研究課題/領域番号 |
21K19447
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分52:内科学一般およびその関連分野
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
澤本 伸克 京都大学, 医学研究科, 教授 (90397547)
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研究分担者 |
綾木 孝 京都大学, 医学研究科, 助教 (60749555)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2022年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2021年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
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キーワード | 7テスラMRI / 嗅内野 / 側頭葉皮質 / マイネルト基底核 / アミロイドβ / タウ / 記憶障害 / 7 tesla MRI |
研究開始時の研究の概要 |
「アルツハイマー病(AD: Alzheimer disease)の神経変性はどこから始まり、記憶障害はどのようにして引き起こされるのか?」は病態の鍵となる問いである。この問いに対し「ADの神経変性は嗅内野など側頭葉皮質から始まり、マイネルト基底核のコリン作動性ニューロンの変性が記憶障害の発症に関わる」という考えが有力視されてきた。しかし「ADの神経変性はマイネルト基底核から始まり、この変性だけでは記憶障害は発症しない」という考えもある。本研究では、生体脳のマイネルト基底核の画像化に挑戦し、側頭葉皮質と共に経時変化を調べ、生きた患者の臨床症候を同時評価することで、論争に決着をつけることを目指す。
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研究実績の概要 |
アルツハイマー病(AD: Alzheimer disease)では剖検脳の解析に基づいて、「神経変性は嗅内野など側頭葉皮質から始まり、マイネルト基底核のコリン作動性神経に変性が進展することで記憶障害を発症する」いう考えが有力視されてきた。しかし、生前の認知機能が正常とされた高齢者の剖検脳の解析でマイネルト基底核の変性が指摘され、「変性はマイネルト基底核から始まり、この変性だけでは記憶障害は発症しない」という対立する考えも提案されている。この論争に決着がつかないのは、剖検脳の解析に基づくために症候との対応が容易でなく、経時的な変化の評価ができないためである。我々は7テスラ超高磁場Magnetic resonance imaging (MRI)を用いて、剖検脳の肉眼解析に匹敵する、あるいは上回る高感度・高解像度の画像評価を行う。本研究では、脳アミロイドβ(Aβ)陰性の健常高齢者、記憶は保たれるがAβ陽性のAD高リスク被験者、Aβ陽性の軽度認知機能障害患者を対象として、7テスラMRIによるマイネルト基底核と側頭葉皮質の超高感度・高解像度撮像と症候評価を経時的に行い、横断及び縦断評価によって、脳領域の変性と発症の相関を明らかにすることに挑戦する。神経変性疾患では、異常タンパク質が細胞間を伝播することによって変性が一定の様式で進展するという仮説が受け入れられつつある。異常タンパクを除去する根本的治療が開発できれば「変性がどこから始まってどのように広がるのか、変性の広がりと臨床症候はどう対応するのか」は治療介入時期の決定に必須の情報となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
非侵襲的脳画像の進歩によって、ヒトの大脳皮質の理解は大きく進展したが、皮質下核の理解は大きく遅れをとっている。その中でもマイネルト基底核は、認知症の主な原因であるAD、そしてびまん性レヴィ小体型認知症(DLB: Dementia with Lewy bodies)の両者で病態の鍵になると考えられているにもかかわらず、解明は進んでいない。令和3年度に我々は、7テスラMRIの強みを生かして生体脳でマイネルト基底核を計測するため、定量的磁化率マッピング(QSM: Quantitative susceptibility mapping)の開発を行った。そして、超高感度・高解像度撮像によって、ミエリンが豊富な白質に囲まれたマイネルト基底核の細胞群と考えられる構造物を検出した。さらに、先行研究で報告されている側頭葉皮質の神経変性を高感度に検出するMPRAGE (Magnetization prepared rapid gradient echo)技術 (Giovanni B et al., Nat Rev Neurol 2011)の導入を行った。今年度は、正常コントロールとして記憶検査が正常かつ髄液あるいは脳アミロイドポジトロン断層法でAβ陰性が確認されている健常高齢被験者、記憶は保たれるがAβ陽性のAD高リスク被験者、Aβ陽性の軽度認知機能障害患者を対象として撮像を行った。被験者は今後追跡して、MRIと記憶検査の再評価を行う予定としている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究計画の1年目(令和3年度)に実施した第1ステップで、最新の7テスラMRIの強みを生かした定量的磁化率マッピング(QSM: Quantitative susceptibility mapping)の開発と、MPRAGE (Magnetization prepared rapid gradient echo)技術の導入によって、生体脳の超高感度・高解像度撮像を実現した。今年度2年目(令和4年度)は第2ステップとして、臨床研究に参加した健常ボランティア及び京大脳神経内科外来にもの忘れで受診した患者のうち、正常コントロールとして記憶検査が正常かつ髄液あるいは脳アミロイドポジトロン断層法でAβ陰性が確認されている健常高齢被験者、記憶は保たれるがAβ陽性のAD高リスク被験者、Aβ陽性の軽度認知機能障害患者をリクルートして撮像を実施した。今後、これらの被験者を追跡してMRIと記憶検査の再評価を行う。本研究構想では、個体内の変性進展の時間的・空間的プロセスを、生体脳の観察によって解明することに挑戦する。神経変性の進展に複数パターンが存在するなど、剖検脳の横断的研究によって明らかにすることが困難な場合でも、生体脳の縦断的研究が解明を可能にすることが期待される。また、臨床症候の発症時期と、その原因となる神経変性の相関を明らかにするために、AD高リスクの生きた患者の生体脳の観察を行う意義は大きい。
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