研究課題/領域番号 |
21K19562
|
研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分56:生体機能および感覚に関する外科学およびその関連分野
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
梶山 広明 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (00345886)
|
研究分担者 |
吉原 雅人 名古屋大学, 医学系研究科, 特任助教 (00878374)
横井 暁 名古屋大学, 医学部附属病院, 助教 (30737135)
芳川 修久 名古屋大学, 医学部附属病院, 講師 (60804747)
|
研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
|
配分額 *注記 |
6,240千円 (直接経費: 4,800千円、間接経費: 1,440千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2022年度: 2,340千円 (直接経費: 1,800千円、間接経費: 540千円)
2021年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
|
キーワード | 卵巣癌 / 腹膜播種 / 休眠 / Notchシグナル / 腹膜中皮細胞 / 細胞間クロストーク / 細胞コミュニケーション / 癌休眠 |
研究開始時の研究の概要 |
本課題は腹腔内微小環境における癌関連腹膜中皮細胞に注目して、腹腔内オカルト播種の休眠の機能および維持メカニズムを追究する研究である。休眠の維持に関する解析項目に「腫瘍-CAMのNotchシグナル」や免疫回避の第一歩として「SDF-1α制御-腫瘍関連マクロファージ」との関連を取り入れた斬新かつ挑戦的な研究である。本課題で得られた知見によって腹膜全体をターゲットとした包括的治療戦略の策定や新規バイオマーカーの同定を目指す。特に腹膜は面積的に広範囲であるため、標的にしえた場合の治療及びQOL改善の効果も大きいと考えられる。さらに本研究は卵巣癌に限らず癌性腹膜炎を形成しうる他癌にも応用可能となりうる。
|
研究実績の概要 |
現在、腹膜播種に対する有効な治療法は確立されているとはいえず、比較的、腹膜播種の発生が多いとされる卵巣癌、大腸癌、および胃癌の腹膜進展に関する分子生物学的機序については未だ不明な点が多い。よい植物が育つにはよい“種”とよい“土壌”が必要であり、腹膜播種の克服には、癌(種)だけではなく腹膜微小環境(土壌)も一体化して考える必要がある。本研究では、「土壌」となる“腫瘍の手先”にさせられた本来生体防御的であった腹膜中皮{癌関連腹膜中皮細胞: Cancer-associated peritoneal mesothelial cell:(CAM)}により、よい「種」としての腹腔内微小環境ストレスに抵抗性を有する生存能力の高い卵巣癌細胞の成立過程を検証し、CAMがどのようなメカニズムで腫瘍細胞の休眠や進化を助け、既存の抗腫瘍薬からの攻撃回避に機能しているかを解明することを最大の研究目的とした。
これまでの研究成果により、CAMに発現するNotchリガンドの一つであるDLL3を介して、一部の卵巣癌細胞にNotchシグナルが誘導されることが判明した。Notch陽性となった卵巣癌細胞は、幹細胞形質を獲得し、細胞周期の遅延や低栄養耐性などの休眠様の状態を呈することを解明した。さらにNotch陽性卵巣癌細胞はNotch陰性細胞から出現し、一方でNotch陰性卵巣癌細胞はNotch陽性細胞からも出現することが明らかとなった。またNotch陽性細胞は代謝変容を引き起こし、プラチナ製剤などへのストレス抵抗性を獲得している機序を明らかにした。さらに本メカニズムを標的とした薬剤を同定し、その効果を各種実験モデルで実証し、これら一連の成果の論文投稿を予定している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに卵巣癌腹膜播種実験モデルを樹立し、腹膜中皮細胞との共培養で生じる癌細胞の変化を解析し、Notchシグナルの関与を同定した。昨年の成果のより、卵巣癌腹膜播種巣において、癌細胞間の極性により生じたNotchシグナルが亢進した細胞では、休眠や幹細胞様の性質を獲得し、治療抵抗性を誘導していると考えられた。またNotchシグナルを阻害するγセクレターゼ阻害剤により卵巣癌腹膜播種マウスモデルに使用したところ、双方で有意な癌細胞増殖や腫瘍形成の低下が見られた。一方でγセクレターゼ阻害剤は副作用の観点から直接的な臨床応用は困難であり、別の薬剤による臨床応用が期待される。本年度は、卵巣癌腹膜播種巣において、Notchシグナルを介した癌細胞の極性が腫瘍内不均一性を標的とした薬剤の探索を行い、既存薬Xを同定した。本薬剤は前述のNotchシグナルが誘導する幹細胞様の性質を間接的に阻害することで、卵巣癌細胞の治療抵抗性を解除する性質があることを明らかにした。 実験動物モデルでも同様の効果の検証を行い、治療効果の確認を現在行っている。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度に得られた結果を元に、論文化に向けた研究をさらに推し進める。卵巣癌において腹膜誘導性のNotch依存性腫瘍内不均一性が、主に代謝変容に基づく細胞運命のダイナミクスを生み出し、卵巣癌腹膜播種の進展を促進することが示されたことから、治療抵抗性の腹膜転移のこれらのメカニズムを標的とした既存薬Xは卵巣癌の治療効果を向上させる可能性が考えられる。次年度は主に動物実験を主体とした薬剤効果の検証を行い、論文化を進めていく予定である。
|