研究課題
挑戦的研究(萌芽)
本研究では、20年間に亘って蓄積した連続肝生検研究から、DiSH進展を予知するバイオマーカーとなるタンパク質とmRNA・miR・lncRを探索する。探索的で芽生え期の研究提案であるが、肝臓での発現と比較しながら、血清およびエクソソーム中のタンパク質とmRNA・miR・lncRを抽出できることが強みである。抽出された候補分子の中には、肝病理変化を予知するバイオマーカーに加えて、肝病理変化と関連して変動する病態制御因子が含まれることが期待される。これら分子の検証と機能解析は、NASH病態体系を転換し、診断、病理予知、治療を変革させる潜在性を有すると考えられ、次のステップで挑戦的研究 (開拓)に申請したい。
本研究では、連続肝生検研究および糖尿病薬による介入研究から、肝病理と関連する病態と遺伝子発現プロファイルを得た。1.連続肝生検研究:臨床的にNAFLDと診断され,2回以上の連続肝生検を施行した118名を対象に、最長15年(平均3.8年)観察した。傾向分析では、初回肝生検時の年齢、AST、ALT、血小板数が、最終生検時の肝線維化スコアと相関した。一般線形混合モデルでは、糖尿病群で、肝線維化進行はHbA1cの上昇と有意に関連し、BMIの変動とは関連しなかった。既報のヒト肝臓のsingle-cell RNA sequencingから得られたクラスターごとに特徴的な遺伝子群を用いてエンリッチメント解析した。肝線維化の進行により、中心静脈周辺zone 3の肝類洞内皮細胞(LSEC)および非炎症性マクロファージに関連する遺伝子群が協調的に下方制御された。HbA1c上昇により、zone2やzone3の低酸素および酸化ストレスへの応答に関与する遺伝子が協調的に上方制御された。2.2型糖尿病合併NAFLD患者40名を対象に、SGLT2阻害薬トホグリフロジンおよびスルホニル尿素薬グリメピリド内服1年間前後の肝病理スコアを主要評価項目としたランダム化比較試験を実施した。SGLT2阻害薬は肝臓の脂肪化、炎症、肝線維化、各スコアをそれぞれ65%、50%、60%低下させた。肝脂肪化軽減には血糖低下とBMI低下がともに寄与したのに対し、肝線維化軽減にはBMIではなくHbA1cの低下が有意に寄与した。single-cell RNA sequencingに準じた遺伝子発現解析を行った結果、肝脂肪化の程度依存的にzone 3のLSECと肝細胞に関連した遺伝子発現が減弱し、炎症性マクロファージ、γδT細胞などの炎症細胞、星細胞に関連した遺伝子発現が亢進し、SGLT2阻害薬治療1年後に治療後に回復した。肝病理を予知する、あるいは関連するバイオマーカーを探索するため、肝生検サンプルおよび血液サンプルのメタボローム解析を行い、現在解析中である。
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