研究課題/領域番号 |
21K19404
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分50:腫瘍学およびその関連分野
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研究機関 | 浜松医科大学 |
研究代表者 |
北川 雅敏 浜松医科大学, 医学部, 教授 (50294971)
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研究分担者 |
丹伊田 浩行 浜松医科大学, 医学部, 准教授 (20336671)
大畑 樹也 浜松医科大学, 医学部, 助教 (80616459)
酒井 聡 浜松医科大学, 医学部, 助教 (50566081)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2023-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2021年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2022年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2021年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
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キーワード | 相同組換え修復 / X染色体 / 女性腫瘍 / 予後診断 / 相同組換え |
研究開始時の研究の概要 |
我々はメスのES細胞はオスに比べ相同組換え能が低いことを見出した。メス体細胞ではXistの発現によりXaXiだが、ES細胞やiPS細胞はXaXaで、ヒト乳がん細胞でもある程度の頻度でXaXaが見られている。女性においては発がん過程でリプログラミングにより両X染色体の活性化 (XaXa)が起こると相同組換え修復が抑制され、ゲノム変異が修復され難くなり、悪性度の亢進を来す可能性が高い。本研究ではX染色体性相同組換え抑制遺伝子(XHIG)を同定してその機能解析を行うことでX染色体性の相同組換え制御機構を明らかにし、新たな女性腫瘍進展の分子機構の解明を目指す。
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研究実績の概要 |
哺乳動物の体細胞では、X染色体不活性化を誘導するlncRNA Xist の発現により片側X染色体が不活性化(XaXi)している。一方でES 細胞、iPS細胞、一部の初期女性乳がん細胞などの未分化細胞は両X染色体が活性化状態(XaXa)を呈す。これまで、メスES細胞(XaXa)では、オス(XaYa)よりも相同組換え体の出現効率が低いことを経験的に認知されていた。しかしながらその実証や原因解明はなされていなかった。我々はこれまでの研究で、(1)同一親マウスから複数のオス、メスES細胞の樹立に成功し、メスがオスより相同組換え修復能が低下していることを証明している。(2)メスX染色体の活性状態をXaXiおよびXaXa状態に人為的に操作し、Nanog HR assayで評価したところ、XaXi(Dox(+))でオスと同程度にHR活性が回復することを見出している。また最近、(3) RNA-seqによる発現遺伝子解析を行い、BRCA複合体と結合して相同組換え修復を抑制的に制御しているBRCC3がメスES細胞(XaXa)で高発現していることを見い出した。 本研究では、(1)DRGFPおよび EJ5GFP プラスミドをES細胞に導入し、doxでXaXaにした時にHR能は増加し、一方NHEJ能は不変であることを証明した。(2)メスES細胞(XaXa)でBRCC3をノックダウンすると、HR能が有意に上昇することを証明した。以上より両X染色体の活性化しているメスES細胞ではHR抑制因子であるBRCC3の発現が亢進しており、それによりHR能が抑制されていることが示唆された。(3) KM-plotterを用いて女性乳がん患者の予後と、Xist、BRCC3の発現状態との関係を解析し、XaXaと関係するXist低発現が予後不良と相関し、HR低下と関係するBRCC3高発現が予後不良と相関することが判明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々はこれまでの研究で、(1)同一親マウスから複数のオス、メスES細胞の樹立に成功し、メスがオスより相同組換え修復能が低下していることを証明している。(2)メスX染色体の活性状態をXaXiおよびXaXa状態に人為的に操作し、Nanog HR assayで評価したところ、XaXi(Dox(+))でオスと同程度にHR活性が回復することを見出している。また最近、(3) RNA-seqによる発現遺伝子解析を行い、BRCA複合体と結合して相同組換え修復を抑制的に制御しているBRCC3がメスES細胞(XaXa)で高発現していることを見い出した。 本研究では、(1)DRGFPおよび EJ5GFP プラスミドをES細胞に導入し、doxでXaXaにいた時にHR能は増加し、NHEJ能は不変であることがわかった。(2)メスES細胞(XaXa)でBRCC3をノックダウンすると、HR能が有意に上昇することを証明した。以上より両X染色体の活性化しているメスES細胞ではHR抑制因子であるBRCC3の発現が亢進しており、それによりHR能が抑制されていることが示唆された。(3)がんとの関係を解析するため、 KM-plotterを用いて女性乳がん患者の予後と、Xist、BRCC3の発現状態との関係を解析した。XaXaと関係するXist低発現が予後不良と相関し、HR低下と関係するBRCC3高発現が予後不良と相関することが判明した。 現在、(1) 培養乳癌細胞株での分析、(2) 乳腺特異的Xist欠失マウスの乳癌発がんおよび進展を検証を進めている。 一方でこれまでの本研究の成果をまとめて、EMBO Reports誌に投稿し、リバイス実験を行い、発表することができた。(Tamura et al EMBO Repots 2021)
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今後の研究の推進方策 |
ヒト乳がんのin silico解析で、XaXaと関係するXist低発現が予後不良と相関し、HR低下と関係するBRCC3高発現が予後不良と相関することが判明した。しかしながら、がん細胞において、XaXaがHRの低下による遺伝子変異を増加させ、発がん率の増加や悪性化の増強に関与するかは実証できていない。今後は、培養がん細胞およびXistコンディショナルKOマウスを用いて両X染色体活性化状態と遺伝子変異、発がんおよびがんの悪性化への寄与の実証を行う。 (1) 培養乳癌細胞株での分析:ヒト女性乳癌細胞株の培養を行い、RNA-FISH、qPCRを用いてX染色体関連遺伝子の発現量を評価、また全細胞のうちどのくらいの割合の細胞でX染色体活性状態に変化が生じているかを分析する。またXistのノックダウン、BRCC3の導入を行い、HR能、遺伝子変異頻度への影響を解析する。 (2) 乳腺特異的Xist欠失マウスの発がんおよび進展の検証: K14発現細胞(皮膚、乳腺など)でCreが発現するK14-cre、Cre存在下でXistが欠失するXist-2lox、Cre存在下でp53が欠失するp53-2loxの3系統を交配し、Xist-2lox とK14-cre/Xist-2lox、また、 K14-cre/Xist-2lox/ p53-2lox等を作成する。これらのマウスにおいて生じたがんの病理学的解析を行い、発がん率、未分化度、転移浸潤性、生存曲線の解析を行う。さらにX染色体活性状態、BRCC3の発現量、WGSによる遺伝子変異率を解析する。
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