研究課題/領域番号 |
21K19406
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分50:腫瘍学およびその関連分野
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研究機関 | 京都大学 (2022) 大阪大学 (2021) |
研究代表者 |
三木 裕明 京都大学, 工学研究科, 教授 (80302602)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2022年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2021年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
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キーワード | 細胞死 |
研究開始時の研究の概要 |
悪性化したがん組織は酸性化しており、がん細胞のpH応答性は通常と大きく異なっていることが知られる。本研究では、発がん因子PRLによって引き起こされる「弱アルカリ環境で特異的に起こる細胞分裂に共役した細胞死」に焦点を絞って解析を進める。培養系の細胞を用いて細胞分裂の状況を詳細に調べ、細胞死と細胞分裂進行の関連やそのシグナル伝達の分子メカニズムを明らかにする。さらにマウスを用いた解析によって生体内での腫瘍形成におけるその重要性についても追究する。
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研究実績の概要 |
本研究では、私たちが機能解析に取り組んできたがん悪性化因子phosphatase of regenerating liver(PRL)を高発現させた細胞が、弱アルカリ環境で細胞分裂に共役して死ぬ現象にフォーカスして、その分子メカニズムや生物学的重要性を明らかにすることを目的としていた。前年度の研究成果として、PRLを高発現した細胞では細胞周期のM期での染色体整列がうまくいかないことが明らかになっていたので、その点についてさらに詳細な検討を進めた。2022年度は、まず染色体分配の進行を解析したところ、M期のanaphaseで染色体が両極に別れた際にその中間地点に染色体が取り残される「lagging chromosome」が観察された。またさらにPRLを高発現させた状態で培養を続けると、染色体数の異常な細胞の割合が顕著に増加していることも明らかになった。これらの実験結果はPRL高発現が細胞分裂プロセスの進行に影響しており、その結果として染色体数の異常が生じることを示唆している。染色体数の異常は悪性化したがん細胞の顕著な特徴としてよく知られており、PRLによるがん悪性化進展の新たな分子機構と考えることができる。PRLはマグネシウムイオントランスポーターCNNMに直接結合して機能阻害することがよく知られている。PRL高発現による細胞分裂進行異常がCNNMの機能阻害によるものか調べるため、培養細胞で内在性CNNMをノックダウンしたり、またCNNMを遺伝的に欠損するマウスの腸上皮細胞での染色体分配の状況について調べた。その結果、PRL高発現を伴うことなく、CNNMの発現抑制や遺伝子ノックアウトによっても紡錘体の配置の異常や、染色体の分配の異常が観察され、CNNMの機能阻害の重要性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、前年度の研究で見い出したPRL高発現と細胞分裂異常の関連について、さらに詳細な解析を進めた。まず、細胞周期におけるM期での染色体の整列に異常があることを明確に示すことができた。また、分裂時に染色体の一部がうまく分配されない様子(lagging chromosome)が観察されたほか、PRLを高発現させた状態で細胞を培養し続けると染色体の数が異常になることも見つけることができた。この染色体数の異常は悪性化したがん細胞の顕著な特徴の一つとしてよく知られ、がん悪性化を積極的に引き起こす原因とも考えられている。PRLががん悪性化をドライブする分子であることを考えると、その仕組みの一つとして機能する重要な分子メカニズムである可能性が高く、非常に価値の高い研究成果と言える。さらにPRLの機能阻害標的分子であるマグネシウムイオントランスポーターCNNMの発現抑制や遺伝子ノックアウトでも同様の分裂異常が生じることも培養細胞やマウス個体で確認しており、CNNM機能阻害による細胞内マグネシウム量調節の異常がこの現象の背後に存在していると考えることができる。このように今後の発展につながる重要な研究成果が得られており、本研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
上にも述べた通り、この2年間の研究成果としてPRL高発現による細胞内マグネシウム調節の異常(過剰な蓄積)が細胞分裂に大きな影響を与えていることが明らかとなってきた。マグネシウムはさまざまな生体分子と結合することでその機能を発揮すると考えられているが、どのような仕組みで細胞分裂に異常が生じているのかまったく分かっていない。今後は特に、この分子メカニズムを明らかにするためのさまざまな解析に取り組んでゆくことを考えている。具体的には、細胞内でマグネシウムの主要な結合パートナーとして知られるエネルギー物質ATPの量変動や、またそれに応じたエネルギー状態応答シグナル伝達の活性化状態などを調べてゆく。特に、ATP減少に応じて活性化されるAMPキナーゼは細胞分裂に重要な役割を果たすことがショウジョウバエを用いた研究から明確に示されており、このような候補分子などにフォーカスして研究を進めてゆく。
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