法が試みられ、未利用生合成遺伝子資源から新しい天然物が発見されてきた。本研究では、研究協力者の太田らが開発した、高度好熱細菌由来の制限酵素であるTaqIを用いる大規模ゲノム再編成技術「TAQingシステム」を糸状菌に応用し、これまでにない革新的な未利用生合成遺伝子由来新規天然物の創製法を開発することを目的とする。 まず、モデル糸状菌の一種である、Aspergillus nidulansを用いて検討を行った。A. nidulansで利用可能なプロモータamyBプロモーターの下流に制限酵素遺伝子であるtaqIを搭載したベクターを作製し、A. nidulansに導入した。得られた遺伝子導入株について、注意深く観察しながら継代を行っていたところ、野生株とは全く異なる形態の株の出現を見出した。得られた株について、代謝分析を行ったところ、野生株とは異なる二次代謝プロファイルを示した。 次に、本現象を確かめるため、二次代謝に関するモデル糸状菌であるA. nigerを用いた検討を行った。A. nigerで利用可能なプロモーターであるamyBおよびenoAを用いてtaqIをA. niger内で発現させる形質転換株を作製し、それぞれ、数十の遺伝子導入株を取得した。それらについても、注意深く観察しながら、継代をおこなったところ、多岐にわたる形質変化株を得ることができた。この中には、野生株ではみられない、薬剤耐性菌に対する抗菌活性化合物の生産が誘導されているものもあった。今回、糸状菌に置いて、初めてTAQingシステムを利用する天然物創製法の可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、酵母で確立されているTAQingシステムを糸状菌に応用し、かつ、休眠型生合成遺伝子が覚醒され、野生株とは異なる天然物生産プロファイルを示す株を作出し、天然物資源の開拓を可能にする方法を確立することを目的としている。本法が実現できれば、1種の糸状菌から複数の天然物生産プロファイルを示す株を作出可能であり、天然物探索資源を大幅に拡大できる方法となる。一方で、これまでに、TAQqingシステムが糸状菌に応用された例はなく、実験条件など、参考にできるものはないなかで、プロトコルを作製していく必要がある。初年度では、プロモーターの検討、加温条件の検討など、実験プロトコルを詰めていくことを計画していたがが、偶然ではあるものの、比較的低温であっても、継代を繰り返すことで、多様な形質を示す株を作出できる可能性を見出せた。この方法は、再現性があり、現在、得られた株のゲノム解析を進めており、TaqIによるDNA切断との関連性を調べるところまで進展している。さらに、A. nigerにおいて、野生株の培養抽出物では、顕著な抗菌活性は認められなかったが、形質変化株の中に、グラム陽性細菌や非結核性抗酸菌に対する抗菌活性物質の生産が誘導されているものが見出された。このことは、TAQingシステムにより、休眠遺伝子に由来する天然物の生産が誘導されたことを示唆する結果であり、TAQingシステムとの因果関係を解析すべきであるが、本研究の実現を予感させる結果が得られた点は、当初の計画以上に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
初年度において、A. nigerを用いた検討により、TaqI導入株において、多様な形質を発生させることに成功した。これら、形質変化株のゲノム解析を網羅的に行うことにより、TaqIによるDNA切断に由来する現象かどうかを確認する。また、本プロトコルにおいて、温度検討やプロモーターの検討など、より効率よく形質変化株を発生させるための最適化を実施する。さらに、様々なAspergillus属菌やPenicillium属菌に本法を適応し、適応範囲を拡大する。一方で、幅広い属の菌に展開するためには、TaqIをどのように発現させるかがポイントとなる。そのための形質転換法やプロモーターの検討などを行い、より幅広い菌株に適応できる手法にする。さらに、研究が進展すれば、糸状菌に限らず、様々な生物種に適応し、天然物の多様性を拡大するために、TaqIなどの制限酵素を直接生物内に導入し、DNAをランダムに切断させる方法を用いた、天然物創製法の開発を目指す。
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