研究課題/領域番号 |
21K19414
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分50:腫瘍学およびその関連分野
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
田中 伸之 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 講師 (60445244)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2022年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2021年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
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キーワード | がん免疫ゲノミクス / 免疫微小環境 / シークエンス / シングルセル / ライトシート顕微鏡 / がん多様性 / in situ |
研究開始時の研究の概要 |
腫瘍免疫微小環境とゲノム不安定性を統合的に理解する「がん免疫ゲノミクス」研究は、バイオマーカー探索や複合的ながん免疫治療法の開発で、ポストがんゲノム時代の新しい潮流である。膀胱癌はがん免疫治療で先駆的立場にある。本研究は、多層的な膀胱癌シークエンスデータを最新のがんイメージングでin situに視覚化することで、シークエンス過程で失われるがん特有の空間情報を併せ持つ「立体的ながん免疫ゲノミクス景観」を構築するための革新的な解析プラットフォーム確立を目指す。立体的ながん免疫ゲノミクス景観は、平面では同一と思われたがん免疫ゲノミクスに「奥行き」という新しい次元を付与する。
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研究実績の概要 |
腫瘍免疫微小環境とゲノム不安定性を統合的に理解する「がん免疫ゲノミクス」研究は、バイオマーカー探索や複合的ながん免疫治療法の開発で、ポストがんゲノム時代の新しい潮流である。我々は、がん多様性を克服するロバストな研究プラットフォームとして、①最新のシングルセルシークエンスシステム、②独自の3次元イメージング法を有する。2022年度も2021年度と同様に、各プラットフォームを実装・融合させるための基盤整備に加えて、癌イメージングのモダリティとして最新な、multiplexed single-cell pathology (Vectra Polaris・Phenocycler)やVisium空間的遺伝子発現解析の実装も進めた。 主な研究実績は、①尿路上皮がんCD73陽性T細胞の不均一性解析をmultiplexed single-cell pathologyで行い、膀胱がん微小環境におけるCD73発現と腫瘍免疫浸潤の関わりを明らかにした。特に細胞間距離の解析では、腫瘍空間のCD73+ CTLとCD73+Treg細胞は、それぞれCD73- CTLとCD73-Treg細胞と比較して、同一組織内のPD-L1+細胞から離れた場所に存在しており、CTL・Treg細胞の空間分布に対するCD73発現の影響が示唆された。また、②lncRNAと癌の関連は様々な癌種で報告され始めている。我々は、新規RNA 探索システムであるハイブリダイゼーションチェインリアクション(HCR)を用いて、ハイスループットな腫瘍内lncRNAの可視化プラットフォームを構築した。さらにHCRと膨張顕微鏡法(Expansion microscopy)を組み合わせることで、回折限界を超えたlncRNA発現評価を可能とする新規イメージングを確立した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度は、がん多様性を見える化する解析プラットフォームとして、新たに①Phenocyclerを利用したmultiplexed single-cell pathologyと共に、②ホルマリン固定パラフィン包埋組織を用いた空間的トランスクリプトミクスVisium空間的遺伝子発現解析を実装した。Phenocyclerを利用したmultiplexed single-cell pathologyでは、通常の蛍光顕微鏡やVectra Polarisに代表されるスペクトルイメージングによる多重染色法を遥かに凌駕する多重染色ラウンドが可能で、細胞階層性のより深いシングルセル解析が可能になる。また、Visium空間的遺伝子発現解析は、多層的な遺伝子変異解析と組み合わせることで、トランスクリプトームと遺伝子変異情報を併せ持つサブクローンの詳細を明らかにすることが可能である。2022年度は、これら新規イメージングを臨床組織で実装し、アーカイブ検体を用いることで、臨床へ橋渡しするプラットフォーム構築を進めることに成功した。これら成果は、本研究が目的とする腫瘍空間における「立体的ながん免疫ゲノミクス景観」の解明に欠かせないツールと考える。次年度は、さらに当教室が保有する豊富な臨床サンプルで、解析・プラットフォーム整備を実装したいと考える。
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今後の研究の推進方策 |
通常のシークエンスから成るがん免疫ゲノミクスデータは、サンプル調製過程の細胞分離が不可避なため、組織空間における細胞の位置情報(不均一な細胞分布等)が失われてしまう。数字/文字列で平面的なシークエンスデータの見える化は、平面では同一と思われたがん免疫ゲノミクスに、特定のクローンや免疫細胞が生息するニッチ構造のような「奥行き」という新しい次元を付与するため、真のがん免疫ゲノミクス解明に欠かせない。 2022年度は、我々がこれまで取り組んできたスペクトルイメージングによる多重染色法に加えて、Phenocyclerに代表されるオリゴヌクレオチドバーコードに結合した抗体を用いることで、腫瘍組織をシングルセルレベルで数十種以上のタンパク質が同時検出可能な微小環境解析システムを導入した。さらに最新のVisium空間的遺伝子発現解析の実装を進め、免疫チェックポイント阻害薬下に生き残る腫瘍細胞の階層性を探索した。多重免疫染色法や空間的遺伝子発現解析による細胞局在の保持は、特定のサブクローンが存在するニッチの解明に欠かせない。進行・再燃過程の腫瘍組織では、がん特有の脈管・層構造や異質な細胞ニッチがミクロな「構造の不均一性」を生み出し、腫瘍空間の複雑化は明らかである。2023年度は、得られた「見える化」された多様性データから、尿路上皮がんにおける免疫チェックポイント阻害薬に対する耐性克服を可能とする治療標的の導出や臨床上のバイオマーカー探索を進めると共に、スクリーニングされた細胞種・候補遺伝子の挙動について、文字通りの「空間的」な情報に還元し、立体的な免疫微小環境内での発現プロファイルを、当教室の保有する豊富な臨床サンプルやマウス実験で検討したいと考える。
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