研究課題/領域番号 |
21K19519
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分55:恒常性維持器官の外科学およびその関連分野
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
栗原 裕基 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 教授 (20221947)
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研究分担者 |
和田 洋一郎 東京大学, アイソトープ総合センター, 教授 (10322033)
富田 幸子 ヤマザキ動物看護大学, 動物看護学部, 教授 (40231451)
中島 淳 東京大学, 医学部附属病院, 教授 (90188954)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2022年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2021年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
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キーワード | 縦隔 / 神経堤細胞 / マクロファージ / 心臓大血管 / 単一細胞解析 / 間葉系 / 発生 / 病態 / 縦隔腫瘍 |
研究開始時の研究の概要 |
縦隔を構成する間葉組織について、神経堤細胞とマクロファージを中心にその細胞起源と分化系譜を明らかにするとともに、発生過程における細胞間相互作用の推移を解析し、心大血管や胸腺、気管などの器官形成の場としての役割を解明する。さらに、胎生期縦隔間葉の構成細胞とヒト縦隔腫瘍検体の遺伝子発現プロファイルと比較し、特に原発巣不明の腫瘍を中心にその細胞起源の推定を試み、縦隔間葉系の疾患発症母体としての臨床的意義を明らかにする。本研究は、発生学において「器官発生環境」という観点から新しい領域を拓くとともに、縦隔腫瘍の発症機構の解明や治療戦略開発に発生学的基盤を提供することが期待できる。
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研究実績の概要 |
本研究では、縦隔間葉の主要な起源である神経堤細胞と胎生期にこの領域に多く分布するマクロファージを中心に、縦隔間葉系の構成細胞の起源と分化系譜を明らかにするとともに、発生過程における細胞間相互作用の推移を解析し、器官形成の場としての役割を解明する。さらに、ヒト縦隔腫瘍検体の遺伝子発現プロファイルと比較し、特に原発巣不明の腫瘍を中心にその細胞起源の推定を試み、縦隔間葉系の疾患発症母体としての臨床的意義を明らかにすることを目標としている。本年度は主に、神経堤細胞とマクロファージの単一細胞マルチオーム解析、心大血管および縦隔領域の空間的トランスクリプトーム解析、マウスと鳥類胚を用いた発生学的実験により、以下の成果を得た。 ①心臓内神経堤細胞は骨軟骨前駆細胞様の段階から、血管平滑筋と非平滑筋間質細胞に分岐し、それぞれが多様なサブセットに分化することを明らかにし、運命決定に関与する転写因子ネットワークを同定した。 ②半月弁間質や大動脈周囲の神経堤由来細胞においてマクロファージ分化誘導因子を産生する細胞群が存在し、マクロファージと共局在すること、鳥類胚による神経堤除去の実験結果などから、神経堤由来細胞とマクロファージの相互連携の存在が示唆された。 ③Csf1r-Creマウスを用いた胎生期縦隔マクロファージの単一細胞解析では、起源の多様性を示唆するいくつかのサブセットの存在が示唆された。これらの結果より、心大血管を含む縦隔領域における神経堤細胞とマクロファージの系譜を中心とした細胞間相互作用の一端が明らかになり、縦隔領域における器官形成と病態形成に関与する器官外環境を明らかにする上で基盤となる知見を得た。 ④手術検体を用いたヒト縦隔腫瘍の単一細胞解析をスタートさせ、腫瘍とその周辺細胞のクラスタリングによって細胞起源や細胞間相互作用を解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、①縦隔間葉系を構成する細胞の系譜マッピング、②縦隔間葉系における細胞間相互作用の解析、③ヒト縦隔腫瘍の細胞起源解析への応用、の3項目を掲げたが、このうち①が最もよく進み、特にWnt1-Cre;Rosa26-EYFPマウスを用いた神経堤細胞の単一細胞解析では、多様なサブセットへの分化と関与する転写因子ネットワーク、神経堤の主要な派生細胞である骨軟骨細胞との比較による心臓神経堤特有の遺伝子ネットワークの抽出が進み、現在論文投稿中である。②はマクロファージ分化誘導因子を産生する神経堤細胞のサブセットとマクロファージ間、さらには心内膜細胞から心臓マクロファージが発生分化するという最近の知見から(Shigeta et al. Dev Cell 2019)、神経堤細胞と造血系の間の新しいクロストークの存在が見出されている。さらに、心臓大血管及び咽頭領域のリンパ管が咽頭中胚葉(二次心臓領域を含む)由来であることを三重大学との共同研究で論文発表し、縦隔内の細胞連携の多様性について新しい視点が得られている。③についてはヒト縦隔腫瘍の単一細胞解析が開始し、新たな研究段階への基盤が形成されている。
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今後の研究の推進方策 |
①縦隔間葉系を構成する細胞の系譜マッピング:現在の解析をさらに進め、咽頭弓中胚葉や胸腺細胞、血管/リンパ管内皮細胞など多様な非標識細胞群のscRNAseqデータを合わせてクラスタリング解析を行って包括的な細胞系譜マップを作成し、細胞群間相互作用の存在を推定する。 ②縦隔間葉系における細胞間相互作用の解析:マウス胚、鳥類胚や神経堤細胞株O9-1Csf1r-Cre;Rosa26-EYFPマウス胚からFACSソーティングした縦隔内マクロファージとの共培養などを用いて、多様な細胞分化を制御する細胞間シグナルと転写因子ネットワークを明らかにしていく。さらに、鳥類胚の神経堤除去モデルにおいて、神経堤由来の縦隔間葉系細胞が直接あるいは他の細胞との相互作用を介して何らかの役割を果たしているかを、ウズラ胚における神経堤除去後の縦隔間葉構成細胞の分布や相互の位置関係、シグナル下流分子動態による活性化評価などにより解析する。 ③ヒト縦隔腫瘍の細胞起源解析への応用:縦隔腫瘍の手術検体からcDNAを調整し、高速シークエンサーにより発現遺伝子のプロファイリングを行う。①の単一細胞解析や10X Visium解析の結果から、その起源細胞や相互作用する細胞群の推定を試みる。
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