研究課題/領域番号 |
21K19603
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研究種目 |
挑戦的研究(萌芽)
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
中区分57:口腔科学およびその関連分野
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
久保田 聡 岡山大学, 医歯薬学域, 教授 (90221936)
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研究分担者 |
西田 崇 岡山大学, 医歯薬学域, 准教授 (30322233)
服部 高子 岡山大学, 医歯薬学域, 助教 (00228488)
高江洲 かずみ (河田かずみ) 岡山大学, 医歯薬学域, 助教 (10457228)
青山 絵理子 岡山大学, 医歯薬学域, 助教 (10432650)
滝川 正春 岡山大学, 医歯薬学域, 教授 (20112063)
大野 充昭 岡山大学, 医歯薬学域, 准教授 (60613156)
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研究期間 (年度) |
2021-07-09 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
6,500千円 (直接経費: 5,000千円、間接経費: 1,500千円)
2022年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2021年度: 3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
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キーワード | reprogramming / iPS cell / chondrocyte / transcription factor / lncRNA / master gene / differentiation |
研究開始時の研究の概要 |
体細胞に山中4因子(OSKM) を強制発現してもiPS細胞になれる細胞は1%にも満たない。本研究ではこれを説明する仮説「OSKMは幹細胞に向かわせる駆動力であり、その力で正しい分化の道筋を遡った細胞だけがiPS細胞になれる」を提唱する。もしそうならiPS細胞になるプロセスを辿ることで多能性幹細胞から体細胞に分化する道筋や、その鍵となる遺伝子群が裏返しの形で見えてくるだろう。本研究ではこの「反転遺伝学:インバース・ジェネティクス仮説」を軟骨細胞で検証し、同時に軟骨細胞分化の鍵を握る新遺伝子を探る。こうして歯原性細胞などの体細胞分化の鍵を握る遺伝子群を見つけるための、全く新しい方法の開拓に挑む。
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研究実績の概要 |
本年度に行う研究の第一の目的は、本研究で提唱する「インバース・ジェネティクス方法論」を、軟骨細胞を用いて検証することであった。この方法論は、細胞がiPS細胞にリプログラミングする過程を解析し、時間を遡る形で細胞の分化過程を明らかにしようという試みである。初年度の研究ではまず、ヒト正常軟骨細胞が山中4因子 (OSKM) によってiPS細胞様のコロニーを形成することを、おそらく世界で初めて確認できた。さらに軟骨細胞にOSKMに加えて、軟骨細胞分化のマスター遺伝子であるSOX9を発現させることでリプログラミングを阻害することにも成功した。つまり「リプログラミング過程は分化の逆行である」という仮説の裏付けは得られていた。しかしこのリプログラミングに向かう細胞を1細胞解析で追うために必要なOSKM導入効率と、フィーダー細胞の除去方法などを初年度は得るに至らなかった。しかし本年度はOSKMに加えてさらに2因子 (OSKM+2) を同時発現する一体型山中因子発現ウイルスベクターの導入によって前者の問題を、そしてフィーダー細胞不要の培養システムの確立により後者の問題を一挙に解決することができた。これら新実験システムの下、ヒト正常軟骨を効率よくiPS細胞に導き、その過程で細胞のトランスクリプトームが刻々と変化する状況を毎日、10日間に渡ってゲノムワイドでモニターすることに成功した。その結果、OSKM+2強制発現のわずか2日で軟骨細胞のトランスクリプトームはiPS細胞に向けて大きな変化を見せ、3日目にはiPS細胞にきわめて近くなり、その後一週間をかけてiPS細胞に到達することが明らかになった。最も重要なことは、2日目にSOX9の発現が急激に低下したことで、これによってインバース・ジェネティクスを支える仮説「リプログラミングは細胞分化の道筋の逆行である」ことの直接的証拠が得られたことになる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は技術的ハードルに躓きつつも、それを解決する方法論を模索し、本年度で一気に遅れを取り戻すための礎を築いた。そして本年度は方法論をさらに改善し、細胞培養などの失敗を経ながらも1細胞トランスクリプトーム解析に進んで仮説を実証するに至った。これによってインバース・ジェネティクスの方法論の有用性が確認され、軟骨細胞の分化を決定づける新規遺伝子の候補も得られた。これだけでは初年度の目的を達成したレベルであるが、同時に軟骨細胞の後期分化を支配する因子について貴重な情報が得られた。さらに同じ方法を用いて、歯乳頭由来幹細胞の分化経路を時間を遡って追跡することにもすでに着手している。これは研究開始時には後続研究と位置付けていたものである。以上を総合的に評価すると上記のような進捗状況にあるとするのが妥当である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は開始当初2年間での完了を予定していた。しかし仮説の検証に成功した今、開発した方法論を応用した新たな研究もすでに開始していること、加えた得られた知見に基づく研究の新たな展開も可能となったことから、期間を1年延長して研究を続行することとした。今後は新方法論を応用することで、予想外の展開を研究にもたらす可能性も高い。したがって、その都度得られた結果を十分に検討し、研究計画の変更、再構築を躊躇わずに柔軟な姿勢で研究に臨むことが肝要と考えている。
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