研究課題/領域番号 |
21K19564
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分56:生体機能および感覚に関する外科学およびその関連分野
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研究機関 | 地方独立行政法人神戸市民病院機構神戸市立医療センター中央市民病院(第1診療部、第2診療部、第3診療部 (2022-2023) 京都大学 (2021) |
研究代表者 |
山本 典生 地方独立行政法人神戸市民病院機構神戸市立医療センター中央市民病院(第1診療部、第2診療部、第3診療部, 中央市民病院, 部長 (70378644)
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研究分担者 |
池川 雅哉 同志社大学, 生命医科学部, 教授 (60381943)
中川 隆之 京都大学, 医学研究科, 研究員 (50335270)
大西 弘恵 京都大学, 医学研究科, 特定助教 (50397634)
岡野 高之 京都大学, 医学研究科, 講師 (60642931)
十名 洋介 京都大学, 医学研究科, 助教 (80898073)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2025-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
6,370千円 (直接経費: 4,900千円、間接経費: 1,470千円)
2023年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2022年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2021年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
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キーワード | タンパク質 / 網羅的発現解析 / 蝸牛 / 内耳 / 発生 / 感音難聴 / イメージング質量分析 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、現在根本的な治療法のない、内耳が原因の難聴の治療法を見つけることを目的とする。内耳蝸牛が胎内で作られるとき(発生)や内耳障害がおこるときに、どのようなタンパク質が出てきたり、なくなったりしているかをイメージング質量分析装置で解明する。内耳発生や内耳障害に重要なタンパク質が解明出来たら、それらのタンパク質を加えたりタンパク質の機能をなくしたりすることにより、内耳の障害を直す方法を開発することができる可能性がある。
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研究実績の概要 |
本年度は昨年度に確立した、laser micro dissection (LMD)を用いて、蝸牛切片内のさまざまな部位から網羅的なタンパク質同定(ショットガンプロテオミクス)用のサンプルを回収するプロトコールを用いて、感音難聴の代表的疾患である加齢性難聴の蝸牛において発現が変化するタンパク質の同定を試みた。具体的には、若年から感音難聴を起こすC57BL/6マウスの6週齢(若年マウス)、6か月齢(加齢マウス)、12か月齢(頂加齢マウス)の蝸牛を摘出して、凍結の上切片を作成した。切片上の、コルチ器、血管条、ラセン神経節の部分からLMDを用いてサンプルを収集して、液相クロマトグラフィータンデム質量分析を行った。その結果、1サンプル当たり1000~2000のペプチド、100~300のタンパク質を同定した。これらのタンパク質の内、各部位で6週齢から6か月齢、あるいは、6か月齢から12か月齢にかけて1.5倍以上の減少または増加しているタンパク質を統計的に検定した。減少している、あるいは増加しているタンパク質の数は、6週齢から6か月齢では、蝸牛で50、血管条で18、ラセン神経節細胞で232、6か月齢から12か月齢では蝸牛で43、血管条で90、ラセン神経節細胞で171であった。現在、これらのタンパク質の中から、加齢性難聴の進行に関係あると考えられるものを選定中である。 2つ目の感音難聴モデルとして、抗がん剤であるシスプラチンによる内耳障害モデルを用いて実験条件の検討を行った。成体マウスにシスプラチンを投与して一定時間後に内耳を摘出し、切片を作成して、シスプラチンに含まれるプラチナをレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析で検出することにより、シスプラチンの内耳内の局在を同定することを目標とする。予備実験では、コルチ器の特定の部位に集積を認めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的は発生期マウス蝸牛及び感音難聴モデルマウス蝸牛を用いたイメージング質量分析(IMS)を含む質量分析の手法の確立を行い、蝸牛の発生および感音難聴の病態に重要な役割をはたすタンパク質や糖脂質を解明し、その成果を新規感音難聴治療法の開発につなげることである。本年度は、昨年度確立したLMDにより蝸牛内の特定の部位から解析試料を回収するプロトコールを用いて、加齢性難聴モデルと対照となる若年マウスの蝸牛の網羅的なタンパク質発現解析をショットガンプロテオミクスで行い、年齢間で、蝸牛において発現量に変化が認められるタンパク質の同定を試みた。また、内耳障害を起こすシスプラチンの全身投与後の蝸牛内での局在を詳細に解析するために、シスプラチン投与モデルのマウス蝸牛のIMSをレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析を用いて行った。その結果、プラチナの検出はきわめて精細に行えることが分かった。本年度は昨年度まで行っていた予備的実験の知見を基盤にして、具体的に加齢性難聴とシスプラチン難聴の2つの感音難聴モデルを用いたデータの収集を行った点で、極めて大きな進展が見られたと考えられる。ただ、データ解析や本解析の実行までいたることができず、本来の研究期間である3年間で結果を出ずに研究期限の延長をせざるを得なかった点、また発生期内耳の研究が進捗していない点で、研究はやや遅れていると評価することとなった。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度は令和5年度に得られた成果を結果に結びつけるための研究を行っていく予定である。具体的には、加齢性難聴モデルのショットガンプロテオミクスによる解析では、6週齢から6か月齢、あるいは6か月齢から12か月齢のマウス蝸牛の各部位(コルチ器、血管条、ラセン神経節細胞)で、有意に増加、あるいは減少しているタンパク質のうち、難聴の進行に関係しているものを、様々な統計手法とデータベースの検索を用いて検証する。また、それらのタンパク質の発現変化が実際に蝸牛で加齢とともに起こっているのかを検討するため、若年および老年マウス蝸牛における各候補タンパク質の局在の確認を、免疫染色などを用いて行っていく。さらに、可能なら、それらのタンパク質をコードする遺伝子のノックアウトマウスを入手してその表現型を検討することにより、加齢性難聴のメカニズムにせまりたい。また、シスプラチン難聴は、シスプラチンが内耳内に蓄積することによっておこるとされている。そこで、シスプラチン難聴モデルの蝸牛における、プラチナをターゲットにした局在の解析では、シスプラチンを投与後さまざまな経過時間の蝸牛を収集して、プラチナの局在を検証し、どのような速さで、どのような経路でシスプラチンが蝸牛内に蓄積されていくのかを明らかにしたい。それにより、がん患者がシスプラチン投与後に難聴が生じるメカニズムの解明、さらには難聴を予防する手段の確立を目指す。さらに、第3の感音難聴モデルとして、音響暴露モデルを用いた研究も行っていきたい。
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